第49話 屋上にて
あれから翌日、俺は今日も今日とで屋上で昼寝をしていた。
いい天気だ。俺は心地よい風に当たりながら、流れる雲を数えていると、気が付けばうとうととし始めた。
あ、これめっちゃ気持ちよく寝れる……俺はそう思って目を閉じた、その時だった。
なんだか屋上へと昇ってくる足音が聞こえてきた。
だが、俺はそんなことはお構いなしに眠りへとつこうとした。
その足音はどんどんと近づいてきて、音が止まるとともに、屋上の扉が開かれた。
……誰だろう……いつも開ける音を聞いているはずなのに……誰かわからない……
となると、一体誰なのだろうか。俺は気になり、ドアの方向を向いた。
そこにいたのは、優斗だった。
「よう、伊吹」
優斗は左手をズボンのポケットに突っ込み、右手を少しあげて俺にそう挨拶をした。
……なんだ?なんか優斗に用事とかあったか……?
優斗が屋上に来ることは殆どない。今までも5回きたことがあるかないかという程度だ。
じゃあなんで?
「なんかあったのか?」
俺は体を起こし、優斗に尋ねた。
「いや、今日は放課後どこにも行かないのかって。メール送っても既読にならないし」
「えーうっそだ。俺のスマホ一回も鳴ってないぞ?」
俺は優斗を疑い気味にそういった。
スマホを取り出して電源を入れ……電源を──充電切れでした……
俺は優斗に一度謝り、他に誰が来るのかを尋ねた。
「まぁいつも通り真希と八坂さんだな」
まぁいつものメンツだな……それにしてもこいつ、まだ八坂のことさん付けなのかよ……
もう少し距離感歩縮めてほしいところだ。依頼達成のためにもな。
「あぁ、わかった。放課後に下駄箱で待ってるから声かけてくれ」
俺は優斗にそういうと、優斗は「おっけー」と言い、階段で下へと降りていった。
いや、マジでこいつこの為だけにきたのかよ?
俺のこと好きすぎだろ。どんだけ俺と遊びたいんだよ……
そんなことを考えていたとき、再び誰かの足音とともに扉が開いた。
この上品な足音と扉の開け方。間違えなく天音ちゃんであろう……
「よう、天音ちゃん」
俺は先日同様、天音ちゃんにノールックで挨拶をした。
さて、俺の読みは当たっているのだろうか。
これで、たまたま静かに歩いてて上品なだけだった姉ちゃんとかだったら面倒だぞ……
「なぜ分かるのかしら?」
天音ちゃんがいつもよりも冷ややかに、俺にそう言ってきた。
よし、正解だ。俺の勘は正しいようだな。……これをもっと他のことに活かせたらいいんだけどな。
天音ちゃんはやや下を向きながら、「はぁ……」とため息を吐いて、俺の方を向き直った。
「気色が悪いわね。ただでさえ機嫌が悪いのに、もっと不機嫌にさせる気かしら?」
天音ちゃんは腕を組み、すこし俺から距離をとった。
そして、ナイフのような鋭い視線と、氷のように冷たい声で俺にそう言い放った。
……うん、いつもの天音ちゃんだ。昨日の件のせいで気分を落としてたりとか……そういうことはなさそうだ。
いや、これで安心するとか、俺って大分天音ちゃんになれてきたんだな。
「その気色わるいっていうのは俺にかそれともさっきの俺の言動かどっちだ?」
そうすると、天音ちゃんはムスッとし、あからさまにイライラしだした。
……こんな理不尽にキレられてるみたいな言い方だけど……全然俺が悪いんだよな。
ごめんよ、天音ちゃん。
「両方に決まっているじゃない。あなたとあなたの言動、両方とも気色わるいわよ」
天音ちゃんは俺のことをカッと睨んでそう言った。
天音ちゃんの言葉だけを切り取るならただのツンデレに聞こえるが……そんなものじゃないな。
嫌悪感を示す見下すような目、本気でキレているのだと思わせるような冷たい声。
ツンデレじゃなかったか……
その後俺は、「へいへいごめんなさい」と平謝りをして、カバンから弁当を……弁当……キッチンのところに置いてきたな。これ。
俺は、仕方がないので天音ちゃんと話して時間をつぶすことにした。
「まぁまぁ、そこのベンチ座れよ。ちょっとお話ししよう」
「何かしら、その胡散臭いセールスマンみたいな雰囲気は。それに、あなたに近づくのは生理的に無理よ」
天音ちゃんは、俺から離れ、屋上の柵に寄り掛かるようにして体を休めた。
……生理的に無理か……傷つくなぁ……って、天音ちゃんが俺のことを嫌ってるのも元はといえば俺のせいか。ごめんよ、天音ちゃん。
「その……昨日はありがとな。多分俺、天音ちゃんがいなきゃあの雨宮とかいう人に殴りかかってたかもな」
俺はすぐそばで何やら難しそうなハードカバーの小説を読んでいる天音ちゃんにそう言った。
確かに、昨日の俺はあのままだと殴りかかってたというのは盛ったが、ただ事では済まなかっただろう。
ここは正直に礼を言うのが筋っていうものだ。
「いいのよ、別に。あなたじゃなくても止めてたわ。それに、私のいる場で警察沙汰にされるのはごめんよ」
天音ちゃんは本から目を離さずに、俺にそう言った。
まぁ、それもそうか。天音ちゃんはあの場で止めに入らないような人じゃない。
学級委員長という立場と、目の前で自分の高校の生徒、それも同級生で面倒を見させられている人だ。なおさら止めに入らないわけには行かないだろう。
だとしても、だ。
「だとしても、感謝してるよ」
俺は、いまだに本から目を離さない天音ちゃんに向かってそう言った。




