第47話 夕飯にて
「なんだ、八坂か」
俺の目の前に座っていたのは、八坂であった。
学生カバンを握りしめ、両隣に座ってる人に迷惑をかけまいとできるだけ体を小さくして座っていた。
こういうところが実に八坂らしい。
「学校の帰りか?」
「そう、真希の委員会手伝っててね」
八坂はにこっと微笑みながら俺にそう言った。
すると、あってすぐだというのに、八坂は「あ!私の家ここの駅だから!」といって、人混みをかき分けて電車を降りていった。
……待てよ?こっちの方向って八坂の家とは逆じゃ……?
そんな考えがよぎった──といか事実なのだが……無駄な詮索は避けておこう。
この世界には知っていいことと悪いことの二つがあるのだ……
とはいったものの、やっぱり気になる。今度聞いてみよう……
俺はそう思い、先ほどまで八坂の座っていた席へと座った。
あ、シンプルに八坂のぬくもりを求めて座ったわけじゃなくて、疲れて座っただけだから無駄な詮索はよしてくださいね?
こころの中でそんな視聴者に話しかける動画配信者のようなことをしていると、もうとっくに自宅の最寄り駅についていた。
駅を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
帰ったら飯つくれとか姉ちゃんと美也に言われるんだろうな……本当、あいつらも自分でご飯ぐらい作れるようになって欲しい所だ。
俺は閑静な住宅街を進んでいき、自宅へと到着した。
「ただいまー」
「お兄ちゃんご飯ー!」
俺がただいまと言っても、それしか帰ってこないのか……
お兄ちゃん、泣いちゃうぞ本当に……せめてお帰りぐらいは言おうぜ……
「わかったって作るから、静かに座ってろ」
俺は「ご飯ご飯」と騒ぎ立てる美也を鎮め、制服のままエプロンを腰に巻いた。
美也は「はーい」と気の抜けた返事をし、テーブルに座った。
ちょっとめんどくさいこと言うが、そこは「お兄ちゃんだけにそんなことさせないよ!」って言って手伝って欲しかったな……
俺は観念して、台所へと向かい、調理器具を取り出す。
「美也、そういや姉ちゃんは?」
俺は、料理の準備をする手を一旦止め、美也にそう尋ねる。
すると美也は、手に持っていた携帯から一切視線を離さずに、俺に返答を返した。
「今日は残業だって。そういや言うの忘れてた!テヘペロ」
「『テヘペロ』じゃねえよ、危うく姉ちゃんの分まで夕飯作る所だったじゃないか」
俺は取り出していた食材を少し冷蔵庫に戻し、2人前の量に調整する。
「そういや美也、今日は部活だったのか?」
俺は、料理の片手間に美也に尋ねた。
美也は一応、弓道部に所属している。まぁ、これを知ったのもちょっと前なんだけどな。
こう言う何気ない会話が、家族とか兄弟、姉妹の絆を育んでいくんだ。俺はそう思う。
だが、美也から帰ってきたのは俺の思っていたのとは違う返答であった。
「そうだけどさお兄ちゃん、料理に集中しなよ、私も今はお兄ちゃんと話したい気分じゃないし」
……これ、泣いてもいいよな……
美也は何やらショート動画のようなものを見ながらケラケラと笑ってそう言う。
俺ってそんなどうでもいいの……?
俺はなんだかモヤモヤしながらも、料理を作る手は止めなかった。
数分後、俺は完成した料理を美也の前に並べていく。
今日は和食だ。魚に米に味噌汁、漬物なんていう感じだ。
「おー!お兄ちゃんの料理は相変わらず美味しそうだね!」
妹よそう言ってもらえて兄は感激だぞ。
さっきのと合わせてプラマイゼロだが……
俺はそのまま席に座り、美也と一緒にいただきますをしてから料理に手をつけた。
うん、我ながら美味い料理だな。感激だ。
さて、美也は一体どんなふうに俺を褒めちぎってくれるかな? 俺は美也の方を向いた。
「なんかこのお味噌汁しょっぱくない?それにお魚は味薄いし」
……こんのクソガキ、いっぺんぶん殴ってやろうかな……
もうこれ殴っても俺咎められないでしょ……俺は涙を流しながら味噌汁を啜った……
確かにしょっぱい……ってこれは涙のせいか……
「どうしたのお兄ちゃん、泣いてるよ?」
「……おい美也、そこに立て、いっぺん殴らせろ……」
美也が、自覚がないのか、純粋にそう行ってくる……
だが俺は、流石に腹が立つものがある。
いやいや、これに関しては俺なんも悪くない。なんなら俺が被害者まであるだろ。
「え?なんで?」
美也が本当にわかっていないのか、頭のネジが二個ぐらい外れたかのようにそういう。
「……お前、人が作った料理によくそこまで文句言えるな……」
俺がいつもの雰囲気とは違い、若干重苦しくそういうと、どうやら美也も焦り始めたらしい。
すると、騒ぎ立てた後、椅子からスッと立ち上がって、床にひれ伏した。
「……は?」
困惑する俺をよそに、美也は自分の額が床につくまでひれ伏し、口をひらいた。
……どうしようこの状況……まるで俺が女の子に土下座させてるみたいじゃないか。
「お兄様、毎食美也のご飯を作ってくれてるのに、あんなこと言ってごめんなさい……確かにあの発言はよくなかったです……」
おいおい、そこまでさせるつもりは……
俺が、美也の予想外の行動にあたふたしていると、玄関の扉がギイという音と共に開かれた。
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