第46話 本屋にて
俺は、公園の出入り口へと、静かに軽やかに歩いていく天音ちゃんの後を追いかけることにした。
横に置いてあるカバンを持って、天音ちゃんの方へと駆け足で向かう。
その間も、天音ちゃんは一歩、また一歩と公園の出入り口に向かって行く。
あたりは少しずつ暗くなり始め、赤く綺麗な夕焼けが俺達を優しく照らしていた。
「何よ、ついてこないでくれるかしら?また迷惑をかける気なの?」
俺が天音ちゃんに追いつき、「ちょっと待てよ」と言うと、天音ちゃんはくるりと俺の方を振り返って、怪訝な顔をした。
それよりも、今に始まってことではないが天音ちゃんの言葉が結構痛いところを突いてくるんだよな……その内、メンタルが壊れて泣き出しそうだな。
俺はゴホンと咳払いをした。
「いやいや、俺も家こっちだし。あとさっきは本当にごめんなさい」
俺は、説明と同時に、もう一度さっきのことを謝ることにした。
マジですみません。以後気を付けます。
俺がそういうと、天音ちゃんは俺から一歩引いて、軽蔑の視線を俺に送った。
え、俺なんかやらかした?
「別に私と一緒に帰ることはないでしょう?そこまでして私と帰りたいのかしら?少し気色が悪いわね」
天音ちゃんは、まるで変質者を見るような目で俺を見てくる。
それにしても、想像力豊かっすね、天音ちゃん。
まぁ、天音ちゃんがいっしょに帰りたくないのならおとなしく引くか。
「嫌ならいいんだ。それじゃあな」
「ええ。賢明な判断ね。賞賛に値するわ」
天音ちゃんはそのまま、公園から出ていてしまった。
ここで天音ちゃんと同じ道を進んで、つけていくのもやぶさかなので、どこかに寄り道してから帰ることにした。
俺は天音ちゃんの出ていった駅に近いほうの出入り口とは反対の出入り口へと足を運んだ。
もう五時の鐘が鳴り、続々と遊んでいた子供達は家へと変える準備をしていた。
俺はスマホを取り出し、ここら辺に本屋がないか調べ始めた。
丁度、読みたい漫画があったので、なけなしの2000円で買うことにした。
どうやら、ここから数分歩いたところに本屋があるようだ。
俺は、目当ての本屋へと歩みを進めた。
反対側の出口を出ると、そこには先ほどのような高級店街はなく、閑静な住宅街が広がっていた。
丁度夕飯を作り始めている頃合いなのか、辺りの家からほんのりとおいしそうな香りがしてくる。
帰ったら美也と姉ちゃんの分の夕飯を作らなきゃいけないだなんて……面倒だな。
世の主婦達はこれに加えて、掃除洗濯やその他諸々の家事もやらなくてはならないなんて……本当、尊敬するな。
俺は、ちょくちょくとマップを確認しながら進んで行った。
数分ほど歩いて、もう目の前には本屋があった。
俺は本屋の中へと入り、堅苦しい小説や参考書には興味がないので、ラノベ、漫画コーナーへと真っ先に足を運んだ。
すると、何やら神妙な面持ちで漫画を選定している人がいた。
俺は邪魔してはならないなと思い、そっと横を通り抜けると、ちらっとその人の顔が見えてしまった。
「……おまえ、宮風か?」
そう、神妙な面持ちで漫画を見ていたのは、何を隠そう腹黒副委員長の宮風であった。
俺が話しかけると、驚いたように振り返った。
そして、俺の顔を認識した瞬間、顔が曇り始めた。
……なんですか?俺ってそんなに不幸なものなのだろうか。
それか、なんかに憑りつかれでもしているのか?こんど近所のお寺にでもお払いに行くか……
「峯岸、なんでここにいるんだ?」
宮風はあたりを見回し、俺以外の知り合いがいないことを確認すると、俺のことを睨みつけながら裏の副委員長モードへと入った。
正直、この切り替えがかなり怖い。
初めて会ったあの時のことがフラッシュバックする。
「いやいや、俺も本屋に来ただけなんだが……」
俺がふと宮風の手元に目をやると、そこには数冊の漫画が抱えられていた。
恐らく少女漫画であろう。
今回は可哀そうなので、流石に触れないであげることにした。
「本屋なら君の家の近くにあるだろう?なんでわざわざこんなところに来たんだ?」
……なんでこいつは俺の家を知ってるんだ?
本当、どこまでも読めないやつだ。俺は少しのけ反り、宮風から一歩後ろへと下がる。
「クソ、折角君と出会わないようにわざわざ遠くの本屋まで来たというのに、無駄な努力じゃないか」
いや、俺にそんなこと言われましても……
それに、俺のことそんなに嫌いなのか?ちょっとそこまで言われちゃうと悲しいんだが…………
いや、今までの俺の態度と言動を考えたら妥当っちゃ妥当か。
俺は、宮風の覇気に少し圧倒されながらも、何とか立て直しを図る。
大丈夫だ。天音ちゃんに比べればかわいいものだ。
俺はそう意気込んで宮風の方を向くが……少し怖い。やっぱり話しかけるんじゃなかった。
「す、すまん。じゃあ俺はここらでお、お暇させてもらうぜ……?」
俺は少し怖気づき、噛み噛みになりながら宮風に別れを告げる。
ここ最近二人っきりで話す機会がなかったから忘れてたが、宮風ってこんなに怖いんだな……
俺が回れ右をして、宮風の横を通り抜けて帰ろうとしたとき、突如宮風に呼び止められた。
な、なんだ?まだ俺はおどされるのか……?
「このことは?」
「他言無用ですよね存じております!」
宮風が頭だけをこちらに向けて、睨みながらそう言った。
俺はというと、宮風に圧倒されてしまい、気が付けば滅多に使わない敬語が飛び出してしまった。
……ていうか、敬語を滅多に使わないとかどこのクソガキだよ。もっといろんな人に敬意をもって接するべきだな。
「よろしいだろう。また会おう峯岸君?」
「お、おう……」
俺に向かって言った宮風の言葉には、明らかに言葉通りの気持ちが入ってはいなかった。
どう考えてもただの社交辞令だ。宮風の顔と声からは、俺を心底嫌っているというような感情が感じられる。
……え、何俺?宮風に殺されでもするのか?
俺は、宮風から逃げるようにしてその場を去って行った。
本屋の外へと出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
本屋に入っていたのはほんの数分だというのに、まだまだ冬なのだと感じられる。
俺は本屋から先ほどの公園を経由し、駅へとたどり着いた。
もう、寄るようなところもないので、そのまま家に帰ることにした。
あまりにも帰るのが遅いと、姉ちゃんと美也が「ご飯ご飯!」などと、まるで態度のでかい引きこもりのように暴れるのだ。
……いやいや、そんなに文句言うぐらいなら自分で作れよ……本当に。
俺は電車のつり革を右手で握りながら、「はぁ」と深いため息を吐いた。
「……伊吹……?」
突然、俺の立っている目の前の席に座っている人に名前を呼ばれ、驚いた。
その声は、綺麗な女の子の声で、どこか聞いたことのあるような声であった。
俺はその人の顔を見ると、何やら見覚えのある人物であった。




