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第45話 最悪の出会いにて〈その四〉

「──少しは落ち着いたかしら?」


 ベンチに座って飲みものを飲んでる俺に、天音ちゃんが俺を見下ろすように問いかける。

 俺はその後、近くにある公園で頭を冷やして、天音ちゃんに事の詳細を話すことになっている。

 公園は緑に囲まれ、遊具には小学校低学年か中学年ぐらいの子供たちが群がってキャッキャウフフしているような、いたって普通の公園である。

 それにしても、あんだけ暴れて天音ちゃんに公共の場で恥をかかせてしまったのだ。

 殴られたって文句は言えない。

 俺は、とりあえず天音ちゃんとの会話のきっかけが欲しく、手に持っていたジュースに目を向けた。


「あぁ。大分な。それよりこのジュース、いくらだったか?」


 俺は、自分の手に持ってるジュースを差し出して天音ちゃんにそう尋ねる。

 そうなのだ、このジュースはなんとあの天音ちゃんが買ってきてくれたものだったのだ。

 「あの天音ちゃんが!?」なんて思ったが、流石にこの場でそんなことを言うのは失礼どころではないので心の内に抑え込む。


「いいのよ別に。今回の出来事はその……私の所為でもあるのだから……」


 天音ちゃんは、俺に雨宮を紹介したことを少し悔いているのか、いつもよりも俺に対して下手であった。

 ……ここで不気味とか、ちょっとこれはこれで怖いだなんて思う俺は人として最低なのかもしれないな。


「いや、俺こそすまん。その、あんなところで天音ちゃんを巻き込んで恥かかせちまって」


 俺は、自分の後頭部を右手でスリスリとなでながら、天音ちゃんから少し顔をそらして謝罪をする。

 ……ここ最近、人に真面目に謝ってなんかなかったからこっぱずかしいな……

 でも、今回のことに関しては俺が悪いのだ。しっかり謝っておかなければならない。


「今朝、お母さんにこう言われたのよ……」


 天音ちゃんは、何やら神妙な面持ちで話し始めた。

 俺はゴクリと唾を飲み込む。一体、天音母と寺坂家は何の関係があるのだろうか。 

 俺は不思議でたまらなかった。


「『峯岸伊吹君を必ず連れてきてここに』という風に言われて、メモを渡されたの」


 で、そのメモに書かれていた場所がさっきの高級レストランというわけか。納得納得。

 だとしても、なんで天音母が?


「それが、私もわからないのよ。なんで私のお母さんがあの寺坂家と関わりがあるのか」


 どうやら、天音ちゃんもさっぱりらしい。

 まぁ別に、深く考えることはない。逆に、寺坂家のことなんて考えたくなどない。

 

「そうか」

「じゃあ次は私の質問に答えてもらえるかしら?」


 天音ちゃんは俺の座っているベンチの右隣のベンチに座り、俺にそう尋ねた。

 いやいや、俺の隣空いてますよ?しれっと避けられると悲しいものだな。

 俺は、天音ちゃんがなんの質問をするかあらかた予想がついている。

 多分、俺と寺坂家の関係だろう。寺坂家と俺が関わりを持っていると言うことを知ってるのは、家族以外だと真希と優斗だけだ。

 

「あなたと寺坂家の関係について、教えてもらえないかしら?」


 やっぱりこの質問だったか。俺は、「はぁ」と息を吐く。

 あまり話したくないものだ。天音ちゃんに何を話そうかと考えただけでも、あの時のことがフラッシュバックし、逃げ出したくなる。

 話さなくてはならないのだが、なかなか口から出てこない。俺は口篭ってしまった。

 そのまま、少し時間が流れた。聞こえるのは鳥の囀りと元気に遊ぶ子どもの声だけ。

 俺達2人は黙り込み、天音ちゃんは俺のことを珍しくじっと見つめる。やめてくれ、そんなに見ないでくれ。

 時々聞こえる子供の声は、俺達2人とは対照的に、元気で明るいものだった。

 俺は、自分から話し出すことができず、天音ちゃんが何か話してくれることに期待していた。


 そんな時、天音ちゃんが口火を切った。


「言いたくないのなら別にいいわ」


 天音ちゃんの声は、いつもの俺に向かって言う冷たい声とは違い、若干温かみのある声だった。

 あんだけ天音ちゃんに迷惑をかけたのに、俺は黙っていていいのだろうか。 

 俺は心の中で葛藤した。

 

「いや、大丈夫だ」


 結局俺は、天音ちゃんにことの真相を話すことにした。覚悟を決め、口を開いた。

 でも、何故だか話そうとしている俺を、天音ちゃんが言葉で遮った。


「いいのよ。それにあなた、ひどい顔をしているわ。皮肉とかではなくって、本当に……」


 天音ちゃんにそう言われた。

 今の俺はどんな顔をしているのだろうか。俺には知る由もない。

 俺は一度深呼吸をした。

 俺たちがそんなシリアスめいた空気で少し気まずくなっている時、向こうで遊んでいた小学生4人の集団が、俺たちの方に来た。


「姉ちゃん達まさか『カップル』ってやつ?」


 子供の中の、いかにもガキ大将みたいな大柄な男の子が、天音ちゃんに向かってそういった。

 すると、天音ちゃんは眉を顰めた。

 天音ちゃんのただならぬ空気を感じ取ったのか、ガキ大将とそのほかの小学生達は「あ、やべ」「怒らせちまったよ」などとコソコソ話している。

 

「そこの坊や。流石に怒るわよ。訂正しなさい」

 

 先ほどまでの天音ちゃんとは打って変わり、いつも通りの冷ややかな視線と凍てつくような声に戻っていた。

 俺は不覚ながらも天音ちゃんに怖気付き、距離を取るようにしてベンチの右端から左端へとコソコソ移動する。

 バイバイ、ガキども。多分天音ちゃんに目つけられたらただじゃ済まないからな。

 俺はせめて行く末を見守ってやろうと暖かい目で見守ってやることにした。


「あ⁉︎いやその……カップルじゃないならあれか?『アベック』っていうやつか?」


 小僧よ……それはなんも変わってないぞ。それにしても、なんで今の小学生がそんな言い方知ってるんだ?

 今の高校生ですら知ってるやつそうそういないのにな。

 ……それよりこのガキ大将は「アベック」の意味を知っているのだろうか。

 知っているのならただの冷やかしだが、それにしてもすごい度胸だ。


「そろそろ怒ってもいいかしら?」


 天音ちゃんの睨む目がより鋭くなる。

 ガキ共は焦り始め、仲間内であわあわと何やら相談を始めた。

 ……いやガキらしく逃げろよ……ていうか、この場だと逃げなきゃ天音ちゃんにしばかれるぞ。

 とっとと逃げてくれと俺は思った。


「ご、ごめんなさい!じゃ、じゃあ『友達』ですか⁉︎」


 ガキ大将の口調が、タメ口から敬語へと変化した。

 いやだから逃げろって。なんでそこまでして天音ちゃんに絡みたがるんだよ。

 まさかMか?こいつらはMの癖を持っているのか?

 もしそうだとしたらかなりの英才教育だな。

 

「あなた、ちょっとこっちへ来なさい。自分がどんなことをしたのか分からせてあげるわ」


 ガキ達は気がつけば天音ちゃんから10mぐらい離れ、全員で固まって天音ちゃんの方を見ていた。

 そんな時、天音ちゃんがベンチから立ち上がり、両腕を組みながらガキ達を脅すようにそういった。

 あぁ、とうとうやってしまったか。さらばガキ共よ。多分この世に帰ってこれることはないだろう。

 先ほどまで長閑で静かだった公園は、気がつけば天音ちゃんの覇気のせいで殺伐とした戦場かのようになっていた。

 

「ひ、ひぃ!ご、ごめんなさーい!」

 

 ガキ達は天音ちゃんに向けて謝ると、一斉に走って逃げ出して行った。

 ガキ大将よ、根性と屈しない精神だけは讃えてやろう。

 ガキ共が逃げていくと、天音ちゃんが「ふぅ」と息を吐きながらベンチへと座った。


「迷惑なガキだったな。俺たちがその、カップルだなんて」


 んだこれ?なんかラブコメのワンシーンみたいで燃える。なんかいいな。

 俺は1人心の中で盛り上がっていると、天音ちゃんが疲れたような素振りをしながら、口を開いた。


「本当よ、それもそうだけれど、私と峯岸くんが友達だなんて。悪寒がするわ」


 ……そっちですか……

 天音ちゃんは俺のことを友達とすら思っていないようです。伊吹、悲しいです。

 俺は撃沈された船が沈むかのように、心が崩れていったような気がした。

 俺は、もう天音ちゃんの方を向き、口を開いた。


「じゃあ天音ちゃん、俺と友達にならないか?」

「私帰るわね。ジュースの代金は払わないでいいわよ。それじゃあ、さようなら」


 天音ちゃんはせっかく勇気を振り絞って友達にならないかと聞いた俺を無視して、ベンチに置いてあった鞄を持ち、そのまま公園の出口へと向かって行ってしまった。

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