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第44話 最悪の出会いにて〈その三〉

 俺を呼ぶ声は、かわいらしい声で、声からやさしさが伝わってくる声で会った。

 まさか、俺のことが好きだという女の子か!?と思い、後ろに勢いよく振り向いた。

 

「君が俺を呼び出した女の子かな?」


 俺は優斗と宮風をリスペクトして、少し気取ったように彼女に話しかけた。

 そのせいなのか、気味悪がった天音ちゃんが後ずさりして俺から少し離れた。

 ……それにしても、この子めっちゃ可愛い……!

 見た感じは俺と同年代だろうか。純白のドレスを身に纏い、綺麗な黒髪を風になびかせている。それに、顔もめっちゃ美人。

 こんな子が俺を好きだなんて……!


「はい。寺坂家初代当主、寺坂歳三てらさかとしぞう様の命により参りました。雨宮志保あまみやしほでございます」


 俺は、彼女が発した名前に言葉を失った。

 寺坂家とは、俺の住んでいる街ではかなり有名な大地主の家系である。

 そして、俺の元母親の苗字は寺坂なのだ。そう、俺は寺坂家の血を継いでいるのだ。

 そして、俺はその元母親と寺坂家の人間に、まぁ。いろいろと因縁があるのだ。

 なんで今更……寺坂家との交流なんて、二年前に父さんが離婚すると同時に絶縁状を叩きつけたっきりだ。

 俺は、天音ちゃんのように目つきを鋭くし、冷たい声で彼女に話しかけた。


「なにをしに来た」

 

 俺がそういうと、彼女は少し怯んで俺から一歩後ずさりをする。

 俺は、寺坂家などと二度とかかわりたくないという一心であった。

 

「ひ、ひぃ!ご、ごめんなさい!」


 彼女は少しうつろ気に、俺から目線をそらして、まるで怯えるハムスターの様だった。

 このまま怖気づいて逃げ帰ってくれればいいんだが……


「あ、あの……歳三当主様より伝言がございまして……」


 俺は、さらに腹が立った。

 何をあのクソジジイは今更言いに来たのだろう。

 俺は、少し内容が気になる気持ち半分、寺坂家なんかとは関わりたくないという気持ち半分であった。

 だが、好奇心よりも流石に嫌悪感の方が勝ってしまった。


「悪いが、俺はもう二度と寺坂家とかかわる気はない。帰ってくれ」


 俺が彼女に向かって冷たく吐き捨てると、彼女は地面に崩れ落ちた。

 ……え?俺なんかやっちゃった。あー泣いちゃってる……これ切り抜かれでもしたら俺大炎上だぞ。

 彼女は、崩れ落ちた後、か細い声で何やら話し始めた。


「この伝言を伝えなきゃ私クビにされちゃうんです!無職になっちゃうんです!」


 彼女は、泣きながら俺にそう懇願してきた。

 ……どうしたものか……こんなに言われたら無視して帰るというのもかわいそうすぎてできない……

 別に、俺が恨んでいるのは彼女ではなくて寺坂家だ。

 まぁ、聞くだけでも聞いてやるか……

 寛大で心優しい伊吹様は、伝言とやらを聞いてやることにした。


「えっと……『伊吹、寺坂家に戻ってきなさい』らしいです」


 俺は、その伝言を聞いて、俺の中の何かがプツンと切れる音がした。

 気が付けば俺は、彼女に無意識のまま圧をかけるように近づいてしまっていた。


「や、やめてください!こ、こないで……」


 彼女が両手を前へと突き出し、俺を拒むようにか細い声を上げる。

 だが俺は、それにも屈せず彼女に近づいていく。


「お前!俺が寺坂家に何をされて、どんな思いをしたのか知っててそんなこと言ってるのか!」


 柄にもない。俺は、店前で公共の場なのにも関わらず、大声で怒鳴ってしまった。

 それに、彼女は何も悪くないのだ。でも、この苛立ちを抑えきれなかった。

 俺は、歯をかみしめ、拳を握る力をさらに強くした。


「ご、ごめんなさい。知りません……」


 俺は、この言動に少し苛立ちを覚えてしまった。

 俺が、再び怒りの感情を彼女にぶつけようとすると、天音ちゃんが俺たちの間に入り、静止を始めた。


「そこまでよ。ここは公共の場、それぐらい弁えてもらえるかしら」


 天音ちゃんは俺と雨宮とかいう寺坂家の犬を交互ににらみながらそう言った。

 

「す、すみません……」

「…………わるい、取り乱した」


 俺たちは、素直に天音ちゃんに謝った。

 だけど、俺はいまだにいら立ちが収まらない。両手を強く握りしめ、今にも血が出そうな力で唇をかみしめる。

 気が付けば、周りの人は俺たちを避けて歩き、先ほどまで聞こえていた鳥のさえずりすらも聞こえなくなっていた。


「私にあなた達の事情は分からないけれど、いったん落ち着いたほうがいいのは明確よ。あなた、雨宮さんといったかしら?今日はもう帰りなさい」


 天音ちゃんは雨宮の方を向いて、静かに、落ち着いた口調でそう言った。

 その間も、俺は黙り込んで、雨宮のことを睨みつけていた。


「え、でも──」

「帰りなさい」


 雨宮が天音ちゃんに反論するが、天音ちゃんの一言と、恐怖を感じる鋭い睨み方のせいで怖気づき、そのままそそくさと俺たちの前から姿を消す。

 俺が警戒を解いて、肩のちからを抜いた時、後ろからすごいオーラと、凍てつくような視線を感じた。


「あ、あの……天音さん?」

「話はあとよ。店頭でこんなこと、迷惑極まりないわ」


 天音ちゃんは、俺の言葉をさえぎってそう言い、どこかへと歩き始めた。

 それもそうだ。店の前でこんなこと、業務妨害といっても過言ではない。

 俺は、スタスタと先を歩く天音ちゃんを追って歩き始めた。

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