第40話 登校中にて
俺は数分して起き上がり、朝食を食べた。
そして、歯を磨いたり顔を洗ったりと、朝の支度をし、もう良い時間なので学校へと向かうことにした。
俺は、1年生の頃からはいていている愛着のある革靴を、靴ベラを使って丁寧に履いた。
ドアノブに手をかけ、ぐるっと回して、扉を開けると、外から暖かい風が家の中へと吹き込んできた。
俺は、外へと出て、一度深呼吸してから歩き始める。
空気がおいしい。いや、どんな空気がおいしいかなんてよくわかんないのだが。
そもそも、俺の今いる東京の空気というのはおいしいに入るものなのだろうか。
俺は、そんなことを考えながら歩いていると、後ろからトントンと肩をたたかれた。
美也が忘れ物でも届けに来てくれたのかな、なんて思って振り返ると、そこには優斗の姿があった。
「よう、優斗。めずらしいな。お前にしては遅いじゃないか」
俺は立ち止まって、後ろにいる優斗にそう言った。
優斗はいつも、俺より十分ほど早くいくのだ。
あ、一つ言っておくが、俺はしっかりと時間を守って学校に行ってるぞ。俺が遅くて優斗にあわないとか、そういうわけではないのだ。
え?時間守る前に授業に出ろって?いいだろ別に。
「いや、ちょっと寝坊しちゃってな」
優斗は、笑いながらそう言う。
確かに、優斗の顔を見るとクマができている。
いつも顔だけには気を使っている優斗には珍しいな。昨夜、何かあったのだろうか。
「え?なんかあったのかって?いや、真希にお勧めされたアニメが思ったよりも面白くってな。見終わったのが朝の4時だったんだ」
優斗は、空に向けて大きく口を開きながら欠伸をする。
なんだ、何か悩んでいるとかじゃなくてなによりだ。優斗の悩み事を聞いたら、大体はのろけ話で気分が嫌になるのだ。
「そうそう。昨日さ、そのアニメの水着回を見てて思ったんだけどさ」
優斗は、先ほどよりもボリュームを下げ、すぐ近くにいる俺にしか聞こえないぐらいの声量でそういった。
むむ、今、水着回といったか?
俺は、先ほどまでは興味がなく、聞く気もなかった優斗の話に、「水着回」という言葉だけで耳を傾けた。
「なんだ?」
俺も、優斗のように空に向かって欠伸をしながら、優斗に聞き返す。
なんてったって、俺は徹夜だ。優斗以上なのだ。
欠伸をしたときに見えた空は、雲一つない快晴であった。
「やっぱりさ、ビキニよりもスク水のほうがいいな」
優斗は、そういって俺に耳打ちしてきた。
一体、こいつは急に何を言い出すのであろうか。
まぁ、俺もその意見には大賛成だ。やっぱり、そうだよな。
「お前もとうとうこちら側の世界に来たのか。ようこそ」
俺は、両手を広げて、少し笑いながらそう言った。
「前まではその意見に反対だったけど、やっぱりいいよな。あのボディラインがくっきりと出る形」
「うんうん。わかるわかる」
俺はうんうんとうなずいた。
どうしよう、こんな会話で不覚にもすこしテンションが上がってしまった。
そんな、男子高校生らしい会話をしながら、俺たちは学校へと向かう。
学校へとつくと、校門前には続々と、人が集まってきているところであった。
校門には、俺よりも一足先に出て行った姉ちゃんが、生徒に朝の挨拶をしていた。
「おう、伊吹と優斗か。おはよう」
俺たちが校門を抜けようとすると姉ちゃんが俺たちだけ名指しでそう呼んできた。
「おはよう姉ちゃん」
「おはようございます。綾香さん」
俺たちはそう挨拶を返し、校舎内へと進んで行く。
下駄箱につくと、ちょうどピーク時なのか、たくさんの人で溢れかえっていた。
こういう混んでるところで、周りのことを気にせずにずっとくっちゃべって居座る奴いるよな。マジで邪魔だから早くどいてほしいわ。
俺は、人混みをかき分け、自分の下駄箱へとたどり着いた。
靴を脱いで、しまおうとすると、隣にいた人と目が合ってしまった。
「あ!」
その正体は、八坂であった。八坂は俺に気づいて、「あ」と声を上げた。
丁度、八坂も靴を脱いで下駄箱にしまおうとしていたところだった。
「おはよう、伊吹」
八坂は、微笑みながら俺にそう言ってきた。
「あぁ」
俺は適当に返事をし、靴を下駄箱にしまう。
だが、八坂は、俺の返事に納得がいかなかったらしい。
「『あぁ』って何!おはようって言われたらおはようで返すのが普通でしょ?」
八坂は、漫画でしか見たことないような頬をぷくっと膨らませ、俺に怒ってきた。
「あぁ」
俺が、先ほどと同じように適当に返事をすると、「もういいよ!」と言って、階段を上って上へといってしまった。
流石に、あの返事はそっけなさ過ぎたか、と反省しながら、俺は屋上へと向かって行く。
優斗は先に上ってしまったのか、気が付いたらいなくなってしまっていた。
親友のことぐらい待っててくれよ。
今日は何をしようかと想像を膨らませながら登って行く。
まぁ、結局いつも寝てしまって、なんもしないんだけどな。
俺が階段を上っていて三階と二階の踊り場に差し掛かった時、前から来た誰かにぶつかってしまった。
「あ、すみませ──」
俺が顔を上げると、そこには見覚えのある人物がいた。




