第38話 続・下校路にて
「私も最近ここに引っ越したのよ……」
天音ちゃんは少しうつろな表情をして、俺にそう告げた。
……まさか、天音ちゃんがご近所さんてことか⁉︎
もしかしたら、天音ちゃんと一緒に仲良く並んで学校に行ったり……なんていう青春ラブコメディ的な展開があったりするのだろうか?
「はぁ……あなたと近所だなんて最悪だわ。やはり、この引っ越しは無しにしてもらえるよう両親に頼みこもうかしら」
なんだかいつにもましてあたりが強いような気が…………
まぁそうだろう。そもそも、自分に迷惑をかけてきて、あまりよく思っていないような奴が近所なのだ、確かにそれは嫌だろう。
俺も、小学校の頃に嫌いな奴が隣になって死ぬほど気分が落ちたんだよな。
天音ちゃんには同情するぜ。
俺はこころのなかで、うんうんとうなずいた。
「なんだか気分が悪くなってきたわ、私は先に帰るからあまり近づかないでくれるかしら?」
「酷いな……わかったよ、そこのコンビニで時間潰してから帰るから、先に帰ってくれ」
俺がそういうと、天音ちゃんはニコっと少し微笑んだ。
なんだ、天音ちゃんの微笑みとか嫌な予感しかしないぞ……たいてい、俺の悪口が飛んでくるんだが……
今回はどうだろうか。
「あら、意外とすんなり納得したわね。じゃあ、会いたくないけれどまた明日」
天音ちゃんはそう言って出口から出て住宅街方面へと出ていった。
いつもよりは軽めな悪口で、俺は少し感動した。
……悪口を言われて感動するとか気持ち悪すぎるな……
ここで無視して後をついて行ったら多分、天音ちゃんに締め上げられるので、俺は駅に併設されているコンビニの中へと入った。
コンビニにはそこそこの人が入っており、店員さんはレジ業務に勤しんでいた。
俺は入り口から向かって右側にある雑誌コーナーへと行くことにした。
コンビニで暇を潰すとしたら、やはり雑誌コーナーでの立ち読みだろう。
俺は、雑誌コーナーから一冊の本を取った。
表紙を見てみると、ファッション誌か何かであった。
ペラペラっと捲って見たが、こう言うファッションには疎いしあまり興味がないので、やっぱり棚に戻す。
少し小腹が空いたので、何か買おうと思い、コンビニ内の徘徊を始めた。
少し歩いて、俺が立ち止まったのはおにぎりコーナーであった。
俺はおにぎりの棚から梅おにぎりを一つ取り、隣のドリンクコーナーからは緑茶をえらんで、レジへと向かった。
「これ、お願いします」
「はい」
俺はレジに緑茶とおにぎりを置いた。
そして、ふと店員の顔を見てみると、そこには見慣れた人物がいた。
「……おい優斗、なんでこんなところでバイトしてんだよ」
レジ打ちをしていた店員は、まさかの優斗であったのだ。
優斗は、いつもの営業スマイルで俺に接してきた。
なんだか、こいつを見てると寒気がしてくるな。
「お、伊吹じゃん。どうしたの?こんな時間に軽食を取るなんて」
優斗は、俺の商品をスキャンしながら俺にそう言ってきた。
ていうか、なんなんだよお前は、俺の食生活を把握してるっていうのか?
「俺の食生活はいいから、なんでお前こんなところでバイトしてるんだ?今までのカラオケはどうしたんだ?」
俺は優斗にそう尋ねた。
実は、優斗はつい最近までカラオケでバイトをしていたはずなのだ。
少なくとも、先週はカラオケにいたはずだ、なのに、なぜコンビニにいるのか、俺は疑問に思った。
「いや、それがな。この前のカラオケはクビになっちゃってな」
優斗はまるで冗談を言っているかのように笑いながらそう言った。
いやいや、笑い事じゃないだろ。一体何をやらかしたんだ?
「理由は聞かないでもらえると助かるかな」
「お、おう……」
俺が理由を尋ねると、優斗はそう言って言葉を濁した。
なんなんだよ、気になるだろ⁉
だが、俺は人のプライベートを詮索したりしない善良な人間なのだ。
「じゃあ聞かないでおいてやるよ。ほれ、代金」
俺はそう言って、優斗の手に小銭を置いた。
「はい、ちょうどお預かりします。ありがとうございました」
優斗が綺麗にお辞儀をした。俺はそんな優斗を横目に、コンビニを後にした。
それにしても、やっぱり優斗のクビの原因が気になる。どうしたものか、また後日聞いてみることにするか。
さっき言っていたことと矛盾している気がするが……しかたない、好奇心というものは抑えることが難しいのだ。
俺はレジ袋を下げながら、家への帰路へとついた。




