第37話 下校路にて
「じゃあ今日はここまでだ。皆の衆、帰るが良い」
すべての係を決め終わり、姉ちゃんの一言によって全員が帰宅を始めた。
俺も机の横にかかっていたカバンを取り、姉ちゃんの方へと向かった。
「……なんだその手は……」
俺は姉ちゃんの目の前に右手を差し出した。
「いや、ゲーム返してくれない?」
「返すわけないだろ」
姉ちゃんはあきれ顔で腰に両手を当てながらそう言った。
ひどい!折角の少ない小遣いを貯めて買ったってのに……
俺はそのまま粘ってみたが、結局は姉ちゃんに追い払われて教室を後にした。
「いやー、芽衣奈もあんな奴の世話係とかかわいそー。いやなら先生にちゃんと言うんだよ」
俺が教室を出ようとすると、後ろからまたもやあの陽キャたちの声が聞こえた。
ああいうやつらって本当なんなんだろうな。人をけなして幸福感を得るって。
「い、いやぁそんなことないよ……」
八坂がまたもや少し不安げで自信なさげにそう言った。
なんだか、ここまでくると八坂に申し訳なくなってきたな。
俺は絡まれるのも面倒なので教室を後にする。
今後も絡まれなきゃ良いけど……
でも、こういうやつらは大体今後も絡んでくるんだよな。本当、面倒くさい。
俺は階段を下り、下駄箱へと向かう。
窓から差し込む光のせいで、階段が少し照らされ、なんだか幻想的な雰囲気になっていた。
下駄箱へと行くと、一足先に降りていた天音ちゃんがいた。
「よう、天音ちゃん」
「…………」
……無視ですか。
俺が声をかけたのにも関わらず、天音ちゃんは無言で靴を履き替えているだけだった。
天音ちゃんはこうなったらこれ以上話しかけても無駄なので、俺も静かに靴を履き替える。
最近買ったばかりで、まだ履きなれていない靴に何とか足をねじ込む。
俺が靴を履いている間に天音ちゃんが先に行ってしまった。
「じゃあね、天音ちゃん」
俺が珍しくやさしめに天音ちゃんに挨拶するが、それでも天音ちゃんは終始無言であった。
何かしたのか、と思ったが、やはり思い当たる節はない。
まぁ、明日になったらいつも通りになっているだろうと思い、俺も天音ちゃんの後を追うように学校を後にする。
いつも通りの道を歩いていると、見慣れた人影があった。
それは、天音ちゃんであった。
天音ちゃんの家は反対方向のはずだ、なぜここにいるのだろうか。俺はそんな疑問が頭をよぎった。
「天音ちゃん?」
俺が後ろから声をかけると、天音ちゃんは振り返ったりするわけでもなく、まっすぐ前を向いて歩き続けていた。
いや、これ何かしたとかじゃなくていつも通りの天音ちゃんだ。
多分、いつもツンだろう。
俺は、そのまま天音ちゃんを視認できるぐらいの距離を取りながら歩き続けた。
少し歩き続けて、電車へと乗車した。
だが、天音ちゃんの家へと向かう電車はこちら方面ではない。おそらく本屋にでも行くんだろうと思う。
電車内にはそこまで人はおらず、俺と天音ちゃんの乗っている車両内にも10人ほどしか乗っていなかった。
電車はそのまま次々と駅に到着していき、気が付けば本屋のある駅へと来ていた。
俺はてっきり、そこで天音ちゃんが下りるのだと持ったが、天音ちゃんは扉が閉まっても電車の座席に座っていた。
そして、電車の扉が閉まって動き出したとき、天音ちゃんが読んでいたハードカバーの本を閉じ、静かに立ち上がった。
なぜ立ち上がったのだろうと考えていたら、天音ちゃんが一歩、また一歩とこちらに向かって近づいてくる。
「峯岸くん、なんでついてくるのかしら?」
天音ちゃんは、席に座っていた俺の目の前に立ちはだかり、腕を組みながら冷淡にそう告げた。
いや、ついてくるも何も、俺の家にむかってるだけなんだがな……
「いや、こっちが俺の家の方向だし」
俺がそういうと、天音ちゃんは珍しく自分の非を認め、「あらごめんなさい。あなたと一緒の空間にいるのが耐えられなくって。隣の車両に行ってくるわ」と言った。
皮肉どころか悪口が飛んできたが、俺に謝ってくれただけかなりの進歩であろう。
俺はそのまま二駅ほど乗り、自宅のある駅へと到着した。
扉がアナウンスともに開き、俺は電車から下車した。
のどが渇いたと思い、俺の方から向かって右側にある自動販売機の方に向くと、ある人と目が合ってしまった。
「…………」
俺はそのまま固まった、なんせ俺の目線の先、俺と目が合ったのは天音ちゃんだったのだ。
俺は、なんで天音ちゃんがこの駅にいるんだ?と思い、ジュースを買うためにポケットから出していた財布をもう一度しまい直し、天音ちゃんの後を追うことにした。
おいおい、このままじゃさっきの天音ちゃんの言ってたことが本当になるじゃないか。
でも、背に腹は代えられん。好奇心というのは人間の中でもかなり大きなものなのだ。
そのまま後を追い続け、改札へと来ていた。
天音ちゃんが改札機に定期券をかざし、俺もその後を追う。
俺が改札機を通りぬけたとき、天音ちゃんが突然立ち止った。流石に怒られるか……
「いい加減ついてこないでくれるかしら?そろそろ我慢の限界なのだけれど」
「いや、だから俺の家もここの駅の最寄り駅なんだって」
俺がそういうと、天音ちゃんの顔が少しずつ暗くなっていった。
そして、天音ちゃんが口を開いた。




