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第34話 実行委員会にて〈その一〉

 その日の放課後。ぐっすりと寝ていた俺はすっかりと実行委員会があることなど忘れていた。

 今日の夕飯は何にしようか。などと考えていた。

 その時、まるで道場破りかの如く怒号とともに屋上の扉が開かれた。


「伊吹!起きろ!委員会だよ!」

「うぁ!」


 突然の大声に驚いて飛び起きた俺は、びっくりしてベンチから落ちてしまった。

 やっぱりベンチなんかで寝るもんじゃないな。心地よさよりもリスクの方が優ってしまう。 

 やはり、床に段ボールを敷いて寝るのが最適解だな。

 頭を摩りながら起き上がると、目の前にいたのは仁王立ちで立っている八坂だった。


「やっぱり寝てた。わざわざ立ち寄ってみて正解だったね」

「いててて……なんだ八坂かどうかしたのか?」


 俺が八坂にそう尋ねると八坂は「はぁ……」と、大きくため息を吐いた。

 どうした?俺がそんなに醜かったのか?……なんて考えてしまうのは天音ちゃんによる日常的な暴言のせいなのかね……


「今日は委員会だって言ったでしょ?もう忘れたの?」


 そう言えばそうだったな。

 昼休みに天音ちゃんと宮風の前に八坂が来ていたな。後の宮風の方のインパクトが大きくて覚えてなかったな。

 俺は「ちゃんと覚えてたって」などとその場しのぎの嘘を吐き、横に置いてある鞄を持つ。

 うわ、この鞄重すぎだろ。やっぱりゲーム機2つに漫画10冊とかいらんか。ほとんど寝てるだけだったし。

 

「絶対嘘でしょ」


 八坂が、目を細めて、いかにも怪しんでいるような表情で俺の顔を覗く。

 なんだろうこの感じ、いかにもラブコメしててなんかいいな。

 

「いやいや、本当だって。ほら、よく先生がやる『私は〇〇さんを試したんですよ』ってやつ」

「それ、大体嘘のやつじゃん」


 八坂はそう言って先にドアへと向かっていった。

 あの、「〇〇さんを試したんですよ」ってやつ、小学校のときはやられたら結構むかついてたな。

 先生は「間違えてたところを教えてもらったらありがとうって言え」とか俺達に散々言ってくるのに、自分が指摘されたら誤魔化すとか。

 こういう、自分の失敗は誤魔化していくのを大人ってやつなんだと、俺は小学生ながらにして思ってたな。

 まぁ、高校生になって考えたらこんなことに腹を立ててたのがバカらしくなって来たんだがな。


「早くいくよ」

「まぁ待てって」


 俺は使いもしないのになんとなく持って来ていた体操袋を持って、屋上を後にしようとしていた八坂の後を追った。

 使いもしないのに体操着をなんとなく持ってくるって、今考えたら死ぬほどキモいな。


「なぁ八坂、なんでこう毎度毎度と俺のことを呼びに来てくれるんだ?」


 俺は、階段を歩きながら八坂にそう尋ねた。 

 よくよく思えば、別に俺が遅れようと八坂は別に被害を被らない。なんなら、やる気のないやつが消えて一石二鳥というやつだ。

 それなのに、わざわざ呼びに来てくれるだなんて……ひょっとして!恋⁉︎


「あー……言っていいのかわからないけどね、峯岸先生から絶対に伊吹を連れてこいって命令されててね……」

 

 八坂は少し自信なさげにそう言った。 

 やっぱり姉ちゃんの手が回っていたのか……さらば俺の恋……いや、さらばどころか始まってすらいないか。


「ちなみに、俺を連れて行かないと八坂には何が待ってるんだ?」

「なんでそんなボス部屋のドア前みたいな言い方なの?私に待ってるのは謎の補修だけだよ」


 少し落ち込み気味に八坂はそう言う。

 無罪の生徒に補修を強制とかどこの自称進だよ。職権濫用だろそれはもう。

 それにしても、やはり八坂はこちら側の人間だな。その比喩、ダウトだ。


「ほんと酷いな……今日の夕飯はピーマン炒めだな。まぁ、大変だろうが頑張れよ」

「頑張るのは伊吹だからね⁉︎」


 八坂はハイテンションにツッコミを入れ、ケラケラと笑った。

 何これ、超青春してるじゃん。俺もとうとう陽キャになったのか?明日から「ウェーイ」とか言ってみるか。


「はぁ……なんで私はこんな目に……」


 八坂が肩を落として、先ほどの屋上の時よりも深くため息を吐く。

 確かに理不尽だな。天音ちゃんもこんな気持ちなのだろうか。


「俺の姉ちゃんが理不尽にごめんな。後で謝らせておくから」

「いや、謝るのは伊吹だよ⁉︎」


 俺達はそんな風に談笑しながら、廊下を進んでいく。

 窓の外は日が沈み始め、差し込む光によって周りが少し赤く染まっていた。

 綺麗な夕焼けだな、と思いながら歩いていると、誰かに前から声をかけられた。


「あら、八坂さん。こんにちは」

「あ、瀬戸さん。こんにちは」


 八坂がな。

 声をかけて来たのは、何枚かの書類を持っている天音ちゃんであった。

 

「よう天音ちゃん」

「……八坂さん、これから委員会よね?」


 天音ちゃんは、俺の方を見向きもせず、八坂との話を続けた。

 無視ですか、さすがブレないっすね天音さん。

 

「そうですけど……?」

「じゃあ、峯岸先生に遅れると伝えてくれないかしら。社会科の石川先生に書類を運ぶように頼まれてしまってね」


 天音ちゃんがそう言うと、八坂は「了解です!」と言って、そのまま天音ちゃんと別れた。 

 そして、終始俺に対して天音ちゃんは一切触れないのであった。

 正直、皮肉とか悪口とかよりも、無視が1番効く。

 せめて一言ぐらい欲しかったな、などと少し落ち込み気味になりながら俺は委員会の集合場所の教室へと、八坂と向かった。

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