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第30話 宮風陥落作戦にて その七

「峯岸くん、ちょっときてくれる?」


 楽しく会話していた俺達のところに乱入してきたのは、天音ちゃんだった。

 少し困ったような、腹を立てているような雰囲気がした。


「どうした?」

「良いからちょっときてくれる?」


 天音ちゃんは俺の質問にも答えず、少し苛立った様子で俺を焦らせた。


「じゃあちょっと行ってくるわ。美也、宮風と仲良くしてろよ」

「う、うん……?」


 俺はそう言い残し、先を急ぐ天音ちゃんの後を追った。

 一体何があったのだろうか、天音ちゃんが俺に相談事なんて……なんか嫌な予感がしてきたな。

 ここのファミレスは、ショッピングモールなどに併設されているタイプのファミレスなので、天音ちゃんは俺を連れてファミレスから少し離れたところにある人影のない通路の方へと連れて行った。


「で、どうしたの?天音ちゃん」


 まさか……抜け駆け⁉︎合コンとかで「この後一緒にホテルいかない?」的な⁉︎

 まさか、俺は天音ちゃんに誘われてんの⁉︎お持ち帰りされちゃった?

 俺がそんな愉快な思考を巡らせていたら、思いため息とともに天音ちゃんがくるりと俺の方を振り向いた。


「で、なんで私はここに連れてこられてるの?峯岸くん」

「ここって?」

「あなた達の集まりのことよ」


 なんでって……正直に言えるわけないだろ。

 言ってしまえば美也目線、天音ちゃんは恋敵だ。恋のライバルだ。何それ、少女漫画っぽい羨ましい。

 まぁ、別に天音ちゃんは恋敵どころか、そもそも宮風のことを好いてすらいないんだがな。

 まぁ、何はともかく天音ちゃんに美也のことを話すわけにはいかないのだ。

 

「それは普通に俺が天音ちゃんと遊びに行きたい所存で……」

「何よそれ、寒気がするわ。冗談でも人を傷つけるようなことを言っては駄目よ、峯岸くん」


 俺が天音ちゃんと遊びたいって言ったら人が傷つくのかよ。

 それにしても、流石に厳しい言い訳だったか。

 天音ちゃんはずっと不機嫌そうにしていた。


「仕方ないわ、あなたの言い分を認めてあげましょう」

「え⁉︎天音ちゃんが認めるとかおかしいだろ。お前何者だ⁉︎」

「前言撤回、やはりあなたのことなんて認めないわ。早く本当のことを吐きなさい」


 吐くもなにもこれが本当なんだがな……

 それにしても、天音ちゃんはなんでこんなに誘った理由を聞きたいんだ?

 

「なんでそんなに誘った理由を聞きたいんだ?」

「決まってるじゃない。理由を聞いて、二度と誘われないよう策を練るのよ」


 そんなに俺らのこと嫌いなのか……?あ、「俺ら」じゃなくて「俺」か。

 天音ちゃんは、俺の方をまっすぐと見て、何食わぬ顔でそんなことを言った。

 それ、天音ちゃん慣れしてる俺じゃなかったら結構なダメージだぞ。

 実際のところ、去年の天音ちゃん初対面の俺だったらショックすぎて軽く2日は寝込んでるはずだ。


「で、なんなの?私を誘った理由って」


 どうしたものか。一体この場合での言い訳は何が正解なのだろうか。

 俺は姉ちゃんとの喧嘩で培った言い訳テンプレートを頭の中で思い浮かべる。

 どうしたものか、当てはまるものが何もない。こういう時の最適解というものがある。


「あ、いててててて。すまん天音ちゃん、ちょっとトイレ行ってくるわ」

「ちょっと!まだ話は──」


 俺は天音ちゃんの静止を振り解き、隣の通路を入って右折したところにある男子トイレへと駆け込んだ。

 ふぅ、危なかった。いや、これもかなり危ないか。もしもトイレを出て横見たら天音ちゃんがいるとかいう恐怖展開もある。

 まぁ、そんなこと考えたところで仕方がないので、適当に時間を潰してからファミレスへと戻るとするか。


 そういえば、一つ疑問に思うことがある。

 「なぜ天音ちゃんはここまで俺を連れてきたのか」だ。正直なのところ、別にファミレスとか行きや帰りの道とかでよかったんじゃないのか?と、俺は思う。

 一体なんで天音ちゃんが俺のことをここまで連れてきたのだろうか。

 やっぱりお持ち帰り⁉︎いや、それだけはないな。


 そんな思考を巡らせているうちに、時間は刻一刻と過ぎていった。


────────


 そろそろ良いだろうか。

 トイレに入ってから大体10分ぐらいが過ぎた。あまり人通りの多いエリアではないので入ってくる人がいなくてよかった。

 俺は扉をサッと開け、一応手を洗ってからトイレを後にした。流石にもう天音ちゃんはいないよな?俺はトイレの出口を右左と見回した。

 右には壁、左にも壁、前方にも天音ちゃんの姿は見えなかった。よし、大丈夫そうだ。

 天音ちゃんがいないことを確認した俺は、安心してハンカチで手を拭きながらファミレスへと戻る道の方へと向かった。

 道中、天音ちゃんの姿は見えなかった。どうやら、一足早くファミレスへと戻っていったのだろう。

 俺は折角なので、近くの100円均一店に入ることにした。


「………………」


 店に入ると、衝撃の光景が目に入り込んできた。

 見慣れた黒髪、きちっと整えられている制服、そして、何よりも目立っているのが綺麗なお顔。

 そう、我らの瀬戸天音さんだったのだ。

 天音ちゃんは何やらおもちゃコーナーをまじまじと見ているようだった。自分用なのか、はたまた幼い兄弟用なのか。天音ちゃんに兄弟いたっけ?


 何はともあれ、またもや絡まれるとかなり面倒なので、俺は回れ右をして、ファミレスの方へと戻ることにした。

 未だに抱えている疑問はあるが……まぁ良いだろう。ていうか、わかったところでどうせ面倒なだけだからな。

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