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第26話 宮風陥落作戦にて その三

「伊吹、言われた通りに宮風さん連れてきたよ」


 東校舎の階段から、真希が宮風を連れて降りてきた。

 宮風は、俺を見るなり怪訝な顔をし、真希に向かって「なんでこいつがいるんだ」と小声で言った。

 ……まさか真希、俺が来るってこと言ってなかったのか。

 やっぱり、この人数で全員集合すると、いつもより多いな。

 俺は当たりを見回し、人数を数えてみた。4、5、6、7……あれ?なんだか1人多いな。

 俺、真希、優斗、美也、八坂に宮風。予定してたのは6人のはず……


「って!天音ちゃん⁉︎」


 真希の隣には、天音ちゃんの姿があった。

 なんで天音ちゃんが?どう考えても真希と宮風が連れてきたんだろうが、なんでだ?

 まさか、宮風が男気を出して天音ちゃんを誘ったのか?にしても、今日じゃないだろ出す時は……


「最初に誘ったら宮風さんが断ったから、『瀬戸さんもくるよ』って言ったの。そしたら食いついていて。まぁ『実は瀬戸さんなんていませーん』って嘘にするのも良くないから瀬戸さんを連れてきたの」


 「連れてきたの」じゃねぇよ。それ以前に、どうやって連れてきたんだよ。あの天音ちゃんを連れてきた方法を教えてほしいわ。


「ちょっと、私は峯岸くんがいるだなんて聞いてないわよ。やっぱり帰ろうかしら」


 そう言って、下駄箱から靴を出して帰ろうとした天音ちゃんに、真希がささっと近づいて、天音ちゃんにこっそりと耳打ちした。


「し、仕方ないわね。ついていってあげるわ」


 ……一体こいつは、天音ちゃんのどんな秘密を握っているんだ?もうこえぇよ。

 あの天音ちゃんが従順になるだなんて。


 ちなみに、真希には宮風を誘うべく、仕方がないので美也に許可を取って事情は説明してある。

 本心なら、今にも止めたいが、金をもらったからには仕方がないな。


「じゃあお兄ちゃん。どこに行くの?」


 どこに行くかって?まぁ、無難にファミレスとかだろう。別に他に行くところもないしな。

 カラオケも考えたが、7人だと流石に狭いからな。大部屋も予約制だし。


「うーん、ファミレスだな」

「はぁ?」


 なんだ妹よ、俺の提案に文句があると言うのか?

 提案してやってるだけありがたいと思え。



 と言うことなので、俺たちは駅前のファミレスに行くことにした。

 今は、学校から駅までの道のりを歩いているところだ。

 それにしても、7人となると、やっぱり多いな……いつもの4人に比べたら


「なんでファミレスなのかな〜お兄ちゃん」

「いいだろファミレス、お前も同級生の子と一緒に行くだろ?」

「行くけどさぁ〜」


 美也はなんだか文句がありそうだが……まぁいいだろう。

 俺はさっきから不機嫌で、そろそろ俺に殴りかかってきそうな勢いの天音ちゃんに話しかけた。


「珍しいね、天音ちゃんが来るなんて」

「……」


 天音ちゃんは無視を決め込んでいた。横に並んで歩いている俺には目もくれず、ただただ前を向いて歩いていた。


「あの……天音ちゃん?」

「何よ鬱陶しいわね」


 俺がしつこく話しかけると、天音ちゃんはくるっと俺の方を振り向き、怪訝な顔で反応した。

 

「いや、なんで天音ちゃんが珍しくついてきたのかなーって」


 天音ちゃんは、放課後になると大抵は、1人で速攻帰るというのが日常らしい。まぁ、真希による情報なんだがな。俺が1番不思議に思っているのは、どうしてそんな天音ちゃんがついてきたのか。一体真希に何を吹き込まれたのか、だ。


「別に、ただの気分よ」


 絶対嘘だな。俺はそう確信した。

 でも、こうなった天音ちゃんは絶対に自分の考えを曲げない。多分、天音ちゃんの口からついてきた理由が聞き出せることはないだろう。

 そう言うことなので、俺は天音ちゃんをここに連れてくるために何かを吹き込んだ張本人に話を聞くことにした。


「なぁ真希、いいか?」

「なに?今みんなと話してたんだけど」


 先頭の方で、俺と天音ちゃんを除く他5人が話しているところに割り込んで、無理やり真希を引っ張り出してきた。


「なぁ真希、頼む。天音ちゃんをうまく丸め込んでここに連れてきた方法を教えてくれ」

「えーどうしようかな」


 俺の話を聞いた真希は、小悪魔的な笑みを浮かべて、俺の方を見てきた。

 まさか教えてくれないとかないよな?ここでやり方を知ったら、俺は天音ちゃんにあんなことやこんなことも……


「じゃあ、今日のファミレス代、伊吹が私の分を奢ってくれるならいいよ」


 奢りか……美也からもらった1000円と、元から財布に入ってた5000円があるけど……これは今週末から販売開始の限定グッズを買う用の資金だからな……


「仕方ない、2000……いや1500円以内だったら奢ってやる」


 タンスに隠してある俺のへそくりがまだ残っていることに賭けて、俺は真希の提案を承諾した。

 さぁ、一体どんな方法なんだ?教えてくれ。


「うーん仕方ない。それでいいよ。瀬戸さんを従わせる方法はね……」


 俺は静かに息を呑む。それにしても、なんだか従わせるってどことなくエ◯いよな。


「実は瀬戸さん。辛いものが好きなんだよ」

「……辛いもの?」

「うん、辛いもの」


 ……へぇー天音ちゃんって辛いものが好きだったんだな。って、だからなんだよ。


「今さ、ここのファミレスでさ、激辛フェアやってるじゃん。ほら見て」


 真希が制服のポケットからファミレスのチラシを一枚取り出した。

 そこには大きく「激辛フェア」と書かれていた。

 見るからに真っ赤で、腹を壊すような辛さをしてそうな料理の写真も載っていた。

 

「この中の料理を一品、伊吹が奢るからって言ったらついてきてくれた」

「そうか、そうなのか……って、なんで俺が奢ることになってるんだよ」


 しれーっと俺に奢らせようとするのやめてくれ……毎日家事をして父さんからもらった金がどんどん消えていく……


「て言うことだから、じゃあ私、優斗達のところに戻るね」


 真希はそう言って、俺から離れて前の方へと行った。

 そして、残されたのは、俺と天音ちゃんの2人。さて、何を話そうものか。


「えっと、天音ちゃんって辛いものが好きだなんて意外だな」

「好きってほどでもないわ。母が昔から激辛好きでね。その影響かしら」


 血は争えないってこう言うことなのか。あるいは子は親に似るか。

 でも、いいこと聞いてしまった。天音ちゃんには激辛をチラつかせるだけで服従させられるだなんてな。


「なあ天音ちゃん。うちの近所に激辛専門店あるんだが、今度行かないか?俺の奢りで」


 俺がしれっとデートのお誘いをすると、天音ちゃんは3秒ほど黙って、俺の方を再び向いた。


「いえ、一瞬悩んでしまったけれど、やはりあなたのことは生理的に受け付けないわ。ごめんなさい」


 生理的に受け付けないってなんだよ。それにしても俺、可哀想すぎるだろ……

 まぁ、即断られるんじゃなくて、一瞬悩んだのは関係が深くなったと言うことだろう。

 そうだ、人生何事もポジティブに、前向きに行こう。

  

 俺たちはその後も、雑談しながらファミレスへと向かって行った。

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