第25話 宮風陥落作戦にて その二
その日の放課後、俺は下駄箱でみんなを待っていた。
「みんな」って言っても、いつもの真希、優斗、八坂の他にも今日は特別ゲストがいるんだけどな。
「おーい伊吹、来たぞ」
最初の登場は、俺の幼馴染こと星川優斗だった。
だけど、何やら優斗の後ろに人影がある。
どうやら、いるのは優斗だけではないようだ。
「きたよ、伊吹」
優斗の後ろで、一緒に居たのは八坂だった。
優斗と一緒にいるのが少し恥ずかしいのか、優斗から少し離れて歩いてきた。
いいかげんにその距離感なんとかしろよ……もう、これを直せなきゃ俺がどうこうするとかいう問題じゃないぞ……
「なんかいつもと違う人が来るとか言ってたけど誰が来るんだ?」
「宮風」
「そうか宮風か……って!宮風⁉︎」
優斗が驚いて、俺から早足で3歩ほど後退りをする。
まぁ、驚くのも仕方がないだろう。つい数週間ほど前までは喧嘩紛いのことをしていたというのに。
俺もあの時は、宮風と放課後に遊びにいくような仲になるとは思ってもいなかったな。
「伊吹って宮風さんと知り合いだったの?」
俺と宮風が喧嘩したことなんて知らない、完全に蚊帳の外になっている八坂が俺にそう問いかけてきた。
「あぁ、俺と優斗、真希、宮風4人で小さい頃はよく遊んだレベルの旧知の仲だ」
「嘘つけ」
俺が平然とした顔で八坂に嘘をつくと、横に立っていた優斗が俺の肩を軽く叩いてツッコミを入れた。
「えぇ!嘘なの⁉︎ていうか、なんのための嘘……?」
「まぁ、本当のこと言うと、数週間前にちょっとした喧嘩を初対面でしただけなんだがな」
「初対面で喧嘩って……伊吹、ちょっと気をつけなよ」
だからなんでどいつもこいつも俺が原因だって決めつけるんだよ。
名誉毀損も甚だしい。
俺だってそうなんでもかんでも悪態をついたりやらかしたりするわけじゃないんだぞ。
「俺じゃねぇよ。原因は天音ちゃんだよ」
「瀬戸さんか……瀬戸さんと宮風さんとなると、やっぱりあのことしか」
「あのこと」と言うのは、やっぱり宮風が天音ちゃんに告白した時のことだろうな。
未だに噂が冷めきっていないし、一応は一軍の八坂が知っていてもなんら不思議はない。
「そうそう。その時に、俺を連想させるような断り方を天音ちゃんがして、そのせいで宮風が俺を目の敵にして……って感じ」
「ほうほう。つまり、何もかもは瀬戸さんにそんな断り方を考えさせた伊吹が悪い、と」
だからなんでそうなる。もう俺が何言っても悪いことになるな。
なんで俺の周りの人間は俺に厳しいんだよ。
「それよりも伊吹、なんで宮風と仲良くなってるんだ?というか、結局あの後なんの会話したか俺知らないし」
優斗が俺に鬼詰めしながらそう聞いてきた。
確かにだ。俺はあの日、宮風とどんな会話をしたのか優斗に話していない。優斗からしてみれば、「友達を目の敵にして、喧嘩売ってきたやつ」と言う認識だったのにも関わらず、気がつけば放課後に遊ぶような仲になっていたのだ。
優斗からしてみれば、不思議にも程がないだろう。
「なんかあの後、『天音ちゃんを君から解放する』的なクソ痛いこと吐き捨てて、たまに屋上に来るようになったんだ。別に仲良くなってはないが、ちょっと事情があってな」
「事情って?」
どうしたものか、これは言っていいのだろうか。美也は別に秘密にしてほしいとか言ってなかったけどな……
でも、流石にバラすのはまずいか。やめておこう。
「まぁ、そこには触れないでおいてくれ」
「まぁ仕方ない。触れないでおいてやろう」
意外とあっさり引くんだな。優斗にしては珍しい。何か裏があるのか?
「なんで俺が潔かったら裏があることになるんだよ!」
聞いてみたところ、本当にないみたいだ。おかしいな。いつもの優斗なら「そんなこと言わずにさ〜」などと言って、面倒なぐらいに聞いて来るのにな。
「なんかあんまり人の秘密に足を踏み入れるのはよくないかな……って最近思ったんだよね」
「なんかキモいな」
「そう?全然かっこいいと思うけど……ハッ!」
八坂が顔を赤らめて、俺たちから目を逸らす。
何だよこいつは、中学生かよその照れ様。本当に、ダメだなこりゃ。
「まぁなんにせよ、伊吹と宮風が仲良くなったならそれでいいか」
「だから仲良くはなってないっつうの」
俺達が笑いながら話していると、またもや別の人影が見えた。
「お兄ちゃん!きたよ!ところで、宮風さんは⁉︎どこどこ⁉︎」
美也が階段から駆け降りてきて、大声でそう叫んだ。
「伊吹……理由はなんとなくわかったよ……」
どうやら優斗は察してくれたようだ。だけど……美也と初対面の八坂が、ポカンとしている。本日2回目の蚊帳の外だ。
「こんにちは!優斗さん。お久しぶりです!ていうか、そちらのお兄ちゃんには似合わないようなお綺麗でバリバリ陽キャの方はどなたで……?」
一言余計だな。「お兄ちゃんには似合わない」ってなんだよ。そこを取ればただの八坂への褒め言葉なのに。なんでいちいち俺への皮肉をぶっ込んでくるんだよ。
「え⁉︎綺麗だなんて嬉しいな……」
八坂が美也に褒められて、なんだかニヤニヤしているのを遮って、俺は話し始めた。
「そこでニヤニヤしてるのは、クラスメイト兼、真希の友達の八坂……八坂……なんだっけ?」
「芽衣奈だよ!め・い・な!いつも真希が呼んでるでしょ?なんで忘れるわけ?それより、私はまだ友達判定じゃなかったの⁉︎」
俺が八坂について説明すると、美也は「ふむふむ」などと言いながらメモ帳をポケットから取り出し、何やら記入を始めた。
「……美也、それ貸せ」
「あちょっと!」
俺は抵抗する美也の手から、メモ帳を奪いとった。
美也が書いたことに目を通すと、そこには衝撃的な文章が書かれてあった。
「なになに?『八坂芽衣奈さん、新しい優斗さんの愛人兼お兄ちゃんの主人様。』……」
俺は、そのページをメモ帳から破りとり、くしゃくしゃに丸めて、俺のポケットへと突っ込んだ。
「誰が八坂の子分だ。俺は八坂のことを主人様だなんて思ったことないぞ」
「そ、そうだよ。むしろ私が伊吹に感謝していると言うか……」
「つまり、お兄ちゃんと八坂さんの立場が逆……と」
もう、こいつは何を言ってもダメな気がする……妹ながら残念だ。
「後、美也ちゃん。別に八坂さんは俺の愛人じゃないよ?もう愛人は作ってないし」
なんだよ、昔は居たみたいな言い方するな。この淫乱が。
それに、いいかげん美也のことをちゃん付けしないでくれ。ちょっとキモいんだが。
俺たちがそんな会話をしていると、またもや、新たな人が現れた。




