第24話 宮風陥落作戦にて その一
「次は誰だ?八坂か?姉ちゃんか?」
俺は新しい来客にそう尋ねた。
だけど、ここへ来たのは姉ちゃんや、八坂、はたまた真希や優斗などではなかった。
「私だよ、お兄ちゃん!」
「は⁉︎美也⁉︎」
声がした方を見ると、そこには俺の妹、美也の姿があった。
なんで美也が?確かに来れないこともないが、今まで学校で絡んだことなんてなかったぞ?
「どうしたんだ?美也?」
俺は、驚いて跳ね起きた。
一体どうして美也が……?何があったのだろうか……?
「いや、ちょっと相談があって……」
美也が下を向き、モジモジしながらそう言った。
美也の顔は、少し赤くなっていて、まるで恋する少女かのような見た目だった。
「私ね……その……」
俺は息を呑む。まさか我が妹に思い人でもできてしまったのかと思ってすごく緊張している。
いやいや、美也に限ってそんなことはない……はず……?
「ちょ、ちょっと待て!」
俺はまた話し始めようとした美也に対してちょっと待ったを使った。
「お前、そろそろ予鈴がなるけど大丈夫なのか?」
そうだ、ついさっき天音ちゃんが「予鈴がなるから」と言って、屋上を後にしたのだ。
それなのに、美也はここにいて大丈夫なのだろうか?もしや、俺みたいな授業をサボるような人間になってしまったのだろうか。
「お兄ちゃん……今日は1年だけ短縮時程なんだよ?やっぱりずっとサボってるから知らなかったのね」
美也は、さっきまでのモジモジモードとは違い、いつも通りの美也に戻って、そう言った。
短縮時程か、羨ましいな。まぁ、俺は短縮時程どころか短縮されまくってもう無くなってるんだけどな。
「そうなのか、ちなみになんで?」
「なんか、1年の先生達が出張で午後からいないんだって。それより!私の相談に乗ってよ!」
美也は未だに座って弁当を食べようとしている俺の肩を掴んだ。
美也が相談って珍しいな。いつもなら「お兄ちゃ……いやなんでもない。お姉ちゃんー!相談乗ってー!」とか言って俺にフェイントをかけて消えてくんだがな。
「はいはい、わかったわかった。で、どうしたんだ?」
俺は、弁当を落ちないようにカバンの上に置き、美也の方を向きなおった。
そうすると、美也はまたさっきのモジモジモードに戻った。
「えっとね……私、実は好きな人がいるの……」
まさか、美也に限ってそんなこととは……
それよりも、どこのどいつだ!俺の妹のハートを奪ったやつは!取り返してやる。
「誰が好きなんだ?」
「それ聞いちゃう……?」
美也は顔を赤め、ほっぺたに手を置いた。
なんだよそのポーズ、お前はどこのラブコメヒロインだ。
ていうかもったいぶるなよ、話す気ないなら帰れ。
「えっとね……宮風先輩のことが好きなの……!」
…………一発ぶん殴ってやろうかな……宮風を。
それにしても、宮風のことが好きだと?とうとう我が妹も頭がぶっ壊れたか。
「なんであんなののことを?」
「なんでって……やっぱりさ、かっこいいじゃん?それに学級委員としての仕事も真面目にこなしててさ」
……こいつ、宮風の噂を知らないのか。
「え?噂?何それ?」
案の定、美也は噂について知らないようだった。
さて、噂と俺の実体験を話したりしたら美也はどう思うだろうか。それに、宮風が天音ちゃんのことを好きだと言うのも知らないようだな。
「えっとな、宮風って実は、とんでもない腹黒なんだ」
「まぁ私そういう人が好きだしもっと好感度が上がるなー」
腹黒が好きとか……別に否定する気はないが……
俺は、なんとか美也に宮風を諦めてもらうべく、さらに宮風の欠点を話し始めた。
「あとな、腹黒と言っても俺のことを脅したりする領域だぞ。『授業に出ろ!峯岸伊吹!』って」
「それは学級委員として当たり前の仕事だし?」
ぐぬぬ……手強いな、美也。さて、そろそろ最終奥義、「宮風には好きな人がいる」を発動してやろうか。
「実はな、宮風には好きな人がいるんだ。その正体は学級委員長の瀬戸天音ちゃんだぞ」
美也は、俺の言葉を聞いて、少し考え始めた。
どうだ⁉︎これで宮風を諦めるか?
俺は、最初よりも少し前のめりになって、美也の回答を待った。
10秒ぐらい考えて、口を開いた。
「だとしても、私がその瀬戸さんの立場になればいいだけだし?むしろ闘志が湧いてきた!」
うっ……これでも無理か。あと何を言ったら美也は諦めてくれるのだろうか。
俺は頭を抱えて悩み始めた。
「だからさ!私の恋をサポートして!お兄ちゃん宮風さんと面識あるんでしょ?」
「なんで知ってるんだ⁉︎」
「真希さんと優斗さんから聞いたー」
あいつら……今度締め上げてやろう。
でも、面識があると言ってもな……大体、屋上にたまに来る宮風が、俺に文句を言って帰るってだけだからな……
サポートって言っても……八坂の時みたいに身近な優斗相手だったらまだしもなぁ……
「うーんいくら出すか?」
「えーお金取るの?可愛い妹のためにお願い!」
美也がわざわざしゃがみ込んで、俺に目線を合わせた。その後、見事な上目遣いを決め込んだ。
クソ、そんなことされたら……
「仕方ない、2000円でいいぞ」
かなりの大特価だ。5000円未満なら断るつもりだったが、結構安くしてやった。半額以下だぞ。
「えー……これだからお兄ちゃんに頼み事したくないんだよねー」
折角安くしてやったのになんだその態度は!
美也はもう一度悩んで、「仕方ない」と言ってこっちを向いた。
「お兄ちゃんにしか頼めないし……いいよ、2000円で」
「よし、交渉成立だな」
俺はそう言って、美也の前に手を差し出した。
「何?先払い?お兄ちゃん信用できないしな……」
「違う違う、前金だ前金。先に1000円貰っとく」
俺がそう言うと、美也は渋々財布から1000円札を取り出して、俺の手に置いた。
よし、これでなんとか限定グッズを買いに行ける。
「うっ私のバイト代が……」
美也はそうブツブツ言いながら、屋上を後にした。
それにしても、どうしたものか。宮風との接点なんてあんまりないんだけどな……
……あ、いいことを思いついた。
「美也!止まれ!」
俺は、階段を降り始めていた美也を呼び止めた。
「何?増額とか言ったら私ここで泣いて先生呼ぶよ?」
「違う。それにしてもお前、結構タチの悪いことするな」
俺は、その思いついたことを美也に話した。
「おっけーわかった!じゃあねお兄ちゃん!ありがとう!」
美也はそう言って、さっきの金をむしり取った時とは違い、ルンルンのスキップで階段を降りていった。




