第四章 影と光の対話
ある雨の夜、ジュリエットは城の塔に一人でいた。
彼の影が動きだす。
『もうやめろ』
そこから若いアルノーの声がしだした。
『俺はへお前を止めに来た』
ジュリエットは振り返る。
そこに立っていたのは十八歳の自分だった。
幻か、それとも時空の歪みか。
「何故、俺を邪魔する? お前は……俺だろ?」
『ああ。俺は三十年後のお前だ』
「俺は……お前を殺しに来たんだ」
若いアルノーは笑う。
『俺を殺す? でも、お前は俺が英雄になるのを毎日助けてる』
「……それは、意図しない結果だ」
『いや、違う。お前の心が、本当は俺を助けたいって思ってるんだ』
「俺は……王女をもっと早く愛したかった」
『でも、それなら俺が英雄になる過程をどうして邪魔する? お前はあの時の俺を知ってる。あの絶望、孤独、それでも立ち上がる強さ──それがない俺は本当に王女を愛せるのか?』
確かにそうだ、と思ったジュリエットは言葉がでなかった。
『お前が消そうとしてるのは俺の人生だ。そして、お前の人生でもある』
「……俺はただ……後悔したくなかっただけだ」
『なら、今ここで終わらせろ。俺を殺すんじゃなくて、過去の自分を受け入れろ』