第二章 歪んだ未来
ジュリエットの記憶は三十年後の世界から始まる。
英雄として名を馳せたアルノーは国を救い、王女と結婚し、平和を築いた。
しかし、その代償は大きかった。
戦争の傷が癒えず、心は孤独に蝕まれていく。
王女は献身的だったが、アルノーは「本当に幸せだったのか」と問うた。
冒険の終わりが、虚無の始まりだった。
そして、最愛の王女が病に倒れ、息絶えるその日──アルノーはこんな後悔に苛まれる。
「もし、あの時……ジュリエット・ミルフィア・シャルルがいなければ……俺はもっと早く彼女と出会えた。もっと長く彼女を愛せた」
そう思った瞬間、時空の裂け目が開いた。
神話に語られる『時を操る秘宝』──エクリプスの鏡が彼の前に現れたのだ。
「望みを叶えるには代償は伴う……」
しかし、アルノーは迷わず手を伸ばす。
「あの時……俺を邪魔した悪役令嬢を……最初から存在させない」
そして、彼は過去へと送られた。
だが時空の法則はそう簡単には許さなかった。
アルノーの魂は、まだ胎児だったジュリエット・ミルフィア・シャルルに宿ってしまった。
生まれる前から彼女の意識の中に潜り込み、『悪役令嬢』として振る舞うように仕向けられた。
つまり──未来のアルノーが過去の自分を邪魔する為に、悪役令嬢となった。