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第一章 悪役令嬢の登場
リュシオン王国の春。
桜の舞う中、王立貴族学院の入学式が執り行われた。
「あれが噂の平民の英雄、アルノー? 平民が貴族学院に? 笑わせるわね」
高貴な声が広場に響く。
銀髪を三つ編みに結い、氷のような瞳を持つ令嬢──ジュリエット・ミルフィア・シャルルが赤いドレスを翻して歩み寄った。
彼女の口調は冷たく、態度は高圧的。
すでに『悪役令嬢』としてのレッテルが貼られていた。
「平民のクセに王女殿下と並んで歩くなど、身の程知らずも甚だしいわ」
彼女はそう言い放ち、アルノーの前に立ち塞がる。
周囲の生徒たちは息を呑んだ。
伝説の英雄と傲慢な貴族令嬢の対立──物語の幕開けだ。
だが、誰も気づかなかった。
ジュリエットの瞳の奥に深い悲しみと、切なさが宿っている事に。
そして、誰も知らない。
彼女が未来のアルノー自身だという事を。