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六話『夢で見る夕日の街【一】』

 煌都の中心部から離れ、深都に近い場所にある平屋の建物。玄関には『悪い夢も怖い夢も、夢のエキスパートにお任せください!お悩み相談もお気軽に!』と書かれた看板が立っていた。

 そこへ、一人の女性がやってきた。マガミツ(スマホ)の画面と店を見比べ、来る前にも見たはずのエーテルネットの掲示板へ視線を落とす。

 

「悪い夢を見なくなる夢の治療所……ここ、なら」

 

 大きく息を吸って吐き、女性は治療所のドアを押し開けた。

 

「――あら。こんにちは、迷い人さん。あなたは悩みごとの相談?それとも夢の相談?」

 

 治療所の中にいたのは美しくも可憐な女性だった。

 同性の彼女でさえ見惚れるような端正でありながらあどけなさの残る顔立ちに輝いているように見える桃色の瞳。瞳の色と同じような美しい桃色の髪。

 

「迷い人さん?まずはあなたのことをどう呼べばいいかしら。わたしに呼んで欲しい名前を教えて?」

「……あっ、えと、トウカ、と呼んでくだされば……」

「トウカ、ね?私のことはララと呼んで。さあ、奥へどうぞ、トウカのお話を聞かせて?」

 

 治療所の美しい女性はララと名乗り、迷い人――トウカは奥へと案内される。

 布で仕切られた奥はソファーと机が置いてあるだけの簡素な部屋で、こんなところで治療をするのかとトウカは戸惑ったようにララを見つめた。

 

「あら、戸惑っているわね。初めて来た子たちはみんなそういう顔をするわ。大丈夫、ほら座って?」

「は、はい……」

 

 おっかなびっくりソファに腰を下ろすトウカにララはくすくすと笑みをこぼしながら、お茶を用意して机へ置く。

 

「好きな時に飲んでいいわ。さあ、トウカはどうしてここへ来たの?」

 

 優しく感じる言葉に、トウカは用意されたお茶を一口飲んで口を開いた。

 

「夢を、見るんです。三年くらい前から、同じ夕日の街の夢を」

「同じ夢……毎日見ているの?」

「いいえ、毎日じゃないんです。前は三ヶ月に一回くらいだったんですが、ここ最近は一週間に一回は同じ夢を見るんです」

「その夢はずっと変わっていないのかしら?それとも変わっていても同じ夢だと認識できる何かがあるのかしら?」

「夕日の街は変わっていないんですけど、そこにいる人が少しずつ増えていて……」

 

 トウカは膝の上でぎゅっと手を握る。目が覚めたときの不気味さに震える彼女をみて、ララはそっと手を重ねる。

 

「夢の中で私は同じ人に話しかけるんです。でもいつも反応はなくて、そのまま街を歩いていると夢から覚めるんです。

 けど、ここ最近の夢では私が話しかけるとにこやかに返してくれるんです。もうすぐだねって」

「……トウカはその夢を良くない夢だと思っているの?それとも怖い夢?」

「わ、わたし、怖いんです……っ、あの夕日の街に、私も取り込まれちゃう……!」

「落ち着いてトウカ、落ち着いて。大丈夫、さあ呼吸を整えましょう。目を閉じて、息を吸って……」

 

 ララの言う通りにトウカは呼吸を繰り返し、段々と落ち着きを取り戻していく。

 

「ここでは怖い夢は見ないわ。『ゆっくりとおやすみなさい』」

 

 トウカにその言葉が届き、彼女は眠りへと落ちていく。ララは完全に眠ったのを確認し、そっと彼女の頭に手を触れた。

 

「さあ、あなたの夢を見せてちょうだい……」


 *

 

 トウカの夢の中を覗き見たララは吹き出た汗を拭い、心を落ち着けてから彼女を起こす。

 

「どうかしら?少しは良くなったと思うのだけど」

「……こんなに気持ちよく起きたのは久しぶりです……。本当に、夢の治療所なんだ……」

「何事も人に話せば軽くなるものだけれど、いまのトウカは夢のせいで眠るのが怖くなっているわ。

 そうね……三日後にまたここへ来られるかしら?その時にあなたの夢を解決しましょう」

 

 にこりと笑うララにトウカは顔を輝かせ、しきりに礼を言って治療所から出ていった。

 それを見送り、外にある看板を仕舞ったララは緊張を解くように長く息を吐きだす。

 

「……詠さんにお伝えしないと。――夢の世界に神片があるって」 

 

エーテルネットはそのまんまネットです。掲示板もあるしたぶんSNSもある

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