一話『廃神社の怪奇現象【済】』
夜陽国の南側。静荘区と呼ばれる地区にある廃神社。
寂れた鳥居の上に影が三つ。
「――あれ、結界内に一般人がいるみたい。どうする?」
「うーん、大人しくしててくれたらいいんだけど」
「……最悪、眠らせればいいだろ。はぁ、さっさと片付けて寝るぞ」
「そうだね。じゃ、サポートよろしくね」
赤い影が二つ、鳥居から荒れ果てた境内だった場所へ降り立つ。青い影は一つ残り、あ、と声を漏らした。
「うーん、まあ着く頃には終わりそうだしいいか」
そんな楽観的な言葉を口にし、青い影は眼下を見下ろした。
***
夜陽国の南側、静荘区と呼ばれるその一角――正確には廃神社前には深夜にも関わらず人がおり、その人の輪とも呼べない中心にいる若い男が叫んでいた。
「――だからッ!ほんとに見たんだって!赤い影が俺達を襲ってきて……ッ!」
「あーわかったわかった。あんたが見たもんを疑っちゃいないって」
熱弁、あるいは鬼気迫るといった若い男の言葉に、対応している男は深く息を吐きだして懐から煙草を取り出す。そのまま慣れた手つきで火を付けて吸い、若い男にふぅと吹きかける。
「げほっ、なにすんだおっさん!!」
「悪い気を飛ばしてやったんだよ。聞いたことない?煙が邪を払うって」
「けほ、そういやじーさんから聞いたことあった、かも……」
眉間に寄ったシワがほどけ、大人しくなった若い男はすとんとその場に座り込んだ。
「よし、こいつはしばらくおとなしいだろ。天尾はこいつ見といてくれ」
「分かりました、識名主任」
天尾と呼ばれた金色の髪の女が若い男の護衛に立ち、識名と呼ばれた男は吸っていた煙草を自ら起こした炎で灰にし、待っていた男の元へ向かう。
「んで、あいつの友達っつーか仲間は見つけたんだよな?」
「ええ。全員目立った外傷はなく、気を失っていました。念の為、治療院送りにしておきました。……しかし、困ったものです。こうも廃神社に肝試しに来て騒ぐ者たちばかりを相手にするのは」
「あー……もう肝試しも出来んと思うから大丈夫だろ。来たところでもうなんも起きねえだろうし」
「そうだといいんですが。では、私は巡回に戻ります」
「おう、ありがとな」
男はすっと森の闇に消えていき、識名も見送ることなく背を向け天尾のもとへ向かう。
「さて、と。じゃあこいつを治療院に連れて行って、俺達も仮眠するか」
「え、えっと、こうなった経緯とか聞かなくていいんですか?」
「一応は聞くぞ。でも、経緯はあいつらに聞いたほうが早いからな」
よっ、という声とともに若い男を背負い、歩き出す識名。それに困惑しながら、天尾は問いかける。
「あいつらって、……もしかして、あの噂って本当だったんですか?」
「さあて、な。知りたいなら明日、ついてくるか?」
「は、はい!」
深夜の森の中、天尾の元気な返事が響いた。