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新たな予告状:異なるデザイン、同じ魂

数日後、世界を驚かせるニュースが飛び込んできた。


【テレビのニュース速報】

「速報です!ドイツ・フランクフルトにある富豪、ヨハネス・フォン・シュタインベック氏の邸宅に、謎の予告状が届けられました!」


画面には、厳重な警備が敷かれた邸宅の前に集まる報道陣の姿が映し出される。


アナウンサー:「予告状は、シュタインベック氏が最近、不当な手段で手に入れたとされる『古の写本』の盗難を予告するもので、警察は現在、警戒を強めています。注目すべきは、この予告状のデザインです。これまでの《アークス》の予告状とは、わずかに異なるデザインですが、そのメッセージ性から、《アークス》の再来を思わせると、専門家は指摘しています!」


響は、テレビ画面に映し出された予告状のデザインを凝視した。それは、確かにこれまで彼が使ってきたトランプのスペードをモチーフにしたものではなかった。代わりに、「古の写本」の表紙に描かれていた、抽象的な鳥の紋様が、予告状の右下に小さく、しかし鮮やかに描かれていた。


(…なるほど、僕の真似をする輩か…)


響は、静かに笑みを浮かべた。しかし、その笑みは、安堵や嘲笑ではなく、ある種の「確信」を帯びたものだった。


「冴島警視か…」


響は、予感していた。これは、冴島が仕掛けた、新たな「ヒント」だと。彼は、あえて《アークス》の予告状に似せた、しかし微妙に異なるデザインの予告状を世に出すことで、響に「新たな悪の存在」と、「自分がまだ見ている」というメッセージを送ってきたのだ。


同時刻、警視庁捜査一課の冴島漣のデスクにも、同様のニュース速報が流れていた。彼は、コーヒーを一口飲み、静かに画面を見つめた。彼の口元には、かすかな笑みが浮かんでいる。


(ようやく、動き出したか…《アークス》よ)


冴島は、この予告状の「仕掛け人」だった。彼は、数年間にわたり、「シャドウ・オークション」の壊滅後に残された裏社会の情報を密かに収集し、新たな美術品シンジケートの台頭を警戒してきた。そして、「影のコレクター」の存在を突き止め、「古の写本」の情報を掴んだ時、彼は再び「アークス」に協力を求めることを決意したのだ。


もちろん、直接接触することはできない。だからこそ、彼は「アークス」の活動を彷彿とさせる「偽の予告状」を巧妙に世に出すことで、響にメッセージを送ったのだ。あえて異なるデザインにしたのは、「これは、ただの過去の模倣ではない。新たな戦いの始まりだ」というメッセージを込めたものだった。


【冴島と高橋の会話】

高橋:「警視!また怪盗アークスの模倣犯ですかね!?今回は、デザインが微妙に違いますけど…」


冴島:「…どうだろうな、高橋。しかし、今回のターゲットが、いかにも《アークス》が狙いそうな悪党であることは確かだ。そして、この『古の写本』には、重大な歴史的価値がある。それを不当に手に入れた者から、取り戻す必要がある」


冴島は、高橋に、これまでと変わらない冷静な口調で指示を出す。彼の心の中では、《アークス》との「見えざる共闘」が、再び幕を開けようとしていた。彼は、響がこのメッセージを読み取り、必ず行動を起こすことを確信していた。


月森響の決意:終わりのない「エーテル・チェイン」

月森響は、テレビの電源を消し、アトリエの窓辺に立った。夜空には、満月が煌々と輝いている。彼の視線の先には、フランクフルトの方向が広がっていた。


(僕は、古美術修復師としての日常に戻ることはできない…)


「シャドウ・オークション」との戦いを経て、彼はこの世界の「真実」を知ってしまった。エーテル・チェインの力が、どれほど世界の均衡に影響を与えるか。そして、その力が悪しき者の手に渡れば、どれほどの破滅を招くか。彼は、それを身をもって体験した。


祖父・静馬の遺志は、彼の中に深く根付いている。


「…月森家の血は、エーテル・チェインの守護者として、その運命を背負う。それは、決して逃れることのできぬ宿命である。だが、その宿命を如何に全うするかは、それぞれの代の守護者の『選択』に委ねられている」


響は、選択した。彼は、この力を「封印」し、隠遁生活を送ることもできた。しかし、不正がはびこる限り、そして、エーテル・チェインの力が悪用されそうになる限り、彼は「アークス」として活動を続けることを決意していた。それは、もはや彼にとって、苦痛な「重荷」ではなく、彼自身の「存在意義」となっていたのだ。


彼の脳裏には、これまで彼が「解放」してきた美術品の数々が鮮明に蘇る。それぞれの美術品から引き出された魔法の力は、彼の血肉となり、彼を「アークス」として進化させてきた。そして、それらの美術品が、本来の持ち主の元に戻り、人々に喜びと希望を与えた瞬間。あの時の感動が、響の心を奮い立たせた。


(僕の物語は…終わりのない「エーテル・チェイン」のように、これからも繋がっていく)

夜空の月が、響の瞳に映り込む。その瞳は、静かに、しかし力強く輝いていた。彼は、もう誰かに理解されなくとも、孤独を感じることはない。彼は、ただ一人で、しかし確かに、この世界の「調和」を守り続けていく。


彼は、アトリエの壁に飾られた「月光の山水画」を、そっと見つめた。絵画は、静かに、そして美しく、響の決意を祝福しているかのようだった。


そして、響は、ゆっくりとアトリエの奥へと歩き出した。彼の手には、既に「古の写本」の情報を記した、新たなターゲットリストが握られている。


怪盗アークスの物語は、まだ終わらない。新たな悪が姿を現す限り、月夜の闇に紛れて、彼は再び現れるだろう。それは、正義の執行者として。真実を暴く者として。そして、世界の均衡を守る、伝説の怪盗として。


彼の名は、これからも人々の間で囁かれ、語り継がれていく。終わりのない「エーテル・チェイン」のように、彼の活動は、この世界のどこかで、静かに、しかし確実に、繋がっていくのだ。


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