新たな始まりの予感
「シャドウ・オークション」壊滅から数年後。世界は、緩やかな回復期にあった。あの「謎の災害」の真の原因は未だ解明されず、それは現代科学では説明のつかない「奇跡」として、人々の記憶の片隅に深く刻まれていた。そして、「伝説の怪盗」は、その名を世間に轟かせながらも、忽然と姿を消し、その正体は謎のままだ。
月森響は、古美術修復師としての日常に戻ることはなかった。祖父・静馬から受け継いだ「月光の山水画」は、月光庵のアトリエの最も奥深い場所に厳重に保管され、その真の力が世に知られることはない。響は、表向きは普通の若者として、静かな日々を送っていた。だが、彼の内には、「エーテル・チェイン」の全てのピースから得た途方もない力が脈打っており、その使命感が、彼を新たな活動へと駆り立てる時を待っていた。
そんなある日、響の耳に、再び不穏な噂が届き始めた。それは、ヨーロッパの裏社会で囁かれ始めた、「新たな美術品シンジケートの台頭」の報だった。彼らは、「シャドウ・オークション」が残した空白を埋めるかのように、暗躍を始めているという。特に、その中心人物と目される「影のコレクター」と呼ばれる人物は、法外な手段で美術品を集め、私腹を肥やしていると噂されていた。
響は、自身の情報網を駆使し、その噂の真偽を確かめ始めた。インターネットのダークウェブ、裏社会の匿名のフォーラム、そして、かつて「シャドウ・オークション」が残した微細な痕跡。それらを丹念に辿っていくと、やがて一つの美術品に辿り着いた。
それは、中東の小国で、クーデターによって強奪されたとされる「古の写本」だった。その写本は、国の歴史と文化の象徴であり、国民にとってはかけがえのない宝だったが、混乱に乗じて、影のコレクターの手に渡ったという。
響は、その写本から放たれるエーテルの波動を感知した。それは、過去に彼が手に入れたどのピースとも異なる、しかし確かに「エーテル・チェイン」の一部であると、彼の直感が告げていた。




