密かな決意:「怪盗を追い続ける」
冴島は、ファイルに手を置いたまま、深く息を吐いた。彼の心の中では、警察官としての「使命」と、《アークス》がもたらした「正義」が、奇妙な形で共存し始めていた。
彼は、響を逮捕することは、もはや不可能だと理解していた。そして、彼を逮捕することが、「正義」に繋がるとは、もはや思えなかった。
だが、彼は《アークス》を追い続けることを密かに決意した。それは、逮捕のためではない。
「彼が追求する『正義』の真の姿を知るため」
響は、なぜ自らの身を危険に晒し、法を犯してまで、あの途方もない力を使い続けたのか。彼が目指す「正義」とは、一体どのようなものなのか。冴島は、それを自らの目で確かめたかった。彼が信じる「法の下の正義」だけでは解決できない問題が、この世界にはあまりにも多く存在することを、冴島は痛感していた。響の行動は、その「法の及ばない場所」での正義の可能性を示唆していたのだ。
「再び現れるかもしれない『シャドウ・オークション』のような巨悪に対抗するため」
ファントムとスネークは逮捕された。しかし、彼らが信奉していた「エーテル・チェイン」の力は、あまりにも強大で、世界の均衡を揺るがすほどのものだった。ファントムのような狂信者が、今後現れないとは限らない。あるいは、「シャドウ・オークション」の残党が、再び活動を開始する可能性もある。 その時、冴島は、この世界の「守護者」としての《アークス》の存在が、不可欠であると直感的に理解していた。
彼は、警察官として、あくまでも法の下で動く。だが、その裏で、彼は《アークス》の動きを密かに追跡し、彼の「ヒント」を読み解き、必要とあらば、再び「暗黙の協力関係」を築く準備をしておくつもりだった。
(私は、彼を「利用」するのではない…)
冴島は、自分自身に言い聞かせた。
(私は、彼と共に、この世界の「調和」を守るのだ。異なる道を選んだ者同士が、同じ目的のために…)
彼の胸には、複雑な感情が入り混じっていた。法を守る刑事でありながら、法を超えた存在を認め、その「正義」に敬意を払う。それは、彼にとって、新たな刑事としての「覚悟」だった。
冴島は、深く、深く息を吸い込んだ。そして、ゆっくりと、息を吐き出す。 彼の瞳は、夜の闇の中で、静かに、しかし力強く輝いていた。その輝きは、決して諦めではない。それは、未来への希望、そして、見えない敵との終わりのない戦いへの、密かな決意の光だった。
彼は、ファイルに手を置いたまま、静かに呟いた。
「《アークス》…お前は、この世界に、何を残していったのか。そして、これから、どこへ向かうのか…」
彼の心の中では、もう一つの物語が、密かに始まっていた。それは、法と、法を超えた「正義」が交錯する、静かで、しかし壮大な物語。冴島は、その物語の語り部として、そして、その一部として、歩み続けることを誓った。




