真の力を本来の形に戻す:響の決断
響は、暴走するエーテル・チェインの波動を感じながら、「月光の山水画」を強く抱きしめた。彼の体内で、全ての魔法の力が、まるでオーケストラのハーモニーのように響き合っていた。
(祖父…貴方は、この時のために、この力を残してくれたのか…!)
響の脳裏に、祖父・静馬の声が響いた。
「…エーテル・チェインの真の力は、『世界の調和』にある。それは、破壊ではなく、創造。歪みを正し、万物の生命を育む力だ。だが、悪しき者が歪んだ心でそれを操れば、容易に破滅を招く」
そして、手記の最後に書かれていた、もう一つの重要な真実を思い出した。
「…エーテル・チェインは、『真の守護者』の魂と共鳴することで、その暴走を止めることができる。それは、力そのものを『制御』するのではなく、『導く』こと。それぞれのピースが持つエーテルを、あるべき場所に『還す』ことである」
響は、決断した。彼は、これまでのように、美術品から力を「引き出す」のではない。この暴走するエーテル・チェインの力を、「本来の形に戻す」のだ。
響は、目を閉じ、自身の体内に流れ込むエーテルの奔流を、全身で受け止めた。彼は、それぞれのピースが持つエーテルの性質を、一つ一つ詳細に感じ取った。
•透明化のエーテル: 物事を「見えなく」するのではなく、真の姿を「隠す」ことを許さない力。
•分身のエーテル: 偽りの存在を生み出すのではなく、個々の「多様性」を認め、それを尊重する力。
•幻覚のエーテル: 精神を欺くのではなく、人々の「真実を見る目」を開かせる力。
•空間のエーテル: 隔たりを生むのではなく、全ての存在を「繋ぎ合わせる」力。
•時間の操作のエーテル: 過去を改変するのではなく、全ての「時」が、あるべき場所へと「流れる」ことを促す力。
響は、自身の精神を、暴走するエーテル・チェインの中心へと送り込んだ。彼の魂が、エーテルの奔流の中で、指揮者のように、それぞれのエーテルを「調和」させ始めた。それは、力ずくで制御するのではなく、それぞれのエーテルの性質を尊重し、本来あるべき姿へと「導く」作業だった。
「くっ…!何をしている…!お前には、その力は操れないはずだ!」ファントムは叫んだ。彼の背後で、暴走するエーテルの光が、徐々に、しかし確実に、その輝きを失い始めていた。
響の額から、汗がとめどなく流れ落ちる。彼の肉体は、途方もない負荷に悲鳴を上げていた。だが、彼の精神は、かつてないほどに研ぎ澄まされ、エーテル・チェインの全てのピースが、彼の心の声に呼応するように、静かに、そして美しく響き合っていくのを感じた。
【真の力を本来の形に戻す:世界の回復】
•エーテルの鎮静化: 暴走していたエーテル・チェインの波動が、徐々に穏やかになっていく。要塞全体を包んでいた不穏な光は収まり、代わりにより澄んだ、温かい光が満ちていく。
•自然災害の沈静化: 世界各地で吹き荒れていた異常気象が、急速に収束し始めた。吹雪は止み、赤く染まった雨は澄んだ水へと戻った。 海を襲っていた津波は、静かに波へと戻り、揺れていた大地は落ち着きを取り戻した。 富士山の水蒸気噴出は収まり、アマゾンの密林は、再び生命の輝きを取り戻した。
•電子機器の回復: 停止していた電力網が回復し、都市には明かりが戻った。通信網は繋がり、人々の混乱は徐々に収まっていった。
•人々の精神的な安定: 幻覚を見ていた人々は、意識を取り戻し、街中の暴動は、まるで何事もなかったかのように静まっていった。人々は、互いの目を真っ直ぐに見つめ、失いかけていた信頼を取り戻そうとしていた。
要塞の床に膝をつき、荒い息を吐く響。彼の全身から、光の粒子が立ち上り、再び「月光の山水画」へと吸い込まれていく。絵画は、これまで以上に澄んだ光を放ち、その山水画は、まるで生きているかのように、静かに脈打っていた。
「馬鹿な…!破壊を…止めただと…!?」ファントムは、その光景に絶望の表情を浮かべた。彼の目には、狂気と憎悪が渦巻いていた。
「ファントム!お前の野望は、ここで終わりだ!」
響は、立ち上がった。彼の背後で、澄んだ光を放つ「月光の山水画」が、彼を「世界の調和の番人」として祝福しているかのようだった。




