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第三の試練:時間の停滞域とエーテル・アブソーバー

最深部へと続く通路は、極端に長く、そして、空間そのものが「重く」感じられた。通路の壁には、奇妙な歯車や、砂時計のような紋様が刻まれており、そこからエーテルが凝縮された重い波動が放たれている。術師「ナイトメア」が仕掛けた「時間の停滞域タイム・スタシス・ゾーン」だ。


【罠3:時間の停滞と魔力吸収、そしてファントムの監視】

響がゾーンに足を踏み入れた瞬間、彼の身体は鉛のように重くなり、思考速度も極端に遅くなった。まるで、泥の中を歩くかのように、一歩進むにも全身の力を要する。通路の奥には、エーテルを吸収する「エーテル・アブソーバー(魔力吸収装置)」がいくつも設置されており、彼の魔法の力を徐々に奪っていく。


「ふむ…ここまで来たか、怪盗アークスよ」


その時、通路の天井に設置されたスピーカーから、ファントムの声が響いてきた。


「お前は、確かに強大な力を持つ。だが、このゾーンでは、お前の魔法は無力化される。そして、時間はお前の味方ではない…」


ファントムの声は、響の焦りを誘うように、ゆっくりと、しかし確実に響いた。


「無力化だと…?ふざけるな!」


響は、自身の「時間の操作」の魔法を最大まで発動した。彼は、自身の体内のエーテルを高速で循環させ、周囲の時間の停滞に逆らった。時間が遅くなっているのは、エーテルの流れが停滞しているからだ。ならば、自身のエーテルを加速させれば、その停滞を打ち破ることができる。


響の身体から、微かな光が放たれた。彼の動きは、周囲の時間の中で、わずかに「加速」しているように見えた。彼は、通常よりも遅く、しかし確実に、通路を前へと進んでいった。

そして、通路の途中に設置されたエーテル・アブソーバーの横を通り過ぎる際、響は分身の魔法を発動した。彼の分身が、アブソーバーに駆け寄り、その装置の表面に手を触れた。分身のエーテルが、アブソーバーに吸い込まれていく。その一瞬の間に、本物の響は、エーテル・アブソーバーの制御回路のわずかな隙間を見つけ、自身の「空間操作」の魔法で、回路の一部を「歪ませた」。それにより、アブソーバーは一時的に機能不全に陥った。


「馬鹿な…!アブソーバーが停止しただと!?」ファントムの声に、驚愕の色が混じった。


響は、再び時間加速の魔法を発動し、通路の奥へと進んでいった。ファントムは、まさか響が、自身の魔法を逆手に取り、時間とエーテル吸収の罠を突破するとは予測していなかったのだ。


最終防衛線:ファントムとの対峙

長い通路を抜けると、響の目の前に、巨大な鋼鉄製の扉が現れた。扉の向こうには、これまで感じたことのない、強大なエーテルの波動が渦巻いている。間違いなく、そこが「月光の山水画」が保管されている場所だ。


【罠4:エーテル結界と最後の守護者】

扉の向こうから、スネークの声が響いてきた。


「ここから先は、一歩も通さない。ファントム様が直接、お前を迎え撃つ」


響は、鋼鉄の扉を「空間認識・操作」の魔法で、強引に「歪ませ」、こじ開けた。扉の向こうには、広大な空間が広がっていた。中央には、煌々と光を放つ台座の上に、あの「月光の山水画」が置かれている。そして、その絵画の周囲には、何重ものエーテル結界が張られ、輝くような光を放っていた。


部屋の奥には、黒いローブを纏い、顔を深くフードで隠した人物が立っていた。紛れもない、「シャドウ・オークション」の首謀者、ファントムだ。彼の隣には、スネークが、最新鋭の銃器を構えて控えている。


「よくぞここまで来た、怪盗アークスよ」ファントムの声が、響いた。「お前は、我々が探し求めていた『月の守護者』の血を引く者。そして、エーテル・チェインの力を覚醒させた、唯一の存在だ」


「貴様は…祖父から、全てを奪った男か…!」響は、ファントムに憎しみの視線を向けた。


「奪ったのではない。『真の調和』のために、私が『預かった』のだ」ファントムは、静かに答えた。「この『月光の山水画』は、エーテル・チェインの核。これを完全に繋ぎ合わせれば、世界は私の意志の下に、真の黄金時代を迎える」


「そんなものは、貴様の独善だ!世界を破壊し、人々を支配する力を、調和などと呼ぶな!」響は叫んだ。


その瞬間、スネークが動き出した。彼は、響に銃口を向け、引き金を引いた。同時に、ファントムが両手を広げ、部屋全体に張り巡らされたエーテル結界を最大出力にした。結界は、まるで生き物のように脈打ち、響の魔法の力を吸収しようと迫る。


「終わりだ、怪盗アークス!このエーテル結界は、お前の全ての魔法を無力化する!」スネークが叫んだ。


「まだだ…!」


響は、自身の体内に宿る全ての魔法の力を、一点に集中させた。 彼は、まず「分身の魔法」を発動した。無数の分身が、ファントムとスネーク、そしてエーテル結界に向かって、あらゆる方向から突進する。分身たちは、結界に触れるたびに、エーテルを結界に吸い取られ、光の粒子となって消えていく。


しかし、それは響の狙いだった。分身が消えることで、結界の一部が過負荷となり、わずかな「歪み」が生じる。


その隙を見逃さず、本物の響は、「透明化」の魔法を発動した。彼は、自身の存在をエーテル領域へと完全に移行させ、結界の網の目から、わずかな光子のようにすり抜けようとした。

スネークが放った銃弾は、響の「透明化」によって空を切り、壁にめり込んだ。


響は、自身の「空間認識・操作」の魔法で、エーテル結界の最も脆弱な部分と、その奥にある「月光の山水画」の台座へと続く、最短の経路を正確に把握した。そして、自身の「時間の操作」の魔法で、エーテル結界の振動の周期をわずかに「遅らせた」のだ。


「馬鹿な…!結界が…揺らいでいる!?」ファントムの声に、初めて焦りの色が混じった。


響は、透明化と時間操作、そして空間操作を組み合わせ、エーテル結界の中を、まるで水の中を泳ぐ魚のように、滑らかに、そして高速で移動した。彼の動きは、スネークやファントムの予測を完全に超えていた。


そして、響は、ついに「月光の山水画」が置かれた台座の前に到達した。彼は、迷うことなく、その絵画に手を伸ばした。


「させない!」スネークが、必死に響に銃口を向けた。 しかし、響の指が、絵画の額縁に触れたその瞬間、絵画から強烈な光が放たれた。


「これが…祖父の…!」


光に包まれながら、響は自身の体内に、これまで感じたことのない、途方もないエーテルの力が流れ込んでくるのを感じた。「月光の山水画」は、まさに「エーテル・チェイン」の核となる秘宝だったのだ。


彼の背後で、ファントムの絶叫が響いた。 「止めろ!月森響!その力は…お前に使いこなせるものではない!」


しかし、響は、もはやファントムの声には耳を貸さなかった。彼の指が、絵画の表面に触れると、絵画全体に、祖父の手記の巻末に描かれていた、あの複雑な紋様が浮かび上がった。そして、その紋様が、まるで生きているかのように光を放ち、響の体内に吸い込まれていく。


響は、自身の使命を全うするため、そして世界の均衡を守るため、今、その秘宝の全てを受け入れようとしていた。要塞攻略は、新たな局面へと突入する。ファントムとの直接対決が、始まるのだ。


「この力が…お前に使いこなせるものではない!」


ファントムの絶叫が響く中、月森響は「月光の山水画」に触れた。絵画から放たれる強烈な光が、響の全身を包み込む。それは、まるで世界の根源たるエーテルが、彼の体内に流れ込んでくるかのようだった。彼の肉体は熱く燃え上がり、精神は宇宙の深淵へと誘われるような感覚に陥った。


「ぐっ…うおおおおおおおおっ!」


響の叫びが、要塞の奥深くに響き渡る。彼の体内で、「月光の山水画」の核の力と、これまで彼が回収してきたエーテル・チェインのピースの力が、完全にシンクロしていく。透明化、分身、幻覚、空間操作、時間の操作…全ての魔法が、一つの巨大な奔流となって、響の全身を駆け巡った。



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