「シャドウ・オークション」の本拠地:要塞の描写
響が特定した「シャドウ・オークション」の本拠地は、ドイツの首都ベルリンの、歴史の闇に埋もれた旧市街の地下深くに存在していた。表向きは、朽ち果てた古い教会跡地。だが、その地下には、ファントムが長年かけて築き上げてきた、まさに要塞と呼ぶに相応しい場所が広がっていた。
響は、自身の「空間認識・操作」の魔法を最大まで研ぎ澄ませ、その要塞の構造を仮想的に「視覚化」した。
1. 物理的警備:鋼鉄と最新技術の複合要塞
•多層構造の地下要塞: 教会跡地の地下深く、数百メートルにも及ぶ縦坑と横穴が複雑に入り組んでいた。それぞれの通路は、厚さ数メートルの強化コンクリートと特殊合金製の壁で覆われ、通常の爆破ではびくともしない構造になっている。
•レーザー網とセンサー群: 要塞の通路の至る所に、侵入者を瞬時に感知する対透明化レーザー網、熱感知センサー、超音波振動センサーが張り巡らされていた。特に、エーテルの波動を感知し、その動きを追跡する特殊エーテルセンサーが、主要な通路に設置されているのが確認できた。これは、スネークが《アークス》の能力を分析し、開発させたものだろう。
•自動迎撃システム: 壁には、侵入者を自動的に識別し、無力化する自動迎撃システムが搭載されている。これは、スタンガン、麻酔ガス、あるいは実弾を発射する機能を備えているようだ。
•屈強な警備部隊: 「シャドウ・オークション」の精鋭であるスネーク直属の戦闘員たちが、24時間体制で要塞内部を巡回している。彼らは、最新鋭の暗視ゴーグルや、魔法的な攪乱にも耐えうる特殊な防護服を着用し、非殺傷兵器から実弾兵器まで、あらゆる武器を携行している。
2. 魔法的防衛:古の術とエーテルの結界
•「エーテル結界」: 要塞の主要な区画、特に「月光の山水画」が保管されている最深部には、強固なエーテル結界が張られているのが響には感知できた。この結界は、エーテルの流れを逆流させることで、外部からの魔法的な干渉を遮断し、内部の魔力を封じ込める効果がある。結界に触れると、強力な反発力が働き、魔法の力を吸収しようとする性質を持っている。
•「精神の迷宮」: 要塞の通路の一部には、術師「サイレン」が仕掛けたと思われる、精神に直接作用する魔法的防御が施されていた。侵入者の精神を混乱させ、幻覚を見せたり、方向感覚を麻痺させたりすることで、要塞の奥深くへ進むことを阻む。時には、最も恐れている存在の幻覚を見せることもあるだろう。
•「時間の停滞域」: 最深部に近づくにつれて、響は空間そのものが「重く」なるような感覚を覚えた。これは、術師「ナイトメア」が、ファントムの指示で生み出した、エーテルが凝縮された領域。このゾーンに侵入すると、時間の流れが極端に遅くなり、身体の動きだけでなく、思考速度までもが鈍化する。まるで、泥の中を歩くような感覚になるだろう。
•「エーテル・アブソーバー(魔力吸収装置)」: 要塞内部の各所に、エーテルを吸収し、魔法の力を弱体化させる装置が設置されているのが感じ取れた。これは、侵入者の魔法を無力化するためのものだ。
響は、脳内で構築した要塞の立体図を前に、深く息を吐いた。
「これは…今までとは、レベルが違う…」
彼の心は、かつてないほどの高揚感と、それにも増して強い重圧に包まれていた。
(祖父は…この要塞から、どうやってあの掛け軸を取り戻そうとしたんだ…?)
彼は、祖父の手記に記された、ファントムとの最後の戦いの記述を思い出す。祖父は、この要塞の攻略に失敗し、掛け軸を奪われた。
その時、響の脳裏に、祖父が残した最後の言葉が蘇った。
「…月光の山水画は、エーテル・チェインの核。その力が悪しき者の手に渡れば、世界の均衡は崩れ去る。響よ…お前が、その重荷を背負い、この世界を守ることを…願う」
響は、目を閉じ、自身の内に宿るエーテルの力を感じ取った。これまでに集めたエーテル・チェインのピースが、彼の体内で熱く脈打っている。彼が持つ魔法の力は、この要塞の魔法的防衛を打ち破るための、唯一の希望だった。
(ファントム…お前は、世界の均衡を壊そうとしている。その力は、俺が取り戻す)
響の心には、恐怖よりも、強い使命感が勝っていた。これまで感じていた「孤独」も、「自問自答」も、この瞬間、彼の内なる炎によって燃え尽くされたかのようだった。彼は、自分がこの重荷を背負い続けるべき人間であることを、完全に受け入れていた。
「これまでのどんな罠よりも、強力なものになるだろう。だが…」
響は、月光庵のアトリエの窓から、遠くに見える東京の街の灯を見つめた。そこには、彼の守るべき人々が、そして、彼が守るべき世界がある。
「俺は、必ずやり遂げる」
彼の瞳は、夜空の月光のように、静かに、しかし力強く輝いていた。全ての力を結集し、最も危険な場所へと踏み込む時が、ついに来たのだ。響は、この戦いが、彼の人生、そして世界の運命を賭けた、最後の戦いになるかもしれないことを、覚悟していた。
ベルリン旧市街の地下深く、月森響は「シャドウ・オークション」の本拠地へと足を踏み入れた。彼の脳内には、祖父の手記から読み解いた要塞の構造と、ファントムの狂信的な計画、そして自身の使命が刻み込まれている。ここが、全てを決する最後の舞台となる。




