表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

黄金のコンドル像

新たな事件の兆候が浮上した。国際的な違法薬物取引で莫大な富を築き、美術品を洗浄してきたとされる、裏社会の大物「ブラッド・バロン」こと、バートランド・シュナイダーが、日本に秘蔵の美術品を持ち込んでいるという情報が入ったのだ。彼の所有する美術品は、南米の古代文明の「黄金のコンドル像」で、これもまた「エーテル・チェイン」のピースである可能性が高かった。


冴島は、この情報を《アークス》が必ず掴むだろうと予測していた。そして、彼は、この機会を《アークス》との「暗黙の協力関係」を深めるための好機と捉えた。


「高橋、シュナイダーが日本に持ち込んだ『黄金のコンドル像』の警備体制を、厳重に敷け。特に、彼のセーフハウスは、シャドウ・オークションの介入も予想される。監視を強化しろ」


冴島は、あえて《アークス》が情報を入手しやすいように、そして彼が狙いを定めやすいように、セーフハウスの警備情報を「一部」だけ流した。それは、彼が《アークス》に「ヒント」を与えるための、最初の一手だった。


盗難決行の夜。 バートランド・シュナイダーの隠れ家である、都心の高級マンションの最上階。冴島は、警備の指揮を執っていた。部屋の中央には、「黄金のコンドル像」が厳重なガラスケースに収められている。その周囲には、スネークが仕掛けたと思われる、最新鋭の音響センサーと、精神攪乱装置が設置されていた。


「警視、現在の警備体制は万全です。スネークの部隊も、我々とは別のフロアで待機しています」


高橋刑事が報告した。


午前0時。


その瞬間、室内に微かな「羽ばたくような音」が響いた。それは、鳥の羽ばたきのような、しかし、物理的にはありえない静かさだった。


「なんだ!今の音は!?」シュナイダーが叫んだ。


その直後、室内の音響センサーが、激しく誤作動を起こし始めた。耳を劈くような高周波のノイズが響き渡り、警備員たちが頭を抱えて苦しむ。


これは、響が「黄金のコンドル像」から引き出した新たな魔法、「音波の操作」によるものだった。彼は、音波を操作することで、センサーを誤作動させ、人々の聴覚に直接干渉し、意識を麻痺させることができるのだ。


「ぐっ…耳が…!」高橋も苦痛に顔を歪める。 冴島は、自身の空間認識能力を最大まで研ぎ澄ませた。音響ノイズの中で、彼は微かなエーテルの波動が、部屋の中を高速で移動しているのを感知した。その波動は、まるで小さな鳥が飛び回っているかのようだった。


そして、ノイズが止んだ瞬間、「黄金のコンドル像」は、忽然と姿を消していた。


「消えた…!またしても…!」シュナイダーは絶望の叫び声を上げた。


その時、冴島は、部屋の隅に置かれた観葉植物の植木鉢に、微かに土が盛り上がっていることに気づいた。その土からは、まるで今、掘り起こされたかのように、わずかな湿気と、奇妙な花の香りが漂っていた。


「高橋!あの植木鉢を調べろ!何かある!」冴島が指示を出す。


高橋が植木鉢を調べると、土の中から、小型のデジタルレコーダーが発見された。そのレコーダーには、バートランド・シュナイダーが、部下たちと違法な薬物取引を行っている際の、決定的な会話が録音されていたのだ。声紋分析を行えば、確実にシュナイダーのものだと判明するだろう。


「これは…!完璧な証拠です、警視!」高橋が興奮して叫んだ。


その日の午後、バートランド・シュナイダーは、国際的な薬物取引と資金洗浄の容疑で逮捕された。世間は、またも「《アークス》が巨悪を暴いた!」と騒然となり、彼の「義賊」としての評価は、ますます不動のものとなっていた。


そして、数日後、「黄金のコンドル像」は、南米のジャングルの奥深く、古代コンドル信仰を守る少数民族の集落に、匿名で届けられているのが発見された。族長は、失われた聖なる像の帰還に涙し、その奇跡的な出来事を代々語り継いでいくと誓った。


今回の事件は、冴島に確信をもたらした。 彼は、植木鉢の中からレコーダーを発見した際、レコーダーの周囲に、微かに「鈴木刑事の指紋」が残されていたことに気づいていた。それは、薄く、まるで何かの拍子に触れてしまったかのような、不自然な指紋だった。


(彼は…警察官に変身した分身を操り、悪役の不正の証拠を、我々が「厳重な警備」のために配置された場所の、最も見つけやすい場所に残している…そして、その分身に、意図的に「ヒント」となる痕跡を残させている…!)


冴島は、あの監視カメラの映像で見た「鈴木刑事の分身」が、どのように機能しているのかを完全に理解した。分身は、単に情報漏洩や攪乱を行うだけでなく、警察官として、捜査に「介入」し、証拠の発見を「誘導」していたのだ。


彼は、この真の手口に気づいたことに、背筋が凍る思いがした。しかし、同時に、それは《アークス》が彼に「協力」しようとしている証拠でもあった。


(彼は、私に…この世界の歪みを正すために、共に戦おうと呼びかけているのか…?)


冴島は、この真実を誰にも話すことができなかった。公にすれば、警察組織の信頼は地に落ちる。しかし、この「暗黙の協力関係」は、彼自身の正義感と、ファントムという巨大な闇との戦いにおいて、不可欠なものとなりつつあった。


冴島の心の中では、警察官としての「法の下の正義」と、《アークス》がもたらす「結果としての正義」が、複雑に絡み合っていた。彼は、法を守る立場でありながらも、《アークス》の存在を認め、その「ヒント」を利用することで、これまで不可能だった巨悪の逮捕を次々と成し遂げていたのだ。


今後、冴島は、この暗黙の協力関係をより巧妙に利用していくことになるだろう。彼は、わざと「見落とし」を装ったり、特定の捜査情報を「偶然」《アークス》に届くように仕向けたりするかもしれない。そして、《アークス》もまた、冴島の「協力」を感知し、より精度の高い「ヒント」を残すようになるだろう。


この奇妙な「共闘」は、ファントム率いる「シャドウ・オークション」との最終決戦に向けて、ますます深化していくことになる。冴島は、孤独な戦いの中で、新たな「正義」の形を模索し続けることになるのだ。


月光庵のアトリエで、響は祖父・静馬が残した「月森家秘録」の最後のページを読んでいた。彼の心臓は、これまでになく高鳴っていた。幾度もの戦いを経て、様々な魔法を習得し、自らの使命を強く自覚した今、響はついに、祖父から奪われた、そして「エーテル・チェイン」の核となる最も強力な魔法の力を秘めた「秘宝」、すなわち「月光の山水画」の場所を特定しようとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ