力の代償と使命の重圧
「混沌の砂時計」の盗難を終え、月森響は月光庵のアトリエに戻っていた。体内に宿る「時間の操作」の魔法は、これまでのどの力よりも強く、彼の五感を研ぎ澄まされていた。だが、同時に、彼の心に大きな重圧を与えていた。祖父・静馬が残した「月森家秘録」を読み進めるにつれ、彼は自身が背負う使命の、想像を絶する重さを知っていくことになったのだ。
響は、手記の次のページをめくった。そこには、これまで響が手に入れてきた魔法の、より深い真実が記されていた。
「…『透明化』の魔法は、単なる視覚の欺瞞にあらず。それは、対象の存在を、一時的にエーテル領域へと移行させる力。これを超越すれば、物理的な存在すら揺るがし、非物質化を可能とする」
響は、自身が藤堂邸で手に入れた最初の魔法が、どれほどの可能性を秘めているのかを知った。物体を非物質化させる。それは、もはや物を盗むだけでなく、存在そのものを消し去ることも可能にする、恐ろしい力だった。
「…『分身』の魔法は、自己のエーテルを複製し、一時的な実体を創造する。これを超越すれば、意識の多重化、すなわち複数の思考を同時に並行させることを可能とし、あらゆる状況に瞬時に対応する思考速度を得る」
警察内部を攪乱するために使った分身の魔法が、その真の力を発揮すれば、響は複数の思考を同時に行い、予測不能な事態にも瞬時に対応できるようになるというのだ。それは、人間としての限界を超える、超人的な思考能力だった。
「…『幻覚』の魔法は、他者の精神に直接干渉し、真実を見せることを妨げる。これを超越すれば、精神の支配、すなわち他者の思考や行動を、意のままに操ることも可能となるだろう」
山岡義信を欺いた幻覚の魔法が、最終的には他者の精神を支配する力に繋がるという事実に、響は背筋が凍る思いがした。それは、まさに「シャドウ・オークション」が狙う「支配の力」に通じる、危険な力だった。
「…『空間の認識・操作』は、エーテルの流れを読み解き、空間の歪みを見出す力。これを超越すれば、空間転移、すなわち瞬時に遠隔地へと移動することを可能とする。そして、『エーテル・チェイン』の核である『月光の山水画』の真の力と結びつくことで、大規模な空間移動をも可能とするだろう」
堂島邸での盗難で得たこの魔法は、最終的にワープ能力へと進化するというのだ。そして、祖父の掛け軸が持つ力と合わさることで、その移動は大規模なものになる。それは、まるで神話の世界に出てくる瞬間移動にも匹敵する力だった。
「…そして、最後に得た『時間の操作』は、最も危険な力の一つである。時間の流れを緩めることは、未来を予測し、過去を改変する可能性を秘めている。これを超越すれば、因果律の操作、すなわち事象の発生そのものを操作し、結果を意のままに書き換えることも不可能ではない」
神崎悟から盗んだ「混沌の砂時計」が響に与えた「時間の操作」の魔法。これが最終的に因果律の操作に繋がるという事実に、響は最大の衝撃を受けた。それは、もはや人間が触れてはならない領域の力だ。過去を改変し、未来を意のままにする。そんな力が、自分に宿る可能性があるという事実に、響は眩暈を覚えた。
これらの真実を知るたびに、響は、自分が集めているものが、単なる「魔法」ではなく、世界の根源的な秩序にすら干渉し得る、途方もない力であることを悟った。
静馬の手記には、エーテル・チェインが世界の均衡に与える影響についても、厳重な警告が記されていた。
「…『エーテル・チェイン』が完全な形で悪しき者の手に渡れば、世界は計り知れない危機に瀕する。エーテルは、世界のあらゆる事象の根源にある力であり、それを歪めれば、自然災害を引き起こし、人々の精神を混乱させ、歴史の歪みを招くこともあり得る」
響は、その言葉に、自分が背負う使命の重さを改めて痛感した。彼が操る魔法が、もし制御を失えば、あるいは悪用されれば、世界そのものを破壊しかねないというのだ。
「故に、月森家は代々、エーテル・チェインの守護者として、その力を正しく管理し、決して悪用されぬよう努めてきた。我らは、『世界の均衡の番人』としての役割を担っているのだ」
「世界の均衡の番人」…その言葉が、響の心を深く締め付けた。彼は、ただ祖父の敵討ちのために美術品を盗み、不正を暴いてきただけだった。しかし、その行為が、世界の命運を左右するほどの重い使命へと繋がっていたのだ。
「俺は…本当にこの重荷を背負い続けるべきなのか…?」
響は、アトリエの窓から夜空を見上げ、静かに呟いた。彼の心の中には、孤独感が渦巻いていた。この「秘法」と「エーテル・チェイン」の真実を知る者は、世界中で自分一人しかいない。冴島警視は、確かに彼の行動の「義」を理解し始めているようだが、彼が魔法の存在をどこまで理解しているのか、響には分からなかった。
彼は、誰にもこの秘密を打ち明けることができない。家族も、友人も、誰もこの真実を理解できないだろう。理解できたとしても、その重圧を共に背負うことはできないだろう。彼は、ただ一人で、この途方もない力を管理し、世界の均衡を守らなければならないのだ。
「もし、この力が暴走したら…?もし、俺が過ちを犯したら…?」
彼の脳裏には、自分が操る魔法が、制御不能になり、世界を混乱に陥れる恐ろしいヴィジョンがよぎった。時間を歪め、空間を捻じ曲げ、精神を支配する。そんな力が、一人の人間の手に委ねられていることの恐ろしさ。
(俺は…本当に、そんな大それたことができるのか?祖父は、この重圧をどう乗り越えてきたんだ?)
手記の中の祖父は、常に冷静で、泰然自若としているように見えた。だが、彼もまた、同じ孤独と重圧を感じていたのだろうか。
響は、自らの内に宿る魔法の力が、徐々に、しかし確実に、彼の人間性を蝕んでいくのではないかという恐怖を感じ始めていた。力が強くなればなるほど、彼は常識的な感覚から遠ざかり、人間としての感情や倫理観が薄れていくのではないかという不安が募る。
「法を犯してまで、正義を貫くことの是非…」
冴島警視の言葉が、響の耳に蘇る。響は、自分が悪役の不正を暴くことで「正義」を行っていると信じてきた。だが、その過程で、彼は法を犯し、社会の秩序を乱しているのもまた事実だ。彼がいくら「義」のためだと言い訳をしても、その行動は犯罪者としてのものだ。
そして、「シャドウ・オークション」という巨大な闇の組織の存在。彼らは、響が狙うエーテル・チェインのピースを、支配のために欲している。彼らとの戦いは、響自身の命だけでなく、世界の命運をかけたものになっていく。
(俺は、この戦いを続けるべきなのか?誰かに、この使命を託すべきではないのか?)
彼の心の中で、自問自答が繰り返される。
このまま力を集めて、本当に世界を救うことができるのか。それとも、自分がこの力を持ち続けることで、かえって世界を危険に晒すことになるのではないか。
彼は、祖父が最後に記した言葉を思い出した。
「…月森家の血は、エーテル・チェインの守護者として、その運命を背負う。それは、決して逃れることのできぬ宿命である。だが、その宿命を如何に全うするかは、それぞれの代の守護者の『選択』に委ねられている」
祖父は、彼に「選択」の余地を残していた。しかし、その「選択」が、これほどまでに重いものだとは、響は想像だにしていなかった。
響は、アトリエの壁に飾られた、まだ修復途中の古い掛け軸を見つめた。それは、祖父がかつて修復を手がけ、響に「美術品の魂を感じろ」と教えた、思い出の品だ。
(祖父…貴方は、この孤独と重圧に、どう向き合っていたんですか…?)
彼の心は、嵐のように荒れ狂っていた。自分が何者であるのか、何をすべきなのか。その答えを求める旅は、まだ始まったばかりだった。しかし、彼の内なる使命感は、この重圧に押しつぶされることなく、新たな覚悟へと繋がっていく兆しを見せていた。
「混沌の砂時計」事件の後、冴島漣は、《アークス》の不可解な能力の背後に、単なる「技術」では説明できない、何か別の「力」が存在することを確信し始めていた。彼の捜査は、「シャドウ・オークション」の首謀者「ファントム」へとその焦点を絞りつつあった。一方、月森響は祖父の手記を通じて「エーテル・チェイン」の真実と、その力が世界の均衡に与える影響を知り、自らの使命の重さに葛藤していた。
冴島は、これまでの《アークス》事件で逮捕された悪役たちの供述、そして「シャドウ・オークション」の幹部であるスネークの行動から、ファントムの存在をより具体的に把握し始めていた。特に、神崎悟の逮捕後、彼の会社に残されたデータの中から、スネークと神崎の間に交わされた暗号化された通信記録が発見された。
「これは…まるで、宗教的なテキストのようだ」
高橋刑事が、解読された通信記録の一部を読み上げた。そこには、美術品の売買情報に加えて、「古の約定」「世界の浄化」「真の調和」といった、抽象的で不穏な言葉が頻繁に登場していた。
「彼らは、単なる美術品ブローカーではない…」冴島は呟いた。彼の直感は、ファントムが単なる金儲けを目的とした犯罪者ではないことを告げていた。
冴島は、美術史家・篠原美緒に協力を仰いだ。
「篠原さん、この通信記録に出てくる『古の約定』や『真の調和』といった言葉に、何か心当たりはありませんか?特に、美術品や歴史の文脈で」
篠原は、通信記録のデータに目を通し、表情を曇らせた。
「これは…古代の秘儀や、ある種の終末論的な思想によく見られる記述です。特に、『真の調和』という言葉は、かつて世界が一つであった時代、あるいは混沌の中から新たな秩序を築くという思想を持つ、特定のカルト的宗教や秘密結社が用いる言葉に酷似しています」
彼女は、一枚の古地図を広げた。そこには、世界各地の古代遺跡や、伝説上の場所が記されている。
「そして、これらの言葉が、エーテル・チェインのピースとされる美術品と関連づけられているとすれば…ファントムは、それらの美術品に宿る力を利用して、何らかの形で世界の秩序を再構築しようとしている可能性が高いです」
「世界の秩序を再構築?」冴島は眉をひそめた。
「ええ。彼らは、現代社会の歪みを嘆き、それを美術品に宿る『エーテル』の力で強制的に是正しようとしているのかもしれません。しかし、それは決して、私たち人間が理解し得る『調和』ではないでしょう。おそらく、彼らの理想とする『調和』のためには、既存の秩序や、多数の人々の犠牲も厭わない、狂信的な思想が背景にあるはずです」
篠原の言葉に、冴島は背筋が凍る思いがした。美術品を巡る争いが、世界の命運をかけた戦いへと発展している。そして、ファントムは、その全てを裏から操る首謀者だ。
同じ頃、響は祖父の「月森家秘録」を読み進める中で、ファントムの正体に迫っていた。手記の後半には、祖父・静馬が「シャドウ・オークション」との間で繰り広げた、壮絶な戦いの記録が記されていた。
「…奴らは、エーテル・チェインの真の力を理解しておらず、ただ己の野望のためにそれを欲している。特に、その首謀者『ファントム』は、『エーテル・チェインを完璧に繋ぎ合わせることで、世界は新たな進化を遂げ、真の黄金時代を迎える』という、狂信的な思想に取り憑かれている」
響は、その記述に息を呑んだ。祖父は、ファントムの思想を「狂信的」と断じていた。
「…ファントムは、エーテル・チェインの真の歴史と、月森家の秘法に関する歪んだ知識を独自に持っている。奴は、自らを『世界の管理者』と称し、チェインの力を用いて、既存の文明を破壊し、自らの理想とする世界を創造しようとしている」
響は、全身に鳥肌が立つほどの衝撃を受けた。ファントムが「エーテル・チェイン」の力を利用して、既存の世界を破壊し、新たな世界を創造しようとしているというのだ。それは、神にでもなったかのような、傲慢で危険な思想だった。
手記には、ファントムがどのような計画を進めているのか、その一端が記されていた。
「…奴は、エーテル・チェインの各ピースが持つ力を、個別に利用するだけでなく、チェインが完全に繋がった際に起こる『エーテル・シンクロニシティ(共時性)』を狙っている。それは、チェインの全てのピースから放たれるエーテルが完全に同調し、一つの巨大な力場を形成する現象である」
この「エーテル・シンクロニシティ」が起こると、何が起こるのか。
「…エーテル・シンクロニシティが起こると、世界中のエーテルの流れが完全にファントムの支配下に置かれる。そうなれば、彼は、大規模な自然現象(地震、津波、噴火など)を誘発し、人々の精神を自由に操作し、さらには、歴史そのものを歪めることすら可能となるだろう」
響は、その言葉に絶句した。地震、津波、噴火…これらは、単なる自然災害ではない。ファントムが意図的に引き起こす、世界の破壊行為だった。そして、人々の精神を操作し、歴史を歪める。それは、まさに人類がこれまで築き上げてきた全てを根底から覆す行為だった。
「…そして、その最終的な目的は、彼の理想とする『単一の意思による世界支配』。
彼は、自らを『真の王』と称し、世界を強制的に『調和』させようとしている」
「単一の意思による世界支配」…それは、響が最も恐れていたことだった。ファントムに「エーテル・チェイン」の力が完全に繋がれば、彼は神に匹敵する力を手に入れ、世界は彼の独裁的な支配下に置かれることになる。
響は、手記から目を離し、夜空を見上げた。自分が集めてきた「エーテル・チェイン」のピースが、これほどまでに恐ろしい力を秘めていたとは。そして、それを奪おうとしているファントムが、人類の歴史を書き換えようとしている狂信者だとは。
「もし、この力がファントムの手に渡ったら…」
響は、想像するだけで全身が震えた。彼の持つ能力は、まだ未完成だ。だが、それでも彼は、時を操り、空間を歪め、分身を生み出すことができる。もし、ファントムが、その全ての力を完璧に操り、さらにエーテル・シンクロニシティを発動させれば、世界は彼の思い通りに崩壊させられ、再構築されるだろう。
(それは…絶対に止めなければならない)
これまで、響は自分の行動の「正義」に疑問を抱くこともあった。法を犯してまで、本当に自分がこの使命を背負うべきなのか、自問自答を繰り返してきた。しかし、ファントムの真の目的を知った今、その葛藤は消え去った。
「この力は、俺が持たなければならない」
響は、強く心に誓った。ファントムのような狂信者に、この力が渡ることは許されない。彼がこの力を手に入れれば、世界は破滅に向かうだろう。
彼は、祖父の手記の最後のページに、静馬の震えるような筆跡で記された一文を見つけた。 「…私は、エーテル・チェインの真の守護者として、この力を悪しき者から守り抜くため、生涯を捧げた。その使命は、血によって受け継がれし者へと託される。響よ…お前が、その重荷を背負い、この世界を守ることを…願う」
祖父は、全てを分かっていたのだ。響が、いずれこの真実にたどり着き、この途方もない使命を背負うことを。そして、祖父が最後に「シャドウ・オークション」に奪われた「月光の山水画」こそが、ファントムが最も欲する、エーテル・チェインの「核」なのだ。
「必ず取り戻す…祖父の掛け軸を、そして、全てのピースを」
響の瞳には、かつての迷いはなく、強い覚悟の光が宿っていた。彼は、自分だけがこの魔法の真実を知る孤独と、その力を正しく使う使命の重さに、改めて向き合うことを決意した。この重荷を背負い続けること。それは、もはや彼にとって、自問自答の対象ではなく、紛れもない「宿命」となったのだ。
一方、冴島もまた、ファントムの狂信的な思想に危機感を募らせていた。
「篠原さん、彼らは、本当に世界を…」
「ええ、警視。彼らは、自らの手で『神』になろうとしている。そして、そのために『エーテル・チェイン』の力を利用しようとしているのです」
冴島は、自身のデスクに戻り、これまでの《アークス》事件と、「シャドウ・オークション」の関連資料を広げた。
「彼らの目的は、金儲けではない。世界を支配すること…そのために、あの怪盗の持つ力をも奪い取ろうとしている」
彼の脳裏に、スネークが今回の事件で使った「闇の術師」の姿が蘇る。彼らが、美術品に宿るエーテルを模倣した力を使っていたのだとすれば、ファントムの目的と、彼らが持つ「エーテル・チェイン」に関する知識は、間違いなく繋がっている。
「《アークス》は、ファントムの計画を阻止しようとしている…だが、同時に、彼は法を犯している。この板挟みの中で、我々はどう動くべきなのか…」
冴島は、深く考え込んだ。しかし、ファントムの危険性を認識すればするほど、彼は《アークス》の存在が、この世界にとって必要な「対抗力」であるという、複雑な感情を抱かずにはいられなかった。
冴島の捜査は、ファントムの具体的な居場所と、彼が次に狙う「エーテル・チェイン」のピースを特定することへと向かう。それは、単なる美術品犯罪捜査の枠を超え、世界の命運をかけた、壮大な戦いの始まりを告げていた。
冴島は、まず自身の身辺を徹底的に洗い直すことから始めた。彼は、携帯電話、PC、そして部屋の中に、盗聴器や監視カメラが仕掛けられていないかを、自ら密かに確認した。最新鋭の機材を使い、念入りにチェックしたが、物理的な痕跡は一切見つからない。
「やはり…物理的な手段ではない」
彼は、自身の空間認識能力を研ぎ澄ませた。微細なエーテルの波動を感知しようと試みる。そして、彼が最も信頼する部下、高橋刑事にも、自身の疑念を打ち明けることはできなかった。信頼する仲間が高橋しかいないからこそ、彼に危険を及ぼす可能性のある情報を共有することはできなかったのだ。
冴島は、自身のデスクに設置された監視カメラの映像を、誰もいない深夜に、改めて細部にわたって検証し始めた。彼が特に注目したのは、鈴木刑事の行動だった。彼は、あのサーバー不正アクセス事件で、監視カメラに「鈴木刑事と酷似した人影」が映っていたことを忘れていなかった。
数日後、冴島はついに決定的な「違和感」を捉えた。 深夜の捜査本部。誰もいないはずのフロアで、鈴木刑事のデスクのライトが、一瞬だけ点滅した。その瞬間、冴島の監視モニターの画面が、ごく僅か、まるで波紋が広がるように歪んだのだ。
「これだ…!」
冴島は、思わず声を上げた。それは、彼が《アークス》の犯行現場で感じた、あの「空間の歪み」と酷似していた。そして、その歪みが生じた直後、鈴木刑事のPCから、ごく微量のデータが外部へ送信されるログが残されていた。それは、ほんの数バイトの、ごく短いデータだったが、冴島はそれが「情報漏洩」の痕跡であると確信した。
(彼は…分身を操って、鈴木さんのPCを遠隔操作しているのか…?)
冴島は、自身の推測が当たっていることに、背筋が凍る思いがした。しかし、同時に、これでようやく「見えない敵」の正体が掴めたことに、安堵のような感情も抱いた。
彼は、その証拠を誰にも見せず、自身のPCに厳重に保管した。そして、この事実を公にせず、密かに《アークス》の動きを監視し、その意図を探ることを決意した。警察組織の信頼失墜を防ぐため、そして何よりも、この謎多き怪盗の真の目的を解き明かすために。
冴島は、《アークス》の行動が、単なる盗みではなく、悪役の不正を暴くことに繋がっているという確信を深めていた。そして、その不正を暴くための「ヒント」を、彼が意図的に警察に残していることも。
「彼は、私たち警察を…利用しているのか、それとも…」
冴島は、ある意味で、《アークス》の目的が、結果的に警察の「正義」に繋がっていることを認めざるを得なかった。法だけでは裁けない悪が存在する現実を、彼は身をもって知っていたからだ。




