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影打の刀

「警視、今回の『影打の刀』の件ですが…」

高橋刑事が、新たな報告書を持って冴島のデスクに現れた。

「堂島邸事件で逮捕された堂島宗一郎の供述から、『影打の刀』が、かつて戦国時代の武将が愛用していたものであり、現在の所有者である大手IT企業のCEO、黒崎 隆一が、不正な株式操作によって手に入れたものであることが判明しました」

高橋の報告に、冴島の目は鋭く光った。黒崎隆一。彼もまた、裏社会との繋がりが噂される人物だ。

「黒崎のオフィスは、最新鋭のセキュリティビル。特に、CEOのプライベートオフィスにある金庫は、指紋認証、網膜認証、音声認証に加え、心理センサーまで搭載されています。不正な感情の揺らぎを感知し、ロックを強化するシステムです」

高橋は、眉をひそめて説明した。

冴島は、立ち上がり、黒崎オフィスの図面を広げた。

「心理センサー、か…」

彼が、黒崎の不正の証拠が、どこに隠されているのかを予測し始めたその時、彼の脳裏に、祖父が残した手記の一節が蘇った。

「『影打の刀』…空間認識を強化する作用を持つ。そして、それはエーテル・チェインの『感知』のピース…」

そして、手記には、こうも書かれていた。「感知のピースは、隠された通路をあぶり出し、真実の鎖を繋ぐ」


盗難決行の夜。黒崎隆一の超高層オフィスビルは、警視庁の厳重な警戒態勢が敷かれていた。冴島は、最上階のCEOオフィスに続く廊下で、警備の指揮を執っていた。

「警視、現在の警備体制では、蟻一匹侵入できません。特に、金庫室の心理センサーは、いかなる侵入者にも反応するはずです」

高橋刑事が報告した。


午前0時。日付が変わった瞬間、室内の照明が、不自然なほど静かに、ごく僅かだけ、揺らいだ。

「なんだ…?」黒崎が訝しんだ。

その直後、金庫室の扉に取り付けられた心理センサーが、激しく点滅し始めた。

「心理センサーに反応!侵入者が、強い不安を感じています!」警備員が叫んだ。

「バカな!金庫の中には誰もいないはずだ!」黒崎が叫んだ。

モニターには、金庫室の中央に飾られた「影打の刀」が映し出されている。その周囲の空間が、微かに揺らめいているのが確認できる。

「透明化か!電磁波撹乱装置を最大出力にしろ!」冴島が指示した。

しかし、電磁波撹乱装置が作動しても、その「揺らめき」は消えない。それどころか、まるで嘲笑うかのように、金庫のロックが、カチッ、カチッ…と、音を立てて解除されていく。


「何が起きている!?一体どうやって!」黒崎は、恐怖に顔を歪ませた。


そして、開かれた金庫の扉から、「影打の刀」が、まるで意思を持ったかのように、スッと宙に浮き上がり、そのまま光の中に溶け込むように消え去った。


「消えた…!また消えただと!?」高橋が呆然と呟いた。


その時、冴島の視線は、金庫室の壁の隅に向けられていた。彼の空間認識能力が、そこに微かな「歪み」を感じ取っていた。その歪みは、これまでの事件で感じたものよりも、はるかに明確で、まるで彼に「気づいてくれ」と語りかけているかのようだった。


冴島は、その「歪み」の真上に手をかざした。そして、その壁の奥から、微かな「カシャ…」という、カメラのシャッター音のような音が聞こえた。それは、以前の事件で聞こえた「パチリ」という音とは異なる、しかし、やはり意図的に鳴らされたかのような、極めて小さな音だった。


「ここだ…!」冴島は確信した。


彼は、高橋刑事に指示した。「高橋、この壁を徹底的に調べろ!何か隠されているはずだ!」


冴島たちは、その壁の奥から、予想だにしなかったものを見つけた。それは、壁に巧妙に隠された、小型のドローンに搭載された高解像度カメラだった。そのカメラのSDカードには、黒崎隆一が、過去に不正な株式操作やインサイダー取引を行い、ライバル企業を破産に追い込んだ決定的な瞬間が、映像と音声で克明に記録されていたのだ。映像には、黒崎が部下に指示を出し、違法な取引を行う様子が、驚くほど鮮明に映っていた。


「これは…決定的な証拠だ…!」高橋は、興奮して叫んだ。

カメラは、まるで「最も見つけやすい場所」に置かれていたかのように、すぐに発見された。その位置も、角度も、黒崎の不正行為を完璧に捉えるように調整されていた。まるで、誰かが、警察がそこに「偶然」気づくことを予期して仕掛けたかのようだった。


「…やはり…」


冴島は、発見された証拠を前に、確信を深めた。これは、もはや「偶然」ではない。《アークス》は、明らかに警察に「ヒント」を残している。彼が盗む美術品の裏にある不正を、警察に暴かせるために。


その日の午後、黒崎隆一は、不正な株式操作とインサイダー取引の容疑で逮捕された。世間は「またも《アークス》が巨悪を暴いた!」と騒然となり、彼の「義賊」としての評価は、一層高まった。


数日後、「影打の刀」は、戦国時代の武将を祀る小さな神社に、匿名で届けられているのが発見された。宮司は、代々受け継がれてきた刀の帰還に涙を流し、その奇跡的な出来事を語り継いでいくと誓った。


冴島は、自身のデスクで、黒崎の逮捕記事と、「影打の刀」が神社に返還されたというニュース記事を並べて見ていた。彼の心の中には、「《アークス》は敵だが、社会の歪みを正す存在なのかもしれない」という複雑な感情が芽生えていた。


彼は、法を守る刑事だ。犯罪は犯罪であり、逮捕すべき対象である。しかし、これまでの《アークス》の行動によってもたらされる「正義」の結果は、彼が長年信じてきた「法の下の正義」だけでは解決できなかった社会の歪みを、確実に是正していた。


(私は…彼を追い詰めるべきなのか、それとも…)


冴島の心は、深く揺さぶられていた。彼は、自らの信念と、目の前の現実との間で、新たな「正義」の形を見つけ出す必要に迫られていた。この成功体験は、冴島の中に《アークス》との間に、敵対関係だけではない、奇妙な「共闘」の萌芽を確かに芽生えさせていたのだ。


「ファントム様、例の怪盗アークスが盗んだ美術品と、我々が追っていた『エーテル・チェイン』のピースが完全に合致します。奴は、間違いなくチェインの力を集めている」


「シャドウ・オークション」の最高幹部「ファントム」の私室。薄暗い部屋の奥で、その声は響く。声の主は、黒いローブを纏い、顔を深いフードで覆い隠した人物だった。その声は性別すら判別できないほどに加工されており、底知れぬ威圧感を放っている。


「…やはりそうか。月森静馬め…まさか、血縁者がまだ生きていたとは。そして、この短期間でこれほどのチェインのピースを覚醒させるとは…」


ファントムの声は、怒りよりも、むしろ静かな興奮と、わずかな驚きを含んでいた。


「スネークよ。これまでのように、小手先の対策では間に合わない。奴は、もはや『高度な技術』の範疇を超えている。奴の能力は、我々が追い求める『真の力』の一端に触れている」 ファントムは、テーブルに広げられた地図の、点と点が線で結ばれたような図を指した。それは、エーテル・チェインの各ピースの所在を示す図だった。響が盗んだ美術品が記された場所には、既に「回収済み」の印が付けられている。


「奴は、必ず次のピースを狙う。我々がそれを手に入れる前に、奴を捕らえ、その身に宿る『秘法』と、回収したチェインの力を全て奪い取れ」


ファントムの声が、低い唸りのように響いた。


「了解いたしました、ファントム様。今回は、抜かりなくやらせていただきます」


スネークの表情は、冷徹なままだった。彼は、これまでの敗北で《アークス》が単なる人間ではない、「人間離れした能力者」であると確信していた。そして、その能力の正体が何であれ、それを上回る「力」で対抗すればいいと信じていた。


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