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5 神様のお膝元



三路山、中層部。


信徒のみが入ることの許された宗教的価値の強いいわば聖地である。

ここには信者の住居が軒を連ね、人工的な光が作り出すい白い明りはなく、蝋燭が中に吊るされた提灯だけが赤く夜を照らしている。


機械的な物、現代的な物は極限まで排除され、都会や街中で響く騒音も電光掲示板の青白いネオンも無く、世界のここだけが切り取られて時間が止まってしまったのかのような幻想すら抱いてしまうかのようだった。


そんな中層の中心で、闇に溶け込むような黒い着流しをきた男は大声を張り上げ演説を行なっていた。


「我らが魂の在るべき場所は、自然と共にある。電気も、鉄も、化学も、“便利”と名を借りた堕落の産物でしかない」


男の声は不思議と耳に残る。怒鳴っているわけでもないのに、響く。染みる。赤提灯の灯りがゆらゆらと揺れる中、それを囲むように集まった信徒たちは、誰ひとりとして動かず、静かに聞き入っていた。


「人間は、間違えたのだ。火を起こし、街をつくり、塔を建て、天にすら届こうとした──その愚かさを、生きた神は見ておられる…いや、神は、我々に“最期の審判”を委ねられたのだ」


黒い着流しの男──御法川清は、両腕を広げる。まるで彼自身がその神意を代弁しているかのように、厳かに、そして狂信的に。


「我々は選ばれし者だ。忘れ去られた森に帰り、火ではなく陽を頼り、鉄ではなく土を耕し、生きる。

 この世に最も必要なのは、進化ではない。進化の先にある“終焉”なのだ」


信徒たちがゆっくりと頭を垂れる。まるで合図を受けたように、何人かは膝をつき、地に額をつける。

焚かれた香の煙がゆらゆらと漂い、空間の輪郭を曖昧にしていた。


「神は眠っている。だがそれは、無関心ではない。必要なとき、彼女は目を開け、世界に“停滞”を与える。

 ──それが文明が育んだ毒への解毒になる」


その言葉に、信徒のひとりが小さく「ありがたや」と呟いた。

御法川はそれをじっと見つめ、続ける。


「今や都市は狂い、教育は腐り、医療は欲にまみれた。

 だからこそ、我々は“戻らねばならない”。神に、自然に、人としての本分に──」


御法川はそこで一度言葉を切り、静寂の余韻を確かめるように目を閉じた。


そして、微笑を浮かべる。


「その道を照らす光こそ、“生きた神”。

 終身教はその御手足である。

 この三略山こそが、最後の方舟となる」


拍手はなかった。ただ深く、深く、沈黙が降りた。

信徒たちは誰も口を開かず、その言葉をただ、受け入れた。


そして御法川は、静かに演壇から降り信徒たちの間を縫って消えていった。

続いて信徒達も散らすように姿を消し静寂が訪れる。

まるで最初から、暗闇しかなかったかのように。


⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎



石段を登りきった後、少し行くと巨大な門が現れた。


門──正確には、鳥居のような構造だが、どこか神社とも仏閣とも言い切れない独特の佇まいだった。


ていうか、ここって神社なのか寺なのかどっちなんだろうか。あとでミラに怒られる前にこっそり調べておこう。



門扉は太く組まれた木材は一切の装飾がなく、朱塗りもなければ銘板もない。ただ、風雨に晒されてきたであろう素地の木が、黙して時の流れを物語っていた。


基本的にピンチ以外は無神論者な僕だが、神のおわす社の門と言われたらなんだか不思議な気分になってくる。


「……ここが、下層か。」


僕がそう呟くと、ミラも一歩引いて門全体を見渡す。


「思ったより質素、というか……地味ね」


「派手さはないけど、逆に“らしい”って感じでいいよね。風流を感じるってやつだ」


澄んだ空気を吸い込み門をくくる前に辺りを見渡すと門の脇には手書きの案内板が立てられていた。

『三略山 下層参拝区 写経体験・水行処・開祖記念堂あり』

──それだけ。QRコードも説明用のデジタル案内もなく、まるで昭和の観光案内のような雰囲気だった。


「どうする? 入る?」


「当然でしょ。任務よ」


僕が軽口を叩く間もなく、ミラはさっさと門の中へと歩を進める。

その後を追って、僕も鳥居もどきの門をくぐった。



⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎⬛︎⬜︎



門を潜ると空気が変わったような気がした。

少し涼しくなった、気がする。


鳥居の内と外とで気温が違う、というわけじゃない。

無理やり言語化するなら少しだけ音が籠もったような、視界の色が静かになったような、そんな曖昧な境界の感覚。



視界の先に現れたのは、丁寧に敷き詰められた玉砂利の参道。

両脇には苔むした石灯籠が等間隔に並び、年季の入った木造の建物がところどころに点在している。

案内板によると、ここには「写経体験処」や「水行場」、「開祖記念堂」なんてものがあるらしい。


「なんか、想像より整ってるっていうか、ちゃんとしてるな」


「宗教施設としては珍しくないわ。むしろ観光向けによく整備されてる方じゃない?」


ミラは淡々と答えながら、目を細めて周囲を見渡している。


「でもなんかさ、観光地にしては……静かすぎない?」


そう言いながら僕は辺りを見回す。

いるにはいる。観光客らしき中年夫婦、白装束を着た参拝客の一団──けれど、やけに物音が少ない。


「たしかに、喋ってる人が少ないわね。でもそういう“雰囲気”の場所ってことじゃない? ほら、神社でもみんな黙って歩くでしょ」


「まぁ……そうかも」


不自然、というほどじゃない。ただ、どこか控えめで、気配を殺すような気遣いが、この空間全体を包んでいる。


とりあえず、マップを見る。


参道の中央には立派な看板があって、絵地図形式の境内案内が掲げられていた。筆で描かれたような柔らかい線で、全体が一目で把握できるようになっている。



三略山 下層参拝区 案内

•正面奥:開祖記念堂(立入可)

•左手:水行処(修行体験は信徒限定)

•右手:写経体験所(随時受付)

•その手前:参拝者向け茶屋「幽水亭」

•その他:石庭、祈祷堂、祠など小規模施設複数


「……で、どうする?」


マップを見ながらそう口にすると、ミラがちらりとこちらを見上げた。どこか思案しているような顔。


「幽水亭、っていうのがあるわね。茶屋、ね」


「お、ナイス発見。ちょっと甘味でもいっとく? みたらし団子と抹茶でも──」


「そういえば」と、ミラが唐突に遮る。


「なに?」


「さっきの階段勝負の景品。」


「……え?」


「勝った方がアイスって、確かに言っわよね。だから──」


ミラは腕を組んだまま、にやりと笑った。


「抹茶アイス」


「何のことだか──」


さっきの適当な誤魔化しじゃミラの明晰な頭脳は欺けなかったらしい。


「そういうの、私、覚えてるから」


「わかったよ…仕方ないな。アイスね。」


そんなわけで、僕らは境内の右手、木々の合間にひっそりと佇む茶屋へと向かった。


茶屋の名は幽水亭──仰々しいが、どこか風情のある名前だった。外観は木造で、苔むした瓦屋根がしっとりと落ち着いた雰囲気を醸している。暖簾には筆文字で屋号が書かれていて、まるで時代劇に出てくるような小料理屋のような佇まいだった。

書く事は決まっているんですが、文章化が下手すぎて更新速度が遅くなっています。

すいません気長にお待ち下さい。m(_ _)m

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