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職業

作者: 芋姫

午前6時。


モーニングコールが鳴った。  


寝ぼけた状態で電話に出る。


「・・・・はい。もしもし。」


「おはようございます。起床のお時間でございます、○○様。」


さわやかな男性の声が電話の向こうから聞こえる。


その瞬間、低血圧で働かなかった脳が一気に覚醒する。


むくっと私は起き上がり、コホンと咳払いしてから応じる。


「お、おはようございます。」すると・・・よく眠れましたか?と優しげな甘い声が聞こえた。


なんていい声なの。朝から幸せだ。


「ええ・・・」と夢見心地で答えると、相手はそれを察したのかくすっと笑いを含んだ声で、「では○〇様、本日も遅刻なさらないよう、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」と言い、私がありがとう、とお礼を言ったところで電話が切れた。


しばしうっとりした後、私は起き上がり出勤の支度を始めた。


一人暮らしの上、低血圧で朝に弱い私は”モーニングコールサービス”を数か月前から利用し始めたのだが、これがなかなか・・いい。


顔も名前も知らない赤の他人から起こしてもらう事に最初は抵抗があったが、お試しで一回だけ利用したのち、これはいけるぞ、と思い本格的に利用することにした。


なにより起きた後の気分が半端なく良いのだ。


世の中には色々な仕事があるなあ、と思う今日この頃である。



**************************************************************************


私は今、鼻歌混じりに朝食で焼いたトーストにジャムやバターを塗っているところだった。


小鳥のさえずりも聞こえるわ♪


その時であった。


・・・ジャーン、ジャジャーン! ドンドコドンドコ、ズギュウウウウウウウン!!!


キェエエエエエエ!!!!  という激しいデスメタル超の音楽と歌声が聞こえた。



その瞬間、私の眉はぴくっと動いた。


顔がみるみるうちにひきつっていき、自然と舌打ちが出る。


(また、あの野郎か。)


あの野郎とは、隣の家の住人である。 早朝や夜遅くなど、常識のない時間帯に音楽をかける男である。


仕事はなにやってんだか知らないが、社会人の常識ってもんが無い。


せめてもの救いは・・・ここがだだっ広い郊外である事。うちも奴も一戸建てで、近隣の家々は皆、それぞれ距離がある。


何度注意しても迷惑行為を止めないこの人物に対し、最初は下手に出ていた私だが・・最近では注意の仕方も遠慮しなくなった。


まあいい、ただではすまさないからな。


私はズンズンと玄関まで歩いていき、勢いよくドアを開けると庭に出る。

そして・・・どでかい声で叫んだ。


それと同時に、今まで庭先でさえずっていた小鳥が一斉に逃げていくのがわかった。


『うるせえな!』


すると隣の庭で車の洗車をしていた、派手なTシャツにサングラスをつけ、キャップ帽子を前後逆にかぶった少々太り気味の男がこちらを見た。


私はいつものように言った。「うるせえんだよ、クソが。今、何時だかわかってんのか。このブタ野郎!」


すると男も、いつものようにへらりと笑って言った。「あ、いらしたんですね。すいませぇん。」


そしてどことなく・・嬉しそうな様子で音楽を止め、私を見てにやりと笑うと何事もなかったかのようにまた洗車を再開した。


「チッ。便器みたいな顔しやがって。」 私はそう吐き捨てるときびすを返して家の中に戻った。



いつものように。




****後日、私の口座にはいつものように”10万円”が振り込まれた。
























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