魔法の取り扱い説明のターン
インテリ然としたハイドロイドの侍従のヒューが戻ってきて、ハイドロイドに何事かをひっそりと告げる。
「イザーク、一旦部屋まで行こう」
「はい!」
食後のデザートを食べている専門機関のメンバーには、説明不要の動画に切り替えることをおすすめした。メンバーは電子書籍の漫画がかなり気になっているようだがこの人数、うまく読めないので漫画が元になっている少年誌バトルアニメにシフトする。
あくまでもファンタジーで、作中の技や魔法はあちらでは誰も使えないのだと説明したが、その辺は心得て居るという。
和食の伝道師、サトウ導師は元は農家からスタートするグルメ漫画の漫画家だそうだ。こちらに転移して味噌や醤油の作り方などを漫画にし、近年はアクションものも描いているそうで、アニメの存在もそこから聞いて知っていたそうだ。
バトルアクションものはイザークのオフラインアニメではトップクラスの数だ。電子漫画はグルメ漫画が多いのは、アクション系は兄と紙媒体で持っていたせい。
公式にトッティーモエランディール家の息子になったことを祝われてから、イザークはハイドロイドとアベル、ヒューと部屋に戻った。
ヒューが抱えていた紙をテーブルに広げる。
「これが、魔法陣だ」
自動翻訳能力が付いたおかげで、一枚一枚の紙に書いてある言葉が読めた。
「身体強化、浄化、鑑定、点火、氷塊、回復薬生成、付与」
「魔法は全て魔法陣で発動する。本来は登録ギルドで取得したい魔法の魔法陣に魔力を通し、相性と魔力コントロール可能かで得られる魔法を身につけて、その代金を支払うシステムだ。魔法陣は登録者の登録年数と貴重さで値段が変わる」
「イメージとかではないんですね」
「イメージはするが……」
言語化に首を傾げるハイドロイドに、背後からヒューが提案した。
「イザーク様の中の異世界常識や魔法をお知りになったほうが齟齬がないのでは」
「なるほど、こっちサイドで修正すればいいのか」
ハイドロイドは長椅子で足を組み替える。
イザークは謎の素材のクッションに少し凭れた。背中がなんだかふよふよしている。
「イザークの中で魔法とはどんな存在だ?」
「向こうでは、異世界ものはブームで色んなパターンがあるんですけど」
魔法は詠唱するもので、無詠唱だと強いことが多い。
攻撃魔法や生活魔法、杖が必要だったり、冒険者のランクによって使えるものが違う、など。
いくつかの流行りのものを思い出しながら説明すると、イザーク以外全員の首が捻り出した。
「魔法は、魔法陣が基礎だ。攻撃魔法に限らないが、初級中級上級と3段階ある。術式範囲と火力が違うだけで覚えたものは一律同じ攻撃力になる。勿論使う魔力も同じだから、種族や個人差でどのランクを取得するか、それとも全て取得するのかになるな。発動に関して魔法名を唱える意味は無い、取得すれば魔法陣は自由に出てくる」
アベルはせっせとメモを取っている。イザークの発言を記録しているのだ。
「頭で考えることだから、手が塞がっていようと空いてようと、威力や発動には何も問題は無いな。何故杖なんだろうか?」
「なんか、そういう固定イメージがあるんです」
紅茶の横に置いてあるマドラーを持って、イザークは魔力を少し込めてみた。
「エクスペリアームス!」
メガネの魔法使いは爆誕しなかった。イザークの周りには何も起こらない。
ハイドロイド、アベル、ヒューのそれぞれの視線に、イザークに早くも黒歴史が生まれた。
「なるほど、そういう話が流行っていたんだね」
ハイドロイドのフォローが優しかった。
チートで新しい魔法使いルートはないようだった。