我らツッコミ三兄弟
「おーっほほほ!!待望の!あなたの!姉上が再登場ですわよ〜!!」
ドアが空いてすかさず、高笑い令嬢が紛れ込んできた。
イザークは動画を一旦止めて充電器を刺し――そこでも太陽光の説明をした――専門機関の方々はようやく興奮しながら昼食を食べ始めていた。
「あら、ごめんあそばせ。トッティーモエランディール家の長女エランソニアと申します」
専門機関に向かってカーテーシーを決めようとして、エランソニアは派手に転んだ。
不器用すぎるのかと思えば、その足元は高いヒール。目算で10センチは超えていそうだった。
「えーと、エランソニア様」
見かねたハイドロイドが襟を掴みあげて起こしたところに、イザークは近寄る。
こんな衆人環視の中、大コケして恥ずかしいのではないかと思ったが、エランソニアはケロッとしていた。
「弟になったイザークです。これからよろしくお願いします」
「ええ!ワタクシはあなたの姉上よ!存分に頼りなさいな!こう見えても我が家の百戦錬磨とはワタクシのことよ!」
(ドジの百戦錬磨ではなかろうか……)
初登場も転倒シーン。再登場も転倒シーン。エラそうな名前より、ドジっ子みを感じる。
ぺたりとした胸を張るが、その胸元はジャラジャラとすごい数の装飾品が飾られていた。ざっと見ても20個以上あってどれがなんだか分かりにくい。
イザークは出来ればそれが異世界の常識であると思いたかったが、ハイドロイドの視線でその考えは甘いのだと分かる。
「お前の婚期が遠のく理由のひとつがそれだ。装飾を減らしなさい」
ボソリとハイドロイドが呟く。エランソニアはイザークが見た限り、高校生くらいに見える。この世界なら適齢期なのだろうか。
専門機関はさっさと熱い議論と感想に舞い戻ってしまい、ドアが軽くノックされた。
「はじめまして、末のシエルブルームと申します。七歳です。イザークお兄様とお呼びしてよろしいでしょうか」
完璧な礼をして、青みの帯びたプラチナブロンドの少年が入ってきた。
背はイザークより10センチは低いがあちらでの七歳児としてはさすがに驚異的だ。鬼神族が背が高いわけである。
「よろしくお願いします、イザークです」
日本ではイザークが末っ子だった。初めての弟は少しこそばゆい。
「こんな我が家に来てくださって嬉しいです!ハイド兄様が仕事でいないと、それはもう大変なのです。イザーク兄様がいらっしゃって嬉しいです」
「イザーク、これでまとも三兄弟だ」
苦労の道をいく常識ツッコミ陣営は、深く思うところはありつつ、無言でお互い見つめあった。
イザークとしては残る一人の『まとも外』を残すことになったが、概ねトッティーモエランディール家の居心地は悪くなかった。
「では僕は姉上を連れて退散しますね。専門機関に我が家の恥部を晒すのは最小限にしたいですから」
サラリと姉を例えて、シエルブルームはエランソニアを担ぎあげて退散した。
エランソニアが不平を言っているがなんのその。重いジャラジャラ含めてよく持ち上げてるなぁという、イザークの疑問が顔に出たらしい。
「お恥ずかしい限りです、身体強化しないで持ち上げられるのはピアノ一台くらいで」
素手でピアノを持ち上げる七歳。
イザークは想像して、とりあえずハイドロイドの言ったように身体強化魔法は早めに取得しなければと誓った。