鑑定スターティング!
建物、乗り物、改めて一から説明を入れたが、動画があるだけでだいぶ説明は簡易になったし、何で動くかより、何のためにそれを使うのかが質問なのでまだ答えやすい。
静かに従僕が数人、サンドイッチなどを専門機関に給仕したが誰も手に取らなかった。目が釘付けで、しばらくは誰も食べそうにない。
(あぁ、ラップがあれば乾きにくくなるのになぁ)
イザークが起きた時間からして、本来今のが昼食なのだろう。
しかし、一人はグラスに手をつけた。深紅のジュースは上にミントが乗っている。
あれは確かヴァンパイアの――と思ってイザークは自分のモヤモヤに気がついた。
「ハイドロイド様、私、昨日のメニューにニンニクを使ってしまいました」
「それがどうかしたのかい?」
動画に目を奪われつつ、ハイドロイドが小声で答える。
「だって、ヴァンパイアの方がいたんですよ?!今、あの方が飲んでるの……血ですよね?」
「魔物の血だね。それとニンニクがなにか関連するのかい?もしや異世界の知識で?」
ハッとした、イザークの知識ではヴァンパイアはニンニクと十字架が弱点だが、異世界のこちらではあてはまらないらしい。
「すみません……日本、というか向こうでは古くからヴァンパイアにニンニクはNGだという定説があって」
「なるほど。昔からなら専門機関の方は、その話は既に知っているかもね」
「あの、私はその専門機関の方々のお名前を知らなくて」
「あぁ。それはわざとだから気にしなくていいよ。昔、異世界転移者が専門機関の一人を贔屓にした事があって、それからは名乗らずに毎回違うメンバーが対応することになったそうだ。贔屓……というのは酷いかもね。心細いところを救われて、固定の相手だけに情報を渡したりして――渡された側は勿論全体に公開したのだが、やはり偏よるのはよくないが専門機関としては使徒様にいけないとは言いにくかったらしい。だからイザークも今回の専門機関が去ったら、次に来るのは見たことがないメンツになるよ」
やはり、質問に忙しくて後回しという訳ではなかった。
転移者に慣れているこの国も、それなりにトラブルがあったのだ。
「確かに――もうお会いしないとなると、少し寂しいですね」
イザークの作る料理への喜びようも、正に貴重な体験になったのだろう。
ダリルに相談して、専門機関へのご飯作りに参加させてもらおう。もしかしたら――少しはご飯の後回しが減るかもしれない。
普段からつくり手側だったイザークとしては、せっかく作ったものが放り出されているのは、少しやるせない。やはり出来たてを食べて欲しい。
「それでも、ヴァンパイアが血を飲むのは知っていたんだね」
「向こうでもヴァンパイアといえば、血を飲む生き物でしたから」
アベルがレモンを添えた紅茶を、渡してくれた。
ハイドロイドはミルクティーを受け取る。
「仕事先で知るヴァンパイアの一人は、ミルクで血を割ったり、酒で割ってたりしたよ」
(リアル、ブラッディーメアリー?)
「あぁ、ヴァンパイア国のヴァルキリアは隣国だけど、魔物の解体のほとんどを請け負ってるんだ。解体で出る血が勿体ないからね。こちらとしては血を集めつつ解体するのは、やはり手間だから」
「なるほど――ハイドロイド様のお仕事って――えっ?」
イザークは突如身体中の熱を感じた。
熱は身体の隅々まで巡り、発熱というよりソレが体を満たしているように気配を濃くする。
ハイドロイドから、同じような熱がそっと当たった。
「イザーク、トッティーモエランディール家の養子が正式に認められたんだ。しかしこれは――すぐに鑑定と……身体強化の魔法は身につけないと」
「これが魔力なんですか?鑑定?」
熱は消えたが、体に纏うものはしっかりと感じる。
ソレは正に不思議な感覚だった。
(これが魔力……)
イザークは慌てて振り返った。
「アベル!」
「はい!お言葉がわかります、イザーク様!」
やったやったと手を取り合ってはしゃいでる間に、ハイドロイドが施錠したドアをあけて侍従を呼びつける。
「ヒュー、登録ギルドに事情を説明して基礎魔法陣を取り寄せろ。鑑定と身体強化は必ずリストに入れろ」
「かしこまりました、ハイドロイド様」
目つきの鋭い青年は、優雅に立ち去った。