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新しい朝がきた

空腹でイザークは目が覚めた。


手を伸ばしてスマホを探す。見つけても、とっくにアラームは鳴り終わっていた。


(やばっ……寝過ごした!)


時刻は11時過ぎ。昼である。


起き上がろうとして慣れないパジャマに気づく。そういえば眠気マックスの中、自力でなんとか着た記憶がある。


ベットは天蓋つきで、部屋は豪華で青をメインにしたカラーでシックに纏められていた。


ベットテーブルにはベルが置かれていて、部屋の壁にも垂れ下がった紐がある。歴史ドラマでお馴染みの、使用人を呼ぶ時に引っ張ると、使用人部屋で誰が鳴らしたかわかるようになっている仕組みだ。


どちらを鳴らすべきか悩んでいると、ドアを小さくノックする音がしてライムグリーンの髪の若い男がするりと入ってきた。おそらくイザークが寝てる間に何度か出入りしていたらしい、足音を消している。


「あの」


イザークの声に、ライムグリーンの髪の主は振り返るとフレンドリーに微笑んだ。


クローゼットから服を一式引き出すと、身振りで着替えてくれるように促す。


渡されたのはホワイトシャツ、クラバットタイ、黒のトラウザーズ、深いブルーのベストとスーツジャケット。


(部屋も青だし、なんか青が多いなぁ)


流石に着替えさせられたりはしなかったので、イザークが慣れないクラバットを鏡を見ながら付けている間に、ライムグリーンのくせっ毛は退出した。


足元には革靴があり、革は少し固いもののサイズがピッタリで、寝てる間に測られたのか。


ガチャリとドアが再度空いて、銀のトレーを持った赤髪のダリルがライムグリーン髪の主と顔を出した。


「おはようございます、ブランチです」


「寝坊しました……」


恐らくは朝ごはんだったのを、気を使ってくれたらしい。


装飾の多い大きな勉強机のようなテーブルに、ダリルはトレーの上のものを移動させる。


豆腐の味噌汁、菜の花のお浸し、ご飯、漬物、里芋の煮っころがしにデザートは水菓子。贅沢な和食だ。


ライムグリーンの侍従が椅子を引いてくれたので、遠慮しいしい椅子に座った。


「そいつはイザーク坊っちゃんの侍従兼従僕のアベルです。好きに使うといい」


(坊っちゃん?あっオットーメルナス様が家族にって言ってくれたからか)


「アベルさん、よろしくお願いします」


ダリルの通訳で、ライムグリーンの髪のアベルは丁重に腰を屈めて挨拶する。


「さんなんて付ける必要はない。俺の事もです」


「なら、僕のことも無礼講で。オットーメルナス様の厚意で公爵家に入れてもらったみたいだけど、僕は何もしてないし」


「そいつは助かる」


ニヤッとダリルが笑った。素が出た感じだが、よそよそしい丁重な態度よりぐっと親しみを感じた。


アベルが自分の顔を指で指した。アベルからすればダリルの言葉はわかるのだから、自分も?ということだろう。


「アベルも、フランクに接してね」


(あれ?アベルも、ベイツさんも話せなかったのに、ダリルは俺と話せてる?ってことは)


「ダリルって実は偉い人?」


「先ずは食べてくれ、冷める」


促されて、イザークは味噌汁から手をつける。具は豆腐にネギにゴボウ。昆布出汁に鰹の出汁も効いている。


「これ、昨日の昆布出汁に鰹で出汁とった?」


「あぁ、専門機関の方々もおかわりしていたぞ。他の料理もイザーク坊っちゃんならこうする、みたいなものはあるか?」


「坊っちゃん呼びは止めないの?」


「そりゃトッティーモエランディール家の人になるわけだからな」


菜の花のお浸しは歯触りもベスト。漬け物も白だしで上品なアクセントになっている。里芋の煮っころがしは、イザークの口には少し甘めがきつく感じた。


「里芋の煮っころがし、僕ならざらめを使って蜂蜜で少し照りを出して、柚の千切りはもう少し早めに投入するかな……あとは一晩寝かせて置く」


「砂糖を使い分けるのか」


(あっ言ってみたけど、あるんだざらめ……)


「白砂糖だと里芋の甘さを邪魔すると思って。和食の中でも煮物には割とざらめ使うかな」


「なるほどな」


ダリルがメモをとり、アベルが覗き込む。そのまま、親しげにダリルにつんつんとつつき回している。ダリルは慣れたように軽い一撃をアベルの頭部に放った。


「あーこいつは同期で、わりと早く従僕から侍従に出世してますが、そこそこ使える。多分イザーク坊っちゃんの専属になるはずだ」


「一番偉いのが執事のベイツさんなんだよね?」


「使用人ではな。従僕は男の使用人の一番下で一番多い。ご家族の雑用と力仕事がメインで、そこからひと握りが執事業務を教わる上級従僕、そして従僕長。事務仕事が出来ると侍従になってご家族の誰かの身近なお世話や仕事について行く。女性はメイドからだな、メイド長、上にあがれば侍女でご家族の中の女性に付き従う。俺みたいなシェフは別枠だな、下働きからコック、コックからスーシェフ。それからシェフで今は俺を入れて2人。今回俺が選ばれたのは腕じゃなく、俺が元侯爵家の生まれで自動翻訳能力があるからだ」


(没落したとか?あんまり聞かないほうがいいのかな)


ついでに魔法のことなども聞こうと思った瞬間、イザークの部屋のドアが強めにノックされて、返事を待たずに乱暴に開いた。

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