運命
頭がぼんやりとする中、柔らかなカーテン越しに差し込む朝の光を見つめながら、ここがどこなのかをゆっくりと思い出す。重厚なカーテン、豪華なシャンデリア、そして広々としたベッドルーム。全てが私にとっては当たり前の風景であるべきなのに、どこか違和感があった。
「また、ここなのね……」
ため息をつきながら、私はベッドから体を起こした。ここは王都の領主邸。私、セシリア・フォン・グリューンは、公爵令嬢として生まれ、この世界の貴族社会で生きている。だが、その事実に何か不思議なものを感じるのは、転生してきた前世の記憶があるからだ。
そう、ここは私が前世で夢中になってプレイしていた乙女ゲーム『エターナル・ロマンス』の世界。このゲームの中で、私は今、悪役令嬢として生きている。ゲームでは、ヒロインが王子と恋に落ちるまでの物語が描かれていた。私はそのゲームを何度もクリアしたが、ここではその悪役令嬢として、断罪される未来が待っている。
「なんで、私がこんな目に……」
この世界に転生したことに気づいたのは、ほんの数年前のことだった。私が断罪される運命を避けるため、これまであらゆる手を尽くしてきた。しかし、最近はヒロインとアレクシス様、つまり王子がどんどん親密になっていくのを目の当たりにし、焦りを感じていた。ゲームで見たストーリーが現実になりつつある。
私は、アレクシス様に密かに惹かれている。だが、彼はヒロインのもの。そう、ゲームの中では彼女と結ばれるのが正しい未来だ。それを邪魔することは、絶対にできない。
私は、鏡の前に立ち、自分の姿を見つめた。前世の私にはなかった、この美貌と高貴な装い。それでも、この姿に慣れることはなかった。ゲームの悪役として存在している自分の運命を、どうしても受け入れることができなかったのだ。
「それにしても、ゲームのストーリー、今どこまで進んでいるのかしら……」
私は前世の記憶を必死に辿り、物語の流れを再確認する。アレクシス様とヒロインが出会い、少しずつ距離を縮めていく展開だったはず。そして、次に訪れるのは舞踏会。ヒロインがついにアレクシス様と運命のダンスを踊り、彼に特別な想いを抱く重要なイベントが迫っている。
「もう、そんなところまで……」
焦りが胸に広がる。舞踏会が終われば、私はさらに影が薄くなる。そして、最終的には断罪される運命が待っている。何としても、それを避けなければならない。
「何か方法があるはず……」
そう自分に言い聞かせながら、私は決意を新たにした。この物語を覆すために、何をすべきかを考え、行動しなければならない。絶対に、ゲーム通りには進ませない。私にはまだ時間があるはずだ。
そして何より――私自身の気持ちにも、決着をつけなければならない。