いい子でいたら
ママがいなくなった日に、こいぬのペロがやってきた。
ペロは本当のいぬじゃない。ぬいぐるみだ。
「いい子にしてたら、ペロがママに会わせてくれるよ」
パパはそういったけど、そんなのうそだ。ママは、とっても遠いところへ行ってしまったのだから。
「ペロなんて、大キライ」
そうだ。わたしはぺろなんてちっとも好きじゃない。ただ、ちょっとふかふかしてるから、抱きしめてるだけよ。
「パパ、いつになったらママに会わせてもらえるの?」
「もう少しいい子にしてたらな」
これもうそだ。わたしはただ、パパを困らせて楽しんでるだけだ。でも、そういうときのペロは、すごく悲しそうな目でわたしを見る。つねっても、ぜんぜん鳴きもしないから、ペロはずるい。
「ママ…」
「ママに、会いたいの?」
ある晩、聞いたことのない声が聞こえた。ペロだ。本当にしゃべれるの?
「つねられると、痛いよ」
そうだったんだ。ごめんね、ペロ。
「それで、ママに会いたいの?」
「うん!」
「いい子にできる?」
「今までだって、いい子でいたわ」
「パパにいじわるいってたのに?」
知っていたんだ。ごめんなさい。もういじわるいわないから、ママに会わせて!
「わかった。でも、ほんのちょっとだけだよ。パパのいうことちゃんと聞いてたら、また会わせてあげるから」
そういって、ペロは光ってるほうへ歩き出した。わたしもその光のトンネルをくぐり…。
あの日から、わたしはすこしだけおとなになった。家のことをお手伝いするようになったし、パパにいじわるもいわなくなった。パパはなんだか、ママがいたころにもどったように、笑うことが多くなった。
そしてペロは、やっぱりもとのぬいぐるみのままだ。でも、わたしはもうペロをつけるのをやめた。かわりに、う〜んと抱きしめて、かわいがることにしたんだ。ママにできなかったぶん、う〜んとね。