地球という異世界に飛ばされた俺は何億の人に見られながらダンジョンを攻略する
よろしくお願いします!
ーー東京 第ニ支部 池袋ダンジョン
20XX年、世界ダンジョン対策本部”WDK”により世界的最高難易度Sダンジョンに指定。
フロアは推定100階層の大規模ダンジョンであり、未だに攻略者は0名である。
ーー地下78階
「くっ、こいつら強いな…」
俺の目の前には、四足歩行の獰猛な獣達が涎を垂らしながら迫ってきていた。
片手剣を握っている右手からは手汗が滲んできているのがわかる。ああ、どうして俺は死に物狂いで戦わないといけないのか。あいつらの薄汚い笑みが脳裏に焼き付いてくる。
「おっと!」
考え事をしていると、獣達の鋭い爪が俺の胴体目掛け振り翳してきた。
あぶないあぶない、考え事をしている場合じゃない。目の前の敵は地下78階に潜んでる敵。余裕をこいて戦える相手じゃない。それに今ここで死んじまったらそれこそあいつらの思う壺ってもんだ。
「かかってこいよ。獣ども」
俺は左手で相手を煽るような仕草を行いあえて獣達を挑発する。
「「ガルルルッ!!」」
よし、追ってきたな。計算通りだ。俺は走りながら内心ほくそ笑む。ここを右に曲がったところで振り向きざまに獣達へ手を翳した。
「フレイヤ」
「「ギャァァァーー!!!」」
俺が言葉を発した瞬間、目の前に燃え盛る炎の渦が現れ獣達へ襲いかかっていく。
「ふう、上手くいったな」
狭い縦の通路に誘き出して一網打尽にしてやった。剣技だけで一匹ずつ戦うと流石に骨が折れる。しかも炎の渦が壁を塞ぐように消えずに残っているおかげで後続の敵達も俺を追うことができない。
「先へ進むか。100階層まであと少しだ」
前に進む足取りからもこれまでの数多の戦闘の名残が出ている。
それにしても流石に疲れたな。やっと78階か…。
ふと上を見上げた。見えるのは、無機質な鉄でできた天井だけ。だけど、俺はその何もない天井を睨め付ける。
ーーきっと、今もお前らは面白おかしく見てるんだろ?
そう確信しつつもすぐに目線を前に戻した。
あの日のことは昨日のように思い出せる。あの時起きたことは一生忘れることはないだろう。
絶対に地下100階まで行き、元の世界に戻る。
そう心に改めて誓い、疲れている両足に力を込めて俺はさらなる地下へと歩いていく。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
俺の名はアレン。
魔法大国であり世界最大規模の国であるグランドール王国に仕える兵士だった。ところが、数年前に突如現れた魔王ダークネスにより、魔族や魔物がグランドール王国に攻めてきた。
俺は、兵士の中では珍しく魔法と剣のどちらも得意であり、自分で言うのもなんだが王国の中でも腕前において少し有名でだった。
そんなことから、王様から魔王討伐の命を受けることになり魔王を倒す旅に出た。そして途中で出会った3人の仲間とともに数多の危険な経験を乗り越えながら、やっとの思いで魔王城に辿り着いた。
「やっと辿り着いたな、長かったここまで」
「皆んなで協力してきたおかげだね!」
俺の言葉に返事を返してくれたのは、魔法使いのセリカ。明るい性格で常にパーティの仲間を鼓舞してくれた。
「でもここからが本当の勝負です。皆さん覚悟は出来てますか」
「そりゃあもう当たり前だろ!ここまで来たら後は魔王倒すだけだろ!なあアレン!」
気を引きめるようにと強めの口調で緊張感を与えてくれたのは僧侶のシーナ。常に冷静な対応をして仲間のピンチを救ってくれた。
最後に俺の名前を呼んでくれた男が戦士のトール。身長2メートルを超える身体を持ち常にパーティの最前線に立ち皆んなを守ってくれていた。
「だな。ーーさあ、最後の戦いだ」
そんな仲間達と言葉を交わしながら、魔王城の扉を開ける。
「はぁ、はぁ…、、や、やっと魔王を倒した…!」
数時間にも及ぶ激闘を乗り越えて、俺たちは魔王を倒した。
「お、俺たち本当にあの魔王をた、倒したんだな!」
「ええ、誰1人欠けずにここまでこれて本当に良かったです…」
「やっばい〜、急に足の力が抜けちゃったよ、もう立てないや」
仲間たちも皆んな安堵の表情を浮かべている。皆んなの顔を見ていると、徐々に長年の目標であった魔王を倒したという実感が湧いてくる。
「…皆んなが居てくれたから魔王を倒すことができた。…本当にありがとう」
「な、なんだよ急に。照れくさいじゃねぇか」
「そうですわよ。感謝するのは私の方です。皆さんと力を合わせたお陰でここまで来れたんですから」
「うんうん!誰1人欠けてたら魔王を倒すこともできなかったよ〜!」
本当に素晴らしい仲間たちを持ったなと心の底から思う。
「ありがとう、皆んな。…よし、それじゃあグランドール王国へ凱旋と行こうか!!」
「だな!皆んなの歓声が目に浮かぶぜ〜!」
達成感や喜びに包まれながら、俺たちは魔王城を後にしようとした。
その時、、、
思わず耳を塞ぎたくなるほどの大きな爆発音が響き渡った。
「きゃあああああ!!…何か起きたの!?」
セリカの叫び声があたり一面に響く。音の衝撃とともに白い煙のようなものが俺たちを包み込んできた。
「うぉ!?、、な、なんだ!?」
「あ、新たな敵襲かしら…!!」
あまりの音の大きさと突如沸いて出てきた煙に皆んな動揺している。まずい、とりあえず落ち着かないと。
「皆んなとりあえず伏せて、一箇所に固まれ!」
俺は、可能な限り冷静な声で仲間に指示を出す。一箇所に集まり武器を構える。すると突然シーナがわなわなと震え出した。
「どうしたシーナ。何かあったか!?」
「…ア、アレン、そ、その下の紋章は…?」
うん?シーナに言われて自分の足もとの下を見る。するとそこには謎の紋章が浮かび上がり光り輝いていた。
「うぉ!な、なんだこれは」
「私たちのところには何も出てないね」
「…アレン。紋章から出ることはできないかしら…?なんだか嫌な予感がするの…」
シーナは僧侶という職業から、危機察知に敏感だ。これまでいくつもの危険を予知してきた。それに俺もなんだか嫌な予感がする。シーナの言う通り、この紋章の中から抜けよう。
「ああ、わか…う、、なんだ!?」
俺が言葉を言い終わる前に突然、目も開けられないほどの輝かしい光が紋章から溢れ出す。
「うわぁ!!!」
「ま、眩しい!!」
あまりの眩しさに腕で目元を隠した。
「うう、なんだったんだ、今の光は…。」
少し時間が経ち、ゆっくりと目を開けながら近くにいる仲間達に声をかける。
「皆んな大丈夫か…?」
だが、俺の言葉に仲間からの返答はなかった。周りを見渡すと仲間は誰もおらず、さらには周りがあたり一面真っ白な部屋だったのだ。
「な、なんだここは!?ついさっきまで俺は魔王城にいたはずなのに…」
あまりの驚きに呆然としていると、目の前に突然人が現れた。
「驚かせてすまない、アレンくん。まずは私の話を聞いて欲しい」
「っ…。お前は誰だ!なぜ俺の名前を知ってる!それに仲間達をどこへやった!?」
「すまない。まだ名乗っていなかったね。私は世界ダンジョン対策本部”WDK”部長の山田太郎だ。君の仲間たちは無事だ。だがここにはいない」
世界ダンジョン対策本部?なんだそれは。それに仲間たちは無事なのにここにいないってどういうことだ。
「ここにいない!?ど、どういうことだ!!」
「混乱しているね、そりゃあ無理もないか。まず最初にこの場所は今まで君がいた世界ではない。全く別の世界、地球と呼ばれる世界なんだ」
「な、、、!?」
「驚くのも無理はないよね。さっき伝えたように仲間たちは別の世界でちゃんと生きている。アレンくん、君だけをここに連れてきた」
はぁ?何を言ってるんだこの人は…。俺だけをここに連れてきたんだと。ふざけるなよ…。
いや、落ち着け。今までの冒険でも動じていいことはなかった。シーナにもいつも言われてただろ。常に冷静でいろって。
「…ちょっと待ってくれ。色々と聞きたいことが山のようにあるが、まず最初に聞かせてくれ。なぜ俺だけが、別の世界の地球?というところに連れてこられたんだ?」
「君の疑問は当たり前だ。君たち向けに資料を用意している。これを見てくれ」
山田太郎と名乗る人物が指を鳴らすと、目の前に見知らぬ人が浮かび上がってきた。
「うぉ、人が急に出てきた…」
『私は、AI人工で作られたロボット〝キオクン”です。AIとは、一般的には「人が実現するさまざまな知覚や知性を人工的に再現するものを指します。』
「AI…?ロボット…?なんだそ、、れ、、うう、、」
『いきなり知らない単語を言われてもわからないでしょうから、貴方の脳に直接電波を送りました。今からあなたにこの地球の情報を与えます』
目の前に現れたAIロボット?と名乗るものが何か話しているが頭が割れるような痛みを感じ、言葉が頭に入ってこない。なんとか目線を前に向けると、急にどこからともなく数多の情報が流れ込んできた。
「ーーーー!」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「キオクン、アレンくんには地球の歴史から今に至るまで全て伝えるように」
『承知いたしました。山田様』
さて、後はアレンくんに地球の状況を理解してもらいあそこへ転移させるだけ…。
それにしても、この世界にアレンくんという素晴らしい人材がいて良かったです。
剣の技術も素晴らしいですし、攻撃系や補助系、簡易的な回復魔法といったあらゆる系統の魔法を使うことができる。それに魔王を倒すまで諦めなかった精神力も素晴らしい。
ただ何よりも素晴らしいのはその見た目ですね。アジア系の顔つきでありながらも金色に輝く短髪の髪。これは人気が出る。ビジネスは大事ですから。
おっと、これから先のことを考えてしまい、思わず口元がにやけてしまいました。
やっと我々世界ダンジョン対策本部”WDK”の悲願を達成する可能性が出てきたのです。後は上手く彼をダンジョンへ連れて行かなくては。
今まで連れてきた人材も期待外れだったので。
アレンくんに情報を伝えるまで時間が空いたため、目の前でアレンくんへ情報伝送を行っているAIロボットのキオクンを何気なしに見た。
数十年前の地球の技術じゃ考えられませんね…。
改めて地球の技術の進歩に驚くと同時に複雑な気持ちが出てくる。
地球にダンジョンが発生し甚大な被害が出たりしたが、ダンジョンで発掘した鉱石のお陰で、キオクンのような高性能AIロボットやアレンくんを連れてきたようなタイムマシンを人類が作れるようになったのだから。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
20XX年、突如世界規模の大地震が起きた。その影響により何百にも上る地下迷宮、いわゆるダンジョンなるものが存在した。
そのダンジョンでは、地球外生命体のような未知の生物が現れるとともに、アダマントやオリハルコンといった不思議な力を持った未知の鉱石が発掘できるようになった。
ただ何よりも人類に驚きを与えたのが、そのダンジョンの未知の生物を倒すと身体能力が上がり見た目も若返る現象(ある一定の年齢まで若返るとそれ以上は若くならないことが確認されている)が起きたのである。
その恩恵を受けるべく恐れを知らない幾万もの人々がダンジョンに足を踏み入れたのであった。
だが、ダンジョンは地下深くに行けばいくほど、出現してくる生物が強くなっていった。いくら生物を倒すと身体能力が上がるとはいえ、銃も効かない生物になってくると倒せる手段が限られてしまい、被害が増える一方となってしまった。
さらには最新型の小型爆弾などの武器を使用としてもダンジョン内の特殊な環境のせいか通常の威力の何十分の一に抑えられてしまうのである。
いつしか、限られた少数である本物の強者しかダンジョンに足を踏み入るものはいなくなってしまう。
人類は思った。せっかくダンジョンには未知の鉱石や新たな可能性を秘めたものが沢山あるのにも関わらず、それを確保できないのは人類にとって大きな損失であると。
そこで、人類は考えた。“地球”という今の世界があるならば別の世界もあるのではないかと。ダンジョンに現れた未知の生物のように、所謂魔法のようなものを使う世界の住民もいるのではないかと。
ダンジョンで発見した光の速さのエネルギーを蓄える石を使い、別の世界の住民を連れてきてダンジョンを攻略してもらえばいいと。
そして、人類がこのような考えに至ってから数十年の月日が経ったころ、ダンジョンで発掘した鉱石などを利用し、とうとう異世界へ移動できるマシンや人間とほとんど変わらないAIロボットが完成した。
しかし、ここからの道のりが長かった。地球のダンジョンに潜む道の生物に対峙できるだけの強さをもつ人物をなかなか見つけることができなかったのである。
幸いダンジョンの中に潜む生物たちは、外に出てくることはなかったので被害の拡大は起きてはいなかったが。
ーーそこからさらに年月が経ち、やっとアレンという人物を見つけるのである。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「はぁはぁ、、、なんだ今の…」
『ただいまアレン様に私の世界、地球の歴史及び今の状況についての情報を全て伝達させていただきました』
膨大な情報が頭の中を駆け巡ってきた。果てしない時間を一瞬で過ごしたような気分だ。
「アレンくん。早速で悪いが君にはこれから地球のダンジョンに行って攻略をしてもらう」
え、今なんて言った?俺がダンジョンの攻略?つい先程魔王を倒して、やっと故郷に帰れると思ったのに?
「い、いや、ちょっと待ってくれ。いくらなんでも急すぎないか。それに俺なんかがそのダンジョン?なんかに行っても攻略できるなんてとてもじゃないができる気がしない」
「そんなことはないよ。私は君の冒険の数々をこの目で見てきた。君は剣技と魔法のレベルがとても高く何より魔王という強大な敵を倒すまで諦めなかった不屈の精神力がある」
「そう言ってくるのはありがたいが、俺には仲間たちや帰る場所がある。悪いが断らせてもらう。早く元の世界へ帰らせてくれ!」
「……すまない。ここに連れてきた時点で君はもう戻ることができない」
「はぁ!?戻れないってどういうことだ!?」
うそだろ!?
やっとこれから、ゆっくり家族や仲間と過ごしていけると思ったのに一体どういうことなんだ、、。
『山田様。転移の準備が完了しました』
「そうか、…キオクン頼む」
『承知いたしました』
「お、おい!ちょっと待て!まだ戻れない理由を聞いてないぞ!」
目の前にいる人とロボットは、俺のことなど無視しし話を進めている。
「君をダンジョンに転移させた後、案内ロボットが説明してくれる。無事に攻略できることを祈っているよ」
次の瞬間、俺の足元に魔王城で見た紋章が浮かび上がってくる。
「だからちょっと待ってく….」
言葉を言いきる前に光に包み込まれて視界が何も見えなくなっていく。
――包み込まれる前に見えた二人の顔がうっすらと笑みを浮かべているように見えた
光がゆっくりと収束していく中で、うっすらと目を開ける。すると目の前には魔王城のような威圧感のある白銀の神殿のようなものが建っていた。
「ここはまさか….」
『アレン様、お待ちしておりました。私は案内ロボットのアインと申します』
目の前の神殿に驚愕していると、後ろから無機質な声が聞こえてきた。最悪の想定が頭によぎり、思わず腰に掛けている剣の柄を握り締めてしまう。
『薄々お察しかと思いますがここはダンジョンの入口となります。なお、その剣で私を斬ろうとアレン様が元の世界に戻れることはありません。むしろ、戻れる可能性を消すことになります』
「くっ、ふざけんなよ。勝手に連れてきやがって…!」
『元の世界に戻れる可能性を自ら消すつもりですか?』
「くそ、、」
俺は、アインという女性の恰好をしたロボットの話を聞き剣の柄から手を離した。改めて異世界のダンジョンに飛ばされたという現実に怒りで頭に血が上りそうだ。
『アレン様には、これからダンジョンの攻略をしてもらいます。攻略というのは最下層にいるダンジョンの主を倒し秘宝を獲得することを指します。つきましては、次にいくつかダンジョンにおける注意事項をご説明いたします。ここまでで何か質問はありますでしょうか』
「質問というより納得いかないことは山ほどあるが、お前らの言うことを聞かないと元の世界に戻れないから、どうせ文句を言っても意味ないんだろ?だったら早く説明の続きを頼む」
『承知いたしました。では続きをお話いたします。まず、ダンジョンには不思議な力があり、ダンジョン内にいる間は人間の生理的現象である排泄などを催すことがなくなります。ただし、食欲などは関係ありません。理由や原因については不明です。そのため食事に関しては、こちらの袋をお渡しいたします』
アインから一見ただの袋にしか見えないものを渡される。だが、触った瞬間に魔力のようなものを感じた。
「これは…」
『流石アレン様です。こちらの袋はダンジョンでドロップした特別制の袋となります。こちらの袋は、指定した空間と繋がることができますので、食事やその他道具などが必要な場合はこの袋から随時補給できます。このようにダンジョンには、ドロップ品と呼ばれる不思議な道具もあります。アレン様には、攻略を進めていく中でドロップ品や鉱石なども集めていただきます。なお、今回支給したこの袋は世界で10個しかない代物です』
「なるほど、つまりそんな貴重なものを渡してきたってことはそれなりに結果を出せってことか。でないと元の世界には戻さないと…」
『アレン様はその実力の高さで選ばれた人材です。ぜひ我々の力になっていただきたく思います』
良いように言ってはいるが、要は私たちのために働けってことだろ?反吐が出る、、。
魔王を倒して終わりだと思ったら、次は異世界のダンジョンの攻略なんて思いもしなかった。
「その心のこもってないお世辞が余計イライラさせるぜ…。はぁ、この袋の用途はわかった。他にはあるのか?」
『失礼いたしました。あとは、ダンジョンの中にもアレン様と同様に他の攻略者の方がおります。関与するかどうかはアレン様のご判断によります。
「ということは俺以外にも別の世界から来た人がいる可能性もあるってことか…」
まあ、地球人の可能性もあるか。記憶の中で見た爆弾や銃を使っている人もいるだろうから巻き込まれないようにしないといけない可能性もあるってことだな。
『最後にアレン様の攻略を随時確認できるようにステルス性のドローンを付けさせていただきます』
アインの横から手のひらサイズのドローンが出てきた。実物は初めて見たが、物体が浮いているのはどうも違和感があるな。それにしてもこのドローンを使って随時確認するというのはどういうことだろう。
「このドローンを使って攻略の確認をするというのはどういうことだ?」
『このドローンは、LIVE配信機能を搭載しており、インターネットワークを利用することによって全世界の人類が映像を確認することができます。アレン様の攻略は今後のダンジョン攻略を行う上での大事な資料となりますが、それと同時にエンターテイメントの要素もあるのです』
「つまり、俺が命をかけて戦ったり探索している様子をお前ら地球人は、安全なところから面白おかしく見てるって訳か…。はっ、胸くそ悪いな、、」
『ダンジョンには、身体能力の上昇など奇跡のような日常ではありえないことが起きたりします。また未知の生物や鉱石など人類の好奇心を刺激するものが沢山あります。ただ、今までそれによりダンジョンの攻略をしようとし、数えきれないほどの甚大な被害が出てしまいました。そのため、政府が支援している人物の配信を行うことにより、危険性の周知及びダンジョンの内部を知れるという好奇心を刺激しようとした訳です』
理由を聞いたとしても、はいそうですかと納得はできはしない。だが、全世界の人類が見ることができるというその地球の技術力に改めて驚きを感じる。
『また、プライベートを配慮し一定時間は配信を制限することもできます。睡眠時や食事中は人物を映さないようにプログラム済みです』
「おい、最後に1番大事なことを聞いてないぞ。このダンジョンを攻略したら元の世界に戻してくれるんだろうな?」
『……』
「どうして黙ってるんだ?攻略したら元の世界に戻してくれるんだろう!?」
今まで流暢に話していたのにも関わらず、急に推し黙るアインに嫌な予感を感じる。
「頼む、答えてくれアイン。いくら何でも酷すぎないか…?自分の世界の魔王をやっと倒したと思ったら、異世界に連れてこられて仲間や故郷の家族とは離れ離れになり命がけで戦えなんて、、、頼むよ。元の世界に必ず帰れることだけでも教えてくれないか!」
『…ダンジョンを攻略するまでは私の方から何もお伝えすることはできません。このダンジョンは最高難易度S、推定100階のダンジョンとなります。攻略できることを祈っております。…では』
なんだよそれ、、。
伝えたいことだけ伝えて、こっちが知りたいことは教えてくれないってことか。
「ふざけんなよ…!!お前らの都合で全く知らない世界に連れてきて、こっちの知りたいことは何も教えてくれないってか!?!?」
誰もいない空間に自分の声が響き渡る。
あまりの理不尽さに怒りを通り越し、絶望と憎しみが宿ってくる。
『ただいまより全世界に配信を始めます』
突如、ステルス性のドローンから音声が流れてきた。もう今から地球にいる全世界のやつらが俺を見ているってことか。
最高難易度のダンジョンだって?はは、上等だよ。絶対に攻略して俺をこっちに連れて来たやつらに何が何でも元の世界に戻すように言ってやる。
復讐の決意を胸に白銀の神殿に足を踏み入れた。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ーー地下89階
「はぁはぁ、くっ」
襲い掛かってきた槍を抱えている魚人のような生物の鋭い突きを持っている盾でいなしながら横一線に剣を振るう。
「ふぅー、次から次へと出てきやがる」
「グワァァァァァァ!!!」
魚人のような生物を倒し一息つくと、その隙をつき上空にいた凶悪な羽を靡かせているドラゴンが高熱の炎を吐き出してきた。
「少しは休ませろよ…。ハーフレイト!」
俺は、すぐ自らに防御と移動に優れる風魔法を唱えると空を飛び炎の渦に突っ込みながらドラゴンを真っ向から切り殺す。
そのままの勢いで身体を回転させながら上空から地面へと着地する。
「ギギ、ギ」
「はぁ、またか。連戦ばかりだ…な!」
すぐさま行きつく暇もなく、四本の腕をもつ2体の骸骨の騎士が左右から襲い掛かかってきた。
「ギギー!!ギ、ギ!!」
「く、手数が多いな、こいつら」
剣と盾を駆使して防いでいたが、手数の多さと変則的な剣筋に徐々に切り傷が増えてくる。
「こうなったら魔力を剣に乗せて…、くらえぇー!!」
「「ギギーー!?」」
雷魔法を剣に纏わせ、渾身の一撃を払う。ダンジョンの地形が変わってしまうほどの威力が放たれた。敵は粉ひとつ残らず消えたようだな。我ながら凄まじい威力だな。
「それにしても連戦続きで疲れたな、、うん?」
やっと戦闘が終わり一息ついていると、骸骨の騎士が立っていたところに紫色の鉱石が転がっているのを見つける。
「紫か…。とりあえず袋に入れとくか」
この鉱石がどんなものかはどうでもいい。本当はあいつらのための鉱石集めなんて死んでもやりたくないが、元の世界に戻れなくなるのは何よりも辛い。
今は、悪態を吐いても表向きはしっかりと攻略をしている姿を見せる。だが、あの時の絶望と悔しさは絶対に忘れない。このダンジョンを攻略したら、覚えてろよ?必ずお前らに元の世界への戻り方を聞き出し、故郷へ帰る。
「そういえばこのフロアは、前にも上にも壁が見えないぐらい広いフロアってだけで今のところ何もトラップがないな。今までのフロアは何かしらあったのに」
心の中で決意をあらたにしていると、おかしな点に気づく。このダンジョンは一つ一つのフロアが全く異なるフロアになっており、今までは急に霧が発生したり、迷路のような地形だったり、毒の沼がある場所だったりした。
だが、このフロアはあたり一面草原と大きな木が複数生えており、天井も見えないほどとてつもなく広いというだけで至って普通のダンジョンだった。
不思議に思いながらもより一層引き締めながら先に進んでいく。
グラグラグラグラ、ガタガタガタガタ。
「なんだ!?」
急に大きく地面が揺れ出した。
「そりゃあ、やっぱり何もないわけないか。さて、このフロアはなんだ?」
どこか納得の表情を浮かべながらも、歩きながら何がきても問題ないように重心を低く保つ。
「「ガァァァァァァア!!!!」」
「うわぁ、うるさっ!!」
急に真後ろから甲高くそれでいて耳の鼓膜が破れるかと思うほどの声量がフロア内に響き渡る。音の発信源である真後ろをみると、体調50メートルを超える巨大なツノの生えた人間のような生物がいた。
「な、なんだこいつ。デカすぎだろ…」
こんなでかいやつ、前の世界にも今までのフロアにもいなかったぞ…。俺に倒せるのか?
いや、こんなところで俺は死ねない。絶対に生きてここを攻略して元の世界に戻る
「よし!!見てろよ、お前ら。俺は絶対こんなところで死なない」
自分の頬を両手で叩き、気合いを入れ直しながら巨人に向かって走り出す。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
ーードローンLIVE配信による掲示板、一部抜粋。
【異世界勇者】アレン様について語るスレ824【日本版】
357: アレン様ファン第1号
なんだ!あの巨人!?
初めてみる生物だな
358: アレン様ファン第1号
さすがに89フロアまで行ったら新しいモンスターも出るよな
359: アレン様ファン第1号
流石にあいつはやばくないか?
リアル〇〇の巨人じゃん
360: アレン様ファン第1号
うわ、すご
巨人に突っ込んでる
361: アレン様ファン第1号
死にたがりにしか見えんw
362: アレン様ファン第1号
アレン様ならこのフロアもクリアしてくれる…!
364: アレン様ファン第1号
でも実際アレンなら倒してしまうんじゃないかと思ってしまうな
365: アレン様ファン第1号
45フロアのときの大ピンチは個人的に激アツ展開だった
366: アレン様ファン第1号
>>363信者乙
367: アレン様ファン第1号
70フロアで拾ったリング?みたいなやつ結局どんな効果なんだろう?
368: アレン様ファン第1号
あのリング気になるよな〜
アレン装備してるけど似合いすぎW
369: アレン様ファン第1号
そんなことより今日のアレン様の決意の顔も最高すぎる…
ー・ー・ー
686: アレン様ファン第1号
【朗報】90フロア到達
今までの最高記録が68フロアだったから相当すごくないか?
687: アレン様ファン第1号
ちょっと目離してたら、いつの間にか巨人倒したんか!?
まじで化け物やなこいつ…
689: アレン様ファン第1号
>>687なんか飛ぶ斬撃みたい?なの出してたよ
あと雷魔法使ってた
690: アレン様ファン第1号
うわぁ
これはまじで池袋ダンジョン攻略するぞ
すごすぎる
691: アレン様ファン第1号
顔もカッコいいしめちゃくそ強いしまじでこいつ何物!?
692: アレン様ファン第1号
この状況で人助けもするっていう聖人君子みたいなやつだし
693: アレン様ファン第1号
50フロアのマリア助けるやつな
あれ絶対マリア惚れてるだろw
694: アレン様ファン第1号
>>691異世界の勇者なんだよな〜
695: アレン様ファン第1号
時々見せる暗い顔と口の悪いところが好き
696: アレン様ファン第1号
>>689ふぁっ!?飛ぶ斬撃!?漫画やんWW
697: アレン様ファン第1号
魔法もそうだけど、剣の腕前が他の異世界人とはレベルが違う
698: アレン様ファン第1号
早くやられてくれないかな、それを待ってるんだが
699: アレン様ファン第1号
>>698ここはアレン様信者の場所だぞ
アンチは他行け
700: アレン様ファン第1号
アレン様ってフロアの攻略とか見てると、頭も良いよね
701: アレン様ファン第1号
池袋ダンジョンは、ダンジョンの複雑さもあって最高難易度に指定されてるが、モンスターは他の最高難易度ダンジョンよりは弱いってされてるからな。他だったらどうなんだろう
702: アレン様ファン第1号
だとしても数十万人の被害出してるぐらいやばいダンジョン
703: アレン様ファン第1号
池袋ダンジョンのラスボスどういうやつなのか気になる
704: アレン様ファン第1号
それな、アレンは万能型だけど攻撃特化ではないからそこだけが心配
705: アレン様ファン第1号
でもやっぱりアレン様の境遇を考えると不便で仕方ない…
706:アレン様ファン第1号
異世界人を勝手に連れてダンジョンプレイさせるとか人権にめちゃめちゃ反してるかな。実際デモ活動多いし
707:アレン様ファン第1号
人権問題系はよそで死ぬほどやってるから、そっちでやってくれ
ここはアレン応援板
707:アレン様ファン第1号
あと少しで偉業達成だからな!お前ら歴史的瞬間を見逃さないようにしろよ!!
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
――100階 最終フロア
「とうとうここまで来たか…」
ここまでたどり着けたことに思わず言葉が漏れてしまう。正直、何度も死の予感を感じたがこうしてなんとか生き延びることができた。
もう少しで元の世界に戻れる。
故郷の母が作った温かいシチューが食べたい。
仲間たちとバカ騒ぎしながらエールを浴びるほど飲みたい。
魔王を倒した後、本来であればできたこと。そんな光景を今まで何度想像したことか。
「ふぅ、よし」
これで最後だ。持てる力を全て振り絞る。俺は聳え立つ巨大な扉を目の前にして気合を入れ直し扉を開けた。
ーー扉を開けると、そいつはいた。
体長は5メートルぐらいか。見た目は人間のような姿をしており、頭には仮面を被っている。ただ明らかに人間にはない頭に生えたツノがある。
すごいな…。存在してるだけで伝わる威圧感。前の世界の魔王でさえ、ここまでの圧倒的な圧はなかった。
「流石にラスボスは一筋縄ではいかないか…」
握りしめていた手から汗を感じる。俺は勝てるのか。あっけなく殺されてしまうのではないか。そんなネガティブなことを頭の中で思い描いてしまう。
不安と敵の圧に怖気付いていると突然、腕につけていたリングが光だした。
「な、なんだ急に」
リングから光と共に声が響いてきた。
『大丈夫、アレンならきっと勝てるわ』
『お前以上に強いやつを俺は知らないぜ』
『私たちのリーダーは誰にも負けないわ』
その声はかつて元の世界で一緒に旅した仲間達の声だった。
「ど、どうして、、皆んな…」
この世界に来てからずっとずっと聞きたかった声が聞こえてくる。思わず、アレンの目から涙が浮かんできた。
アレンは知る由もないが、アレンが付けていた70フロアで拾ったこのリングは、所持者の感情の起伏により発動する道具であった。
道具の効果は、所有者の記憶の中からその時に欲しい言葉を呼び起こすものである。
リングの光が消えるとともに仲間たちの声も聞こえなくなった。どういう効果なのかは全くわからないけど、この左手につけているリングのおかげなんだろう。
「そうだよな、絶対勝って元の世界に帰るんだ…!」
さっきまで不安と絶望しかなかったけど、久しぶりの仲間達の声で奮い立った。
そうだ、俺は絶対に生き延びる。生き延びて元の世界に戻る!
俺は、改めて数十メートル先にいる敵を見る。余裕綽々と俺がこのフロアに入ってきてからも動かずにいる。その目はまるで虫ケラを見ているかのように見える。
「まるで眼中にないってことか…。上等だ、見てろよ世界の奴ら。俺が勝つところを!」
俺は啖呵を切りながら敵に向かって走り出す。
「ーーさあ、最後の戦いだ」
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
「さあ、アレンくんは無事に生き残ってくれるかな」
私は椅子に座りながら目の前のモニターに映る、敵に向かって走り出したアレンくんを見てまぶく。
アレンくんは、きっとこの池袋ダンジョンが終われば元の世界に戻れると思っているだろう。
「ふふ、そんな訳ないのに」
信じてなかったとはいわないが、まさか最高難易度の池袋ダンジョンの最下層まで行くとは思いもよらなかった。
「予想通り彼の人気は凄まじい。これを利用しない手はないですよ」
チラッと目の前のモニターの左隅を見ると、Live視聴者数7.5億人との数字が載っている。
『山田様、お茶をお持ちしました』
アレン君をこれからどう利用していこうか考えているとAIロボットのアインくんがお茶を持ってきてくれた。
「ああ、アインくんありがとう。ふふ、それにしてもこれからが本当に楽しみだよ…」
まずは、この池袋ダンジョンを攻略してもらって、元の世界に戻れると希望に満ちたアレンくんの絶望の顔を拝むとしようかな。
ーーさあ、アレンくん。これからも地球のために働いてくれたまえ。
『人間は醜いですね…、この地球に必要なのでしょうか』ボソッ
ここまでお読みいただきありがとうございました!
短編のため、かなり詰め込んでしまいました…。
一応、続編があるような終わらせ方をしてますがあくまで今のところは短編の予定です。
モチベーションを保てれば端折ってしまった元の世界の話やダンジョン内での話などいくつかプロットができてるので書こうかと思います。
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