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じいさんと、りんご畑  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
8/11

● りんごの中に歴史あり

 りんごに被せていたパラフィン紙の袋が、昨日、全部取り除かれた。

 緑色の葉っぱの合間から、丸く大きな青りんごが顔を覗かせている。すうっとした、この時期のりんご畑特有の香りが広がっていて、なんだか心地よい。


「あー。空気が清々しいー。お姉ちゃん、りんご畑って、なんでこう心が落ち着くんだろうね?」

「じいちゃんの血が流れてるからだと思うね。・・・・・・弥咲! そっちにも引くから。手伝って」


 今日は、大きくなってきたりんごが、よく色づくための補助作業をお姉ちゃんとやっているの。

 りんごの実の上に重なっている葉っぱを、一枚ずつ手作業で取り除いたり、実の下に日光を反射するシートを引いたり、けっこう細かい作業が多くて大変。


「こんな感じ? まだ引っ張る?」

「もうちょっと、そっちまで引いて。光りの照り返し具合が良くないと、りんごのお尻に色が付かないからさ。全体を均等に真っ赤にしなきゃならないからね」

「あ、そういうことかぁ。・・・・・・お姉ちゃんって、りんご畑の世話の仕方、かなり深くじいちゃんに教わってきたんだね?」

「そりゃそうよ。あたしはじいちゃんの手助けをするために、ここに来たんだから。大学でもりんごについては勉強してるけどさ、やっぱり、直接ここで実践経験した方が、よく身につくから」

「・・・・・・そうだよね。わたしも、頑張って早く覚えるようにする」

「今年から弥咲がここに来てくれたから、じいちゃんもあたしも、助かってるよ。ありがとね!」


 お姉ちゃんは、にこっと笑った。その雰囲気は、どこか、じいちゃんの笑顔と重なる。


「ねぇ、お姉ちゃん。そう言えば、じいちゃんて何年くらい前からこのりんご畑をやってるの?」

「え? ・・・・・・んー。今が平成十五年でしょー。えーと、いつからだっけな? 昭和二十八年頃だったと思う。確か、三十歳前で始めたって聞いたから、今から五十年前くらいだったと思うよ?」

「え! そ、そんな古くからやってたんだ、じいちゃん! 五十年って・・・・・・すごい!」

「あたしも、けっこう前にじいちゃんから雑談でちらっと聞いた程度だけどさ。なんでも、りんごを栽培して戦後の食糧難を少しでも何とかしたかった、って言ってたような・・・・・・」


 わたしはお姉ちゃんの話を聞いて、じいちゃんの知らなかった一面を一つ知ることができた。

 両親が生まれる前から、じいちゃんはここでりんごを育てていた。五十年の歴史は、深いね。


「弥咲。夕飯の時に、じいちゃんに改めて聞いてみようよ」

「そうだね! うわぁ、どんな話が聞けるんだろう?」


 お姉ちゃんは、「りんご一つに百のドラマがあるかもね」と言って、くすっと微笑んでいた。


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― 新着の感想 ―
昭和二十八年で三十前って、大正~昭和初期生まれなのか、じいちゃん。 戦時を生きてきたんだな。
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