● りんごのきもち
「じいちゃん。それ、何してるの?」
「んー?」
じいちゃんは、太さの異なるロープをりんごの枝に結び、そこへ支柱を立てている。
「ふぉふぉふぉ。こりゃあな、大変重要な作業なんだぞぃ」
「重要な・・・・・・作業?」
そこへ、大きな剪定ばさみを肩に担いだ、作業着姿のお姉ちゃんがやってきた。
「枝の誘引だよ、弥咲」
「ゆういん?」
「そっ。りんごの実が大きくなって、重みが増してくると、枝がぐにゃーって曲がっちゃうことがあるでしょ? それをそのままにしてたら、どうなる?」
「どうなる? ・・・・・・あ、そうか。それで枝が折れたりして、実にも樹にもよくないんだ」
「ご名答ー。そういうこと」
「ふぉふぉふぉ。つきこも、ここへ来た初めの年、みさきと同じ事を聞いてきたのぉ」
じいちゃんはニコニコして喋りながらも、着々と作業を進めている。
「枝が垂れるとりんごに日当たりが悪くなって、実の善し悪しに大きく差が出てのぉ。最悪、幹から枝がばっきりと折れ裂けちまうこともあるんだぞぃ。だから、こうして、支柱を立てて枝をうまい具合に誘引してやる必要があるんだぞぃ」
「そうなんだぁ。それで、支柱も・・・・・・。確かに、これはとっても大切な作業なんだね」
「弥咲。その樹は大きくてじいちゃん一人じゃ大変だから、そっちから引いてあげて」
「う、うん!」
「ふぉふぉふぉ。じゃあ、こっちからロープを投げるからの。受け取ったら枝に絡めて縛りつけてから、ゆっくり引くんだぞぃ?」
「わ、わかった。・・・・・・よし! やってみる!」
ナカネ果樹農園は、従業員を雇っていない。
今でこそお姉ちゃんとわたしがいるけど、基本的にじいちゃんは毎年一人でこれをやってきた。それを思うと、「尊敬」の一言しか出てこない。すごいよ、じいちゃん。
「はぁ、はぁ。・・・・・・さすがだね、じいちゃんは。昔からこれをずっと続けてきたなんてさ」
するとじいちゃんは、ニコニコ笑って「りんごの気持ちを考えるとのぉ」と、優しく言った。