● シュークリーム
昨晩、お姉ちゃんとケンカした。互いに「顔も見たくない!」と、怒鳴り合ってしまった。
わたしのシュークリームを勝手に食べたから怒ったら、「大したことないじゃん」って開き直ったの。ひどいでしょ。だから「ふざけないでよ」とさらに怒ったら、そういうことに・・・・・・。
お姉ちゃんと顔を合わせないまま、わたしは早朝から、じいちゃんとりんご畑へ出ているの。
「昼は残暑がまだあるが、朝はちぃと、涼しくなったの。なぁ、みさき?」
じいちゃんが、笑いながらゆっくりとりんご畑を歩いている。
その後ろを、キジのつがいが歩いている。なんだか、一緒に散歩してるみたい。
「じいちゃん。ねぇ、じいちゃん。後ろに、キジがいるよ」
「うんー。ずーっと、ここに住んでるキジぞぃ。仲がいいのぉ」
「そうだね。・・・・・・人がいるのに、逃げないんだね?」
「だぁれも、いじめたりイタズラしたりせんからのぉ。おらっちのりんご畑は、このキジ夫婦にとっちゃ、心安らぐ場所なんだろうぞぃ」
じいちゃんは毎日、朝・昼・夕にりんごの様子を見て歩いている。
話を聞くと、一緒に歩くのはキジのつがいだけではないんだって。タヌキが歩くこともあれば、イタチが追い越す時もあって、ごく稀に、樹の上にハヤブサがいることもあるそう。
じいちゃんは「みんな野山に生きる仲間だぞぃ」と、白い髭を動かして笑っている。
「ねぇ、じいちゃん。確かに、このりんご畑にいると、心が穏やかになるね」
「・・・・・・んー?」
「なんかね、余計なこと考えなくていいというか、些細なことも気にしなくていい感じになるというか、何て言ったら良いかわかんないんだけど、そういう感じがしてきて・・・・・・」
「ふぁふぁふぁふぁ。・・・・・・そうかぁ、みさき。・・・・・・だがの、些細なことは、気にしてほしいぞぃ。りんごを育てるのは、ちょっとした変化も些事とせず、気にかけてやることが重要での」
「あ! そ、そういう意味で言ったんじゃなくってー・・・・・・」
「同じじゃよ、みさき。人もりんごも同じ。どれ一つとして、同じものは無いからこそ、気がかりがあれば素通りせず向き合い、ちゃーんと、対処せにゃいかんぞぃ・・・・・・」
「う、うん・・・・・・。・・・・・・ごめん、じいちゃん。わたし・・・・・・お姉ちゃんとこ行ってくるね」
わたしが振り向こうとした時、お姉ちゃんは既にわたしの後ろにいた。
「み、弥咲。ごめん。言い過ぎた。・・・・・・シュークリーム、あ、あたし、買い直してくるから」
わたしは「一緒に買いに行こうよ」と、バツが悪そうなお姉ちゃんの手をぐいっと引いたんだ。