表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じいさんと、りんご畑  作者: 糸東 甚九郎(しとう じんくろう)
6/11

● シュークリーム

 昨晩、お姉ちゃんとケンカした。互いに「顔も見たくない!」と、怒鳴り合ってしまった。

 わたしのシュークリームを勝手に食べたから怒ったら、「大したことないじゃん」って開き直ったの。ひどいでしょ。だから「ふざけないでよ」とさらに怒ったら、そういうことに・・・・・・。

 お姉ちゃんと顔を合わせないまま、わたしは早朝から、じいちゃんとりんご畑へ出ているの。


「昼は残暑がまだあるが、朝はちぃと、涼しくなったの。なぁ、みさき?」


 じいちゃんが、笑いながらゆっくりとりんご畑を歩いている。

 その後ろを、キジのつがいが歩いている。なんだか、一緒に散歩してるみたい。


「じいちゃん。ねぇ、じいちゃん。後ろに、キジがいるよ」

「うんー。ずーっと、ここに住んでるキジぞぃ。仲がいいのぉ」

「そうだね。・・・・・・人がいるのに、逃げないんだね?」

「だぁれも、いじめたりイタズラしたりせんからのぉ。おらっちのりんご畑は、このキジ夫婦にとっちゃ、心安らぐ場所なんだろうぞぃ」


 じいちゃんは毎日、朝・昼・夕にりんごの様子を見て歩いている。

 話を聞くと、一緒に歩くのはキジのつがいだけではないんだって。タヌキが歩くこともあれば、イタチが追い越す時もあって、ごく稀に、樹の上にハヤブサがいることもあるそう。

 じいちゃんは「みんな野山に生きる仲間だぞぃ」と、白い髭を動かして笑っている。


「ねぇ、じいちゃん。確かに、このりんご畑にいると、心が穏やかになるね」

「・・・・・・んー?」

「なんかね、余計なこと考えなくていいというか、些細なことも気にしなくていい感じになるというか、何て言ったら良いかわかんないんだけど、そういう感じがしてきて・・・・・・」

「ふぁふぁふぁふぁ。・・・・・・そうかぁ、みさき。・・・・・・だがの、些細なことは、気にしてほしいぞぃ。りんごを育てるのは、ちょっとした変化も些事とせず、気にかけてやることが重要での」

「あ! そ、そういう意味で言ったんじゃなくってー・・・・・・」

「同じじゃよ、みさき。人もりんごも同じ。どれ一つとして、同じものは無いからこそ、気がかりがあれば素通りせず向き合い、ちゃーんと、対処せにゃいかんぞぃ・・・・・・」

「う、うん・・・・・・。・・・・・・ごめん、じいちゃん。わたし・・・・・・お姉ちゃんとこ行ってくるね」


 わたしが振り向こうとした時、お姉ちゃんは既にわたしの後ろにいた。


「み、弥咲。ごめん。言い過ぎた。・・・・・・シュークリーム、あ、あたし、買い直してくるから」


 わたしは「一緒に買いに行こうよ」と、バツが悪そうなお姉ちゃんの手をぐいっと引いたんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
冷蔵庫に入っていると食べたくなるものだよ。 「誰のかな? 一個しかないって事はあたしの分を残しておいてくれたのね! ありがとう、じいちゃん、弥咲」 と、確認もせずに食べてしまうのだ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ