● 夏休みの宿題じゃないのよ
陽射しがものすごく、強い。
平地よりも涼しいと言われている長野の高原地帯でも、暑いもんは暑いよね。
「弥咲ー? 今日もアレの確認、おねがいねー」
お姉ちゃんから依頼された「アレ」の確認をしに、わたしは今日もりんご畑を歩く。
白い虫取り網と、じいちゃんが作った竹カゴを持って。
りんごの樹には、袋を被せた実がいくつもついている。深緑色の中にうっすらとした緑白さを含んだ葉っぱも、茂っている。
その合間に、アレは潜んでいた。
「あ! いたー。・・・・・・ごめんねぇ。君たちのオヤツじゃないのよ、このりんご」
わたしは、虫取り網を「えいっ」と振った。
白い網の中に、赤褐色のものが、もそもそと動いている。
「夏の定番、カブトムシ・・・・・・。子供には人気でも、りんご畑では、ねぇ・・・・・・」
立派なツノを、にゅんと反り立たせたカブトムシの雄。
じいちゃんが言ってたんだけど、カブトムシだのカナブンだのの甲虫類は、果物の汁を吸うから果樹園では招かれざるお客さんなんだって。
小さい頃、わたしやお姉ちゃんはこのりんご畑で、目を輝かせながら喜んでカブトムシ採りをしたことがあるの。信じられないくらい、たくさんいたっけ。
みんな、じいちゃんの作ったりんごの香りに、寄ってきてたんだね。
「今日も、たくさん来てたなぁ」
数えると、竹カゴの中には雄雌合わせてカブトムシが二十匹。ついでに緑色のカナブンが三匹。
「やったね、弥咲! 今日は二十匹オーバーだねっ!」
お姉ちゃんはここ最近、わたしが捕まえたカブトムシ類を受け取り、上機嫌で大学へ行く。夏休み期間なんだけどなぁ。
「お姉ちゃん? 聞きたいんだけど、それ、いつもどうしてるの? 研究に使ってる、とか?」
「そんな小学生の自由研究みないなことはしないよ。・・・・・・フツーに仕分けて、学内で売ってるのよ。人気あるんだよ、うちの畑のカブトムシ! 野山の恵みで、お小遣い稼ぎってやつかなー?」
「お、お小遣い稼ぎぃ?」
商魂逞しいというか何というか。お姉ちゃんの生きる力は、カブトムシにも負けてないみたい。