● もらってきた草花
「見て、じいちゃん」
「ん? なんじゃい、この草は? 白い花のフウロソウかの?」
「ううん。その仲間だけど、ペラルゴニウムっていうお花だよ。今日、大学でもらってきたの」
「ぺらる・・・・・・? なんだかよく舌が回らん名前だのーぉ。・・・・・・でも、なかなかきれいだの」
「でしょ? でね、まだこの花には秘密があって!」
「なんぞぃ?」
「葉っぱ、軽く揉んでみて?」
「んー? こうかの? ・・・・・・。・・・・・・お? こりゃあ、りんごみたいな香りがするぞぃ!」
「そうなのぉ! だからね、じいちゃんも気に入ると思って、もらってきたんだぁ!」
「ふぉふぉふぉふぉふぉ。そうか、そうか。みさきは、気が利くのぉ」
「へへへー。良かったぁ」
「こんな草があるんだのぉ。わしゃ、最近の新しい草花は、ぜーんぜんわからんでな」
じいちゃんは、ペラルゴニウムの鉢を大事そうに持ち、玄関横の靴棚の上へ置いた。
「ここなら、屋内だが日当たりもいいぞぃ」
「あ、いいね! そこだと毎日、よく見られるもんね!」
「ふぉふぉふぉふぉ」
じいちゃんの白い髭が、もふもふと動いている。喜んでるんだね、じいちゃん。
「みさき、大学は慣れたかぃ?」
「うん。友達も増えたし、実習や演習も、やり方のコツがわかってきたの」
「そうか、そうかー。・・・・・・初めは疲れるだろうが、最初だけぞぃ。何事も、段階経ずして功成らず。一つずつ学び、一つずつゆっくり積み上げ、身に覚えさせればいいぞぃ」
「・・・・・・そうだね。わたし頑張るよ、じいちゃん」
「みさきは、ずく(やる気)ある娘だからのぉ。無理はせずにの?」
「うん!」
じいちゃんはその時、「お?」と庭の方を向いた。あ、お姉ちゃんも帰ってきたんだね。
「じいちゃん! これ見て! めっずらしいやつをもらってきたんだよ! この葉っぱね・・・・・・」
お姉ちゃんは、小さな鉢植えの草花を満面の笑顔でじいちゃんへ見せたの。
青い花のペラルゴニウムだった。大学の研究室で、同じゼミの人がくれたんだって。
じいちゃんは「つきこ、何の花ぞぃ?」と、何も知らない感じでお姉ちゃんに問いかけていた。