● 山のかみさま
「じいちゃん! じいちゃん! ねぇ、じいちゃん!」
「んー? なんじゃい、つきこ。朝から元気だのぉ」
「元気だのぉ、じゃなくって! りんご畑に、なんか、すごいやつがいる!」
お姉ちゃんが、慌ただしそうに外から戻ってきた。
「すごいやつ、って・・・・・・なぁに、お姉ちゃん」
「弥咲も見てみな! 台所の窓から見えるはずよ! 畑で一番大きい樹の上!」
「樹の上? ふぉふぉふぉ。・・・・・・さては・・・・・・久々に、ここへ来てくれたんかのぉ」
わたしは、お姉ちゃんやじいちゃんと一緒に、台所の窓を開けてみた。
そこから見えるりんご畑は、緑色の葉と、赤い実と、灰色の幹とが絶妙なコントラストとなり、ヨーロッパの油絵のような風景になっている。
「ほら! まだいる! あたし、あんなの初めて生で見たよ!」
「ふぉふぉふぉ。こりゃあ、だいぶご無沙汰じゃの。うちで見るのは五年ぶりくらいだぞぃ」
「え! 何あれ! わ、わたしも、初めて見た・・・・・・」
お姉ちゃんが指差す方向には、りんごの樹の上にどかりと居着く、大きなフクロウが一羽いた。
まるで監視カメラのような動きで、フクロウは時々、首を左右にくるり、くるりと動かす。
「じいちゃん! どうしよう? フクロウがいても、平気なの? あたし、わかんなくてさ」
「ふぉふぉふぉ。平気の平座だぞぃ。あのフクロウはの、りんごの樹を囓って荒らすネズミ類を捕まえてくれるんじゃよ。・・・・・・しばらく見かけなかったが、うちに来たと言うことは、畑にネズミが出始めたんかもしれんのぉ?」
するとじいちゃんは、台所からフクロウに向かって、まるで神社にお参りするかのように、ぱんと柏手を打って拝んだの。「よろしく、お頼み申します」と。
わたしとお姉ちゃんも、よくわかんないけど、じいちゃんに合わせて同じように拝んじゃった。
すると、フクロウはじいちゃんの祈りが届いたのか、両翼をぶわりと大きくその場で広げた。
そして、樹の上から「ホッホォ」と鳴き声を響かせて、りんご畑の一角に向かって、ばさりばさりと飛んだの。その姿はまるで、山の神様と言っても差し支えない格好良さ。
赤い実がついたりんごの樹々。その合間を縫うように飛び、フクロウは地面へどすんと音を立てて着地。その足下では、小さなネズミが「きゅう」と声を上げて、捕まっていた。
「つきこ。みさき。よぉ見るがええ。わしらはこういう自然の一部として生きているんだぞぃ」
フクロウはネズミを丸呑みにした。わたしとお姉ちゃんは、ただ静かに見入ってしまっていた。