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《 SF ・ハイファン・文芸 》

推しの筋肉を褒めまくっていたら、俺を邪険にしていた幼なじみが体を鍛え始めたんだが

作者: 新 星緒

「昨日の大会見たか?」

「見たに決まってる。テレビでやるなんて、めったにねえもん」


 あと少しで夏休みという月曜日。登校するなり教室で立脇とふたり、盛り上がる。ヤツとは同じサッカー部。二年で同クラになって初めて趣味が一緒だとわかった。クライミングだ。

 ヤツも俺も小学生のときにサッカーとクライミング、両方のスクールに通っていたのだが、これって結構珍しくて、すぐに意気投合、仲良くなった。


 しかもしかも。推し選手も同じ。女子の野山まさよ。日本クライミング界を牽引してきた女王! 美人なのもポイントが高い。なにより――


「昨日の筋肉も美しかった!」

「広背筋からの三角筋!」

「あれ! ボルダリングの、両手を上に上げてホールドを掴んでたとき! 肘をちょっと曲げて」

「わかる! あの角度サイコー! 肩周りの筋肉の立体感、チョーヤベェ。さすが、まさよ! でもあれもいい! 斜め横から見る脇の下の広背筋! あの厚み!」

「同意しかねえーーー!」


 立脇も俺もまさよの筋肉フェチだった。だって仕方ない。彼女の筋肉は教科書に載ってるギリシャの彫刻よりも美しく、どんなアイドルの笑顔よりも神々しい。 


「まさよの広背筋、触りてえー」と叶わぬ夢を見ながら叫ぶ俺。できれば顔をうずめたいが、それを言ったらさすがに変態っぽいので黙っておく。が、

「キモっ」 

 とあらぬ方から非難が飛んできた。声の主はと探すと由梨香ゆりかだった。汚物を見るような目で俺を見ている。


「心配するな、筋肉皆無の由梨香には関係ねえ話だから」

 俺はそう言って立脇に向き直った。


 由梨香は幼なじみだ。家は歩いて一分ほどの近さで、幼稚園と小学校は同じとこに通ったし、この頃はそれなりに仲が良かった。バレンタインに友チョコだってもらっていたんだ。


 だが中学校は別になり、そこで疎遠に。高校でまた一緒になったけれど、なぜなのか由梨香は俺に塩対応。いや、塩なんてもんじゃない。めちゃくちゃ嫌われている。

 理由は分からない。

 だから俺も由梨香なんて嫌いだ。


 ――同じ高校だと知ったときは喜んだのに。バカみてえ。


「やっぱさ、鍛え上げられた筋肉こそ美の極致だよな」

 俺は意識を立脇に集中して、まさよの筋肉の話をし続けた。



 ◇◇



 部活に明け暮れた夏休みが終わり、二学期の初日。学校への道をひとりで歩いていると、少し前にいる女子の背中が気になった。なかなかいい肩周りをしている。まだまだひよっこレベルだが、鍛えれば美しい広背筋からの三角筋に育つこと間違いない。


 と、俺の脇を走り抜けて行った自転車が、広背筋女子のそばで止まった。

「やっぱ由梨香だ。おはよー」

 は? 由梨香?

「おはよー」

 広背筋女子が自転車女子を見る。その顔は確かに幼なじみの由梨香だった。


 でもあの背中は?

 夏休み前は絶対にあんなじゃなかった。いったいなにがあったら、あんなに背中が育つんだ?


「由梨香、またおっきくなったね、背中」と自転車から降りた女子が並んで歩きながら言う。。

「えへ。そう? ありがと」由梨香は嬉しそうだ。

「ボなんとか、続いてんの?」

「ボルダリングね。がんばってるよ。週六で通ってるし、筋トレもやってるし」

「日本代表にでもなるつもり?」アハハと笑う自転車女子と、

「まさかぁ」と笑う由梨香。


 え、なに?

 どういうこと?

 由梨香が週六でボルダリングに通ってる?

 なんで?

 もしや――


「綺麗な筋肉を身につけたいだけだよ」

 と笑顔の由梨香。と、視線を感じたのか振り返った。バチリと視線がかち合う。


 そのとたんに由梨香の顔は真っ赤になり、不自然な早さでそっぽを向いた。



 いやいや待て待て。

 一体どういうことなんだよ!!


 由梨香って俺を嫌いなんじゃねえの?

 なんで俺の好きな広背筋を鍛えてんだよ。しかもボルダリングで。





 ……まさかと思うが由梨香はツンデレなのか?

 そうなのか?


 ヤベェ、顔が熱すぎてオーバーヒートしちまいそうだっ。



 《終わり》

カクヨム企画 KAC20235 参加作品

お題・筋肉

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