表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

ご 自分の気持ちと夫の事情と

 

「目印を持つ遠くの方とお話が出来る、と聞いておりますが」


 元夫の天恵って、固定電話みたいなもんでしょ? 目印の魔石=電話機。懐かしの黒電話。


「そうだが、それだけではない。……実際に見た方が分かるだろう」


 元夫は、コトリと綺麗な魔石を机に置くと、隣の部屋から天恵で話しかけると言って向かった。魔石が光ったら、触れると話が出来るらしい。


 魔石が淡く桃色に光った。

 綺麗な光だ。


 そっと魔石に触ると、元夫の声がした。隣の部屋からではない。間違いなく魔石から聞こえる。


 声を遠くに届ける魔法はあるが、言うなれば放送みたいなもので、自分から届ける人に向かって広範囲に声が響いてしまう。

 元夫の天恵は魔石の周囲にだけ聞こえる。

 まあ、聞かれたくない話をする人には便利だわね。


「魔石の回りを見ていて」


 そう元夫が言うと、魔石を置いた机に画像が広がった。


 それは隣の部屋を映していた。


 これは……黒電話ではなく写メだ……!


「え」


 画像はそれで終わりでなかった。やがて動いたかと思えば、扉を開け、この部屋に入り、私を映した。まるで、元夫が見ている視界のように。


 ……机を見ている私の後ろ姿が映っている。振り向いたら、目線バッチリの私が映るのだろう。


 黒電話だって普及していないこの世界じゃその力はものすごく貴重なのに、写メを通り越してライブ中継とは……、国が、王家が放っておくはずがない。


「先程、陛下には天恵を明かす許可は得た」


 やはり……元夫はただの仕事ダイスキーな田舎子爵ではなく、王家の、いや、国王陛下直下で動く人。いわゆる諜報機関ってヤツだ。


 これ、元妻が知ったらあかんヤツ。

 ……よし、ワケわからんフリをしよう。触らぬ神になんとやら、だ。


「声がはっきりと聞こえてすごいですね」


 私はニコニコしながら言い放った。

 画像など見とらん知らん無関係!

 公表している以上のことは断固として受け入れません!


 私の固い意思が伝わったのか、今度は元夫が『はあ』と深い息を吐き、私の両手を握ってきた。


 ……なんだい? と呑気なことを思った次の瞬間。


 私の中に元夫の()()が流れ込んできた。


 ()だ。


 それはやはり元夫の視界で。

 (あで)やかな女性と待ち合わせして宿に向かい、部屋に入った。

 おもむろに女性が服を全て脱ぎ捨て寝台に入り、腹這いになった。


 そこで開く扉。

 現れたのはお腹の大きな……私だ。


 ……あんな顔、してたんかあ。


 自覚している以上に、元夫の裏切り確定に衝撃を受けている顔の私。


 それって。

 私は、元夫を。


 今にも泣き出しそうな顔の私に近付き、扉をバタンと閉める手。


 振り返った寝台の女性はうつ伏せのまま。


『早くしろ』


 元夫の固い声。


『あら怖ぁい。……連れ込み宿だと目撃されて噂が回っちゃうよ? ってちゃんと忠告したわよね?』


 音だけじゃなく会話まで鮮明に……!


 この画は、昨日の夕方、元夫が見聞きしたことを私の頭に直接流しているんだ。


 黒電話だけじゃない。写メやライブ中継だけでもない。

 録画再生機能付き、ときた。


 元夫はそれをアウトプットして送信まで出来るんだ。

 どんな機密も、元夫に見られたら終わりだろう。


『せっかちね、……はい、どう?』


『……また無茶をしたな。だが、これが決め手になるだろう』


 女性の白い背に文字がびっしりと書かれていた。更にどんどん浮かび上がって来る。腰、臀部、ふくらはぎ……。


 時と場所、役割と名前……これは、軍の指令書?


『殿下』


 元夫が魔石に話しかけた。魔石が淡く桃色に光る。


『うん、よく見えている。……裏切り者もいるな。全て捻り潰してやろう。エヴァリーン、よくやった。ゆっくり休んで』


『ありがたきお言葉』


 うつ伏せのままの女性に元夫がシーツをかけてやった。


『殿下。妻にこの場を見られました。私とエヴァリーンの天恵を明かす許可を』


『はあ? 妻は妻なんだからエヴァリーンを愛人だと思われても黙らせれば良いのに。奥さんのこと、そんなに気に入っちゃったの? まさか()()を見せる気?』


『はい。妻を、妻と子を大切にしたいのです』


『天恵を明かさなくても出来るよね?』


『妻は私を唯一としてくれています。私も、一分の隙もなく妻を唯一としたいのです。万が一、誤解などされて心が離れることがあれば、()()が手につかなくなるかもしれません』


 女性が吹き出した。枕に顔を埋めて震えている。

 笑っているのだ。


『おいおい、ヨナスが真面目に愛を語ってるよ……』


『殿下』


『あー、ハイハイ。この件の報告後、陛下に尋ねるからしばし待て。秘密はお前の命をもって守らせなさい』


『御意』


 魔石が光を失うと、女性が顔だけを上げた。


『だからもう館に呼んでくれなくなったんだ?』


『そうだな。妻の管理する家に表立って仕事関係と言えない女性を呼んで、妻に誤解されたくなかった。……もし、この宿でのことが噂になれば、妻は調べた後、自分で見に来るだろうから、目撃されて離婚危機になれば陛下を説得しやすくなる』


『まあ、なりふり構わず……ぞっこんじゃない』


『得難い女性だと思っている』


『ふふふ。じゃあ、自己紹介しておくわ。後で()()見せるのでしょう? 私はエヴァリーン。ヨナスの古い仕事仲間よ。私は見たものを背中とか自分の背面の皮膚に映せるの。でも、魔石で画を送ることは出来ないから、ヨナスに見せているってワケ。ヨナスの唯一さん? いつか会いましょうね』







「なにその『この世のエロ親父の願望』を凝縮したかのような天恵、見たい」


 情報過多で処理出来なかった私の呟きは仕方のないことだと思う。思うったら思う。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ