2-26 異常Na事態
「ん~!身体の調子、戻りましたね」
「ですが、今日も休みましょう。休息は、取れる時に取るべきですマスター」
「まあ、偶には良いですかね……ヨルはどう思います?」
綺麗な陽光の入る朝、調子の戻ったライトは軽く身体を動かしていたのだが、それをミスティアナに止められた。
心配性な奴隷に微笑ましくなると共に、意外と厳しめな婚約者に今日の行動を聞く。
明らかにセーター"一枚"に見えるヨルは、クッキーを片手に口を開いた。
「うぅむ、我としては行動しても良いと思うが……今日は、ルリム・シャーイコニスの処理をするとしよう。と、言うことで休みじゃ」
「そうですか」
ライトは、ヨルが一瞬ミスティアナの方へ視線を向けたのを見逃さなかった。
主を心配する奴隷を気遣ったようである。
少しは優しいとこあるな、とライトはヨルを見直した。
「じゃあ、軽く休憩を挿んでから――何ですかっ!?」
「鐘の音、でしょうか…それにしては、騒がしいような」
「これは……今日の予定は決まりじゃな」
妙に高音の鐘の音が、間隔短く都市中に響く。それはまるでサイレンのようで、危険を知らせているかのように思えた。
だが残念ながらそこまでこの都市の伝達や警報に詳しくないライト達は、誰一人としてその鐘の音の意味を理解できなかったようだ。
鐘の音が止み、静寂が訪れる。
「……止みましたね」
「何だったんでしょうか?」
「何かしらの緊急事態ならば、我らのところに領主の方から連絡が来るじゃろう。でなくとも、住民の動きは此処でも分かる。それを見てからでも我らならば、幾らでも対応出来る。そうは思わぬか?」
「まあ、確かに……」
含み笑いをしながら、そう語るヨル。
その言動に明らかな違和感を感じたライトは、何か企んでいると即座に見抜く。
「ヨル、もしかして何が起こってるか知ってるんじゃないですか?」
「さあ?我も身体は一つしか無い。見ておらぬことなど分からぬわ」
「そうですか……」
(これは当たりですね。……でも、それが分かったからと言って、ヨルが言ってくれるわけでも聞き出せるわけでも無いんですよね)
ライトの予想は確かに当たっていたが、だからといって事態が勝手に好転する訳ではない。
立ったまま唸り、思考を巡らす。一体どう行動すべきなのかを。
すると、ミスティアナが何やら反応した。
「マスター、来客です。恐らくソヨ様、あとデーウルス様とレイシア様、イレーヌ様かと」
「よくそこまで正確に分かりますね……仕組みは分かりませんが、どうにせよ助かります。面々からして、やはり何かしらの問題が起きたというところでしょう。僕が出るので、ミスティアナさんは応接室で茶の準備を、ヨルは勝手に隠れるでも作業するでもしててください」
「マスターの仰せのままに」
「では、我は地下で作業するとしよう」
三人はそれぞれ別の方へと動き出す。
借りている館の玄関へと来たライト。
そこには確かに四つの気配が存在し、ミスティアナの感覚が正しいことが証明された。
声がしないのを不思議に思いながらも、扉を開ける。
「――あっ、ライくんっ助かったよ」
「――ぐあっ、こんなの久しぶりだぜ……」
「――旦那様、お身体に不調はありませんか?」
「――おおっとと、危なかったわ」
額に汗を浮かべてライトに感謝するソヨ、身体から力を抜いて深く息を吐くデーウルス、そんな彼に心配しているような言葉をかけるレイシア、そしてふらついて倒れそうになっているイレーヌ。
まるで"何かから解放された"かのような反応する四人に、ライトは首を傾げる。
だが、その疑問は取り敢えず置いておいて、四人を館の中に入れた。
「で、何しに来たんですか?面々的に、ソヨさんとウルスさん達は別口に見えますけど」
「確かに別々で来たんだけど、目的は一緒なんだよね。ライくんの館の前で、ばったり会った感じ」
「会ったんで、一緒に入ろうとしたら、さっきの有様ってわけよ」
「さっきの有様って?何か魔法にでも掛かってたみたいな反応ですけど」
「当然でしょ、実際に"拘束魔法に掛かってた"んだから、ライトさん、無差別に来訪者を拘束するのは良くないんじゃないかしら?」
「ん?」
イレーヌの言葉に、ライトは動きを一瞬止める。
しかし、対応力の高い思考が、その身に覚えない魔法の警備機能について、即座に答えを導き出す。
この男、圧倒的ポーカーフェイス力である。私に負けるとも劣らないな、これは。
(大方、ヨルが色々と仕込んだんでしょうね。あの蛇は、ぐうたら遊び人に見えて、裏では何考えてるか分からない物語の黒幕みたいな感じですから。さて、どう話をでっち上げましょうか)
魔法を仕込んだ犯人がヨルである、というのはライトの中で確定していた。そして当たっている。
何故なら、ライトとミスティアナは感知式の魔法などそもそも仕込めないし、自身がしていないのは当然分かり、ミスティアナもライトに申し出なくそんなことはしないからだ。
だから、自然と犯人はヨルになる。きっと皆様も分かりきっていたことだろう。
そこで問題なのは、魔法について言及された先程、ライトが知らないような反応をしてしまったのをどう誤魔化すか、だ。
「この館にはそんな魔法は仕込まれちゃいない、そうだろ?レイシア」
「はい、此処には魔法の類は一切ないと記憶しています」
「だからお前さんが仕込んだと思ったんだが、違ったか?」
「はい、違いますね」
ライトは、そうハッキリと言い切る。
ソヨを除く面々の顔に少しの驚きが現れた。
「仕込んだのはミスティアナさんですね。この間、そんなことを言っていました。少し立て込んでた時だったのですっかり忘れてましたよ」
「そういうことなのね」
「ミスティアナさん、まだ魔法の方は教えたばかりなので詳細な構築は出来なかったんだと思います」
「なら仕方ねぇか、領主を拘束した罪は、無かったことにしてやるよ、ハハッ」
「ありがたいです」
(すみませんミスティアナさん、後で埋め合わせします)
上手い具合にミスティアナのせいにして誤魔化すことに成功し、内心安堵する。
と、同時に、勝手に擦り付けたことに罪悪感を感じ、何かしようと心に決めた。
きっとミスティアナは、ライトがしたことならば気にしないが、それに対してライト自身が納得するかは全く別の話だ。
「ところで話を戻しますが、今日は何の用で?応接室でミスティアナさんが紅茶を準備してくれているので、そっちで話したいと思うんですけど」
「――おっと忘れてた。ミスティアナちゃんには悪いけど、かなり緊急の用事なんだよね、紅茶はまた今度貰おうかな」
「そうですか……その感じからして、ミスティアナさんも呼んだ方が良さそうですね」
「そうしてくれると助かる」
いつもとは違うソヨの雰囲気を感じ取り、ライトは切り替えて真面目に対応することにした。
深く息を吸い込む。
「ミスティアナさんっ!!作業は全て中止ですっ!!今すぐ来てくださいっ!!」
「ライトさん、こんなに声張れたのね」
「ライくん割と声出る方だよ?戦闘中の乗ってる時とか凄い声出すもん」
「そうなのか、俺もレーヌと同じように、そこまで声出さない冷静なタイプだと思ってたぜ」
館中に響く程の大声を出してミスティアナを呼ぶライトに、それぞれ反応する。
『凄い声出す』とは、凄く大きな声を出すという意味なのか、色々とある意味"凄い"声出すという表現なのかは定かではない。
前者であることを願う。
主の言葉を聞いた奴隷は、それはそれは光のような速度で駆けて来る。
館の通路に跡が付いてしまったが、仕方ない。
「――マスター、参りました。皆様、いらっしゃいませ」
「ミスティアナちゃん、おっはー」
「久しぶりだな、嬢ちゃん」
「お久しぶりです、ミスティアナ様」
「私は初めましてかしら、ミスティアナさん。よろしくお願いするわ」
「こちらこそ、よろしくお願いします、イレーヌ様」
軽い挨拶を済ませ、本題へと入る。
話をし始めたのは、当然ソヨだ。
「今回の緊急事態の要点だけ言うと、『大迷宮で特災によるスタンピードが起きた』って感じかな」
「スタンピード、ですか」
「ありゃ?凄いことなのに反応薄いよ?ライくん」
「何が凄いのか今一分かりませんので」
「はぁ、『大迷宮』は此処100年くらいスタンピード起きてなかったの。まあ早々起こってたまるかって感じなんだけどね」
反応の悪いライトに呆れながらも、ソヨは話を続けていく。
因みにライトの反応が悪いのには、もう一つ理由があり、旅に出る前は地域密着型、ハジノスでしか冒険者をしていなかったライトは、ダンジョンが近くに無かったこともありスタンピードを経験したことが無いのだ。
故に、その脅威が理解できていない。
「正直に言えば、"唯の"スタンピードなら問題無かったんだよね。普通の冒険者と騎士団で対応可能な範囲だった、けど」
「普通のじゃないんですね……さっき特災って言ってましたし」
「全34種の特災の中でもスタンピードを引き起こせるのは3種だけなんけど、その中でも最悪なのが来たんだよ」
「最悪?」
豪く重い様子で、ソヨは口を開いた。
「――"無窮戦陣"『Unlimited Undead Unknown』…がね」
◆投稿
次の投稿は12/17(土)です。
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◆蛇足
蛇の王「我ってそんなに裏で動いてそうかのう?評価が高いのか低いのか分からんのじゃが」
語り部「ふぅ……まあ、半々だろうな。しっかりしているとこもあるけど、駄目なとこもある。後裏では何を考えてるか分からないってのが、ライトの評価だろうな」
蛇の王「最後の部分じゃよ、何で我はそう黒っぽく思われているっ!」
語り部「それは蛇王が隠し事多いからだろ、ライトは意外と鋭いからな。お前が何かしてるのだってきっと正確には分からないけど、感覚では気付いてるんだろう」
蛇の王「くぬぅ……ちょっと考えることにするかのう」




