S-H ライト・ミドガルズの気になる仮装の日
ハロウィン番外編です。
「んぅ〜!いい朝です」
暖かい陽の光により、気持ちの良い目覚めをライトはする。
やはり、彼の目覚めはこうでなくては。
「さてと、今日はハロウィン。よく知りませんが、仮装して楽しむ日らしいので、僕もそれに則るとしましょう!」
ぶっちゃけ[ミルフィリア]にハロウィンは存在しないが、身内だけでのパーティーというか、行事なので気にする必要はない。
全力で楽しめばいいだけだ。
「前々から、仮装のネタを考えていました……。そう、遂に覚悟を決めた"アレ"をやる時が来たんですっ」
いつも通りの、綺麗な孤を描いた笑みを浮かべ、彼は作業に移る。
意気揚々と、大きな姿見の前に立つ。
「では先ず、髪の色から変えましょう」
普段なら起きて直ぐに髪を纏めるのだが、今日は解いたままだ。
こうして見ると、彼はこれだけで結構女っぽくなる。元々顔が女顔だからである。
彼は、自分の髪に手で触れる。
―――虚の理:≪猛毒支配法則・色毒生成≫
すると、みるみる彼の髪の色が灰色に変わる。
彼が創り出した、物質の色を変える毒の効果だ。有機物にも無機物にも強制的に作用する優れ物なのだ。
染料とか全く不要なのも良い所、お金が掛からなくて。
ただ、日常ではあまり使いどころはない。
「うん、良い灰色です。次は瞳ですね」
―――虚の理:≪猛毒支配法則・色毒生成≫
目を閉じて、目蓋の上から瞳に触れて毒を使う。
手を離して、目蓋を開けると、彼の瞳は月のような薄い黄色に変わっていた。
「うんうん、いい感じ。で、後は服です」
虚空から取り出した服を、ベッドの上に広げる。
それは、どこかで見たことのある、白と黒を基調として所々に赤色が入った、フリルの多い所謂ゴスロリのドレス。
同系統のブーツや、本物は着けていない手袋もある。
「じゃあ、着替えますか」
寝間着を脱いで、迷いの欠片もなくドレスを着るライト。
色々と感性が壊れてきたかもしれない…いやいつも通りでもあるかもしれない。
着替え終えた彼は、再度姿見の前に立つ。
「これは……――完璧ですっ!」
姿見には、見目麗しい灰色の髪の少女が映っていた。
そう、彼が考えたハロウィンの仮装のネタは、死神タナトスの格好である。
紛うこと無い、"女装"でもある。
「我ながら、素晴らしいです。あの隔絶した美しさのタナトス様には届きませんが、雰囲気は完全再現と言っても過言ではありません!」
テンション爆上げのライトであるが、この仮装には致命的な欠陥がある。
誰も、タナトスの姿を見たことがないので、何の仮装か分からないのだ。
身内のみなのでタナトスという存在そのものは知っているが、現代で考えると地味ハロウィンくらい分かりにくい。
というか、一般には周知もされていないし、想像も出来ないので、地味ハロウィン以上に分からないだろう。
まあ、もう一度言うが、身内のみなので問題はない。
「あとは、ペルセネアを持てば」
虚空から、紫色の巨大な鎌――神器『冥禍鎌 ぺルセネア』を取り出して構える。
その姿は、正にタナトスと瓜二つ。
「良いですねぇ、今日一日楽しめそうです!」
喜ぶ彼の動きと共に、ドレスの裾が揺れる。
完全に、はしゃいでいるお姫様である。
「さてと、皆の所に行きますか」
上機嫌なライトは、そのままに部屋を出ていった。
朝食時なので、食堂へと来た。
「皆、おはようございます!」
「「「――おはよう」じゃ」ございます」
返ってくるのは、当然三つの声。
そうして、彼女達を見て、彼は足を止めた。
「…ん〜〜まぁ、良いですか」
微妙そうな顔のまま、足を進める。
気になる彼女らの格好に関して飲み込んだのだ。
彼女らも同じく、彼の格好に関して何か言ってくることはない。
朝食をいつも取る位置に、彼は座った。
ささぁっと、食事シーンは流して、食事後。
「それで、ヨルは何で"僕の格好"をしてるんですか?」
「似合っとるじゃろ?」
「それはそうなんですが…何か違いません?仮装の方向性が」
ライトの真正面に座るヨルは、"ライトの格好"をしていた。
髪を後ろで一纏めにし、漆黒ロングコートに手袋に靴。再現度が高すぎるくらいだ。然も"男装"である。
ライトが仮装して彼が消えたかと思えば、ライトがその場には居る訳で…ハッキリ言って意味が分からない。
見た目の知名度があまりない仮装をしたり、知っている異性に化けるなど同じことをする辺り、似た者同士が過ぎる。
「お主とそう変わらんと思うが?」
「そう、ですか?……」
ヨルの言葉に曖昧な笑みを浮かべ、逃れるように対角に座るナイへと視線を移す。
「ナイは…」
「何よ、文句があるのかしら?」
「いえ何か…普通だなぁって」
「可愛くないって言ってるの?殴られたいわけ?」
「別に殴られるのは構いませんよ。ナイのパンチ雑魚いですし。それに、可愛くはありますよ?でも…意外性がないというか」
「良いじゃない!いい案が思いつかなかったのよ!」
ナイはというと、無難に魔女の格好をしていた。
皆様が想像する妖艶な感じのスリット深めの魔女服ではなく、ガッチリとしているが可愛い猫が描かれた黒のローブと、とんがり帽子を被った、魔女というより魔法使いに近い格好だ。
プンプンと少し怒った様子の彼女を宥めていると、いい匂いが鼻腔をくすぐる。
「――マスター、ケーキが焼けました」
「っ!美味しそうです!え〜と、パンプキンケーキですか?」
ミスティアナが、オレンジ色のケーキを大きな皿にのせて持ってきていた。
独特な甘い匂いから、ケーキに南瓜が使われていることに、ライトは気付いた。
「はい、ハロウィンは南瓜を食べるそうなので、特別に作ってみました」
「うむ、確かに美味しそうじゃな」
「ミスティ、皿をこっちに置いてくれる?切り分けは私がやるわ」
「分かりました」
別に南瓜は食べるわけではなく、装飾に使うのだが、まあ深く気にしても仕方がない。
美味しければ、楽しめていれば、それで良いと思わないか?
ナイが、いそいそとケーキを切り分けている間に、ライトはミスティアナの方を向く。
てか、彼女の服装を見ている。
「それで、何故ミスティは"バニーガールの衣装"をしてるんですか?」
いちいち他者の仮装に、疑問を抱く男だ。自分も初手から女装という変わり種を選んでいるくせに。
そんな彼が見ているミスティアナは、言葉通りバニーガールの格好をしている。
兎耳に、身体のラインの出る布面積の多くない上着、白い長手袋と網タイツ。
皆様の想像しているバニーガールで相違ない。
一箇所、変だとすれば、彼女は獣人ではない筈なのに、彼女の頭兎耳が本物に見えるくらいだ。
「マスターは、兎が好きですから。だからですよ?」
「ふ〜ん……何か、変ですね」
「何がでしょうか?」
「ミスティなら、もっと気が狂ったかのような仮装を、本気でしてきそうな気がするんですよねぇ」
あまりにも失礼な言葉であるが、無神経な言葉は彼の十八番なので気にしても意味がない。
「安直過ぎるというか……」
「ミスティにも、そんな時はあるでしょ」
「…成程、そういうことですか。ナイ、ミスティに自分の仮装を着させましたね?」
「な、何をっ、言ってるのかしらぁ?」
「動揺しすぎですよ、それもう自白と同じです」
ライトの言葉に、思いっきり動揺するナイ。
それはそれで可愛いが、顔に出過ぎである。
「大方、準備をしたはいいものの。いざ着るとなれば、恥ずかしくなって、ミスティに任せた。新しく自分用の恥ずかしくない物を、用意したってところですかね」
「そこまでっ」
「はぁ…ナイ、だからマスターにはバレると言ったでしょう」
「くっ、こんな綺麗にバレるなんて」
彼の推理は、当たっていたようで、ミスティアナは呆れた顔をして、ナイは悔しげな顔をする。
「因みに、ナイにバニーガールを勧めたのは、我じゃ」
「でしょうね。ナイが思いつくわけありませんし」
「ナイに良いと思ったんじゃがなぁ。とんだヘタレだったわ」
「布面積が少ないのよ!こう、何か変態的で私には無理だわ!」
「別に、身体を重ねた仲じゃし、良いじゃろ」
「そうだけどっ。そうじゃないのよ!こう、雰囲気ってものが違うの!」
ヨルとナイが言い合いを始めてしまったので、ライトはナイが途中で止めたケーキを切り分ける。
小皿にのせ、フォークと共に各々の場所にケーキを運ぶ。
「はい、言い合いはケーキを食べた後でお願いします。折角の焼きたてのケーキが冷めちゃいます」
「それはそうじゃな!」
「くっ、食べたら覚悟しないさいよ?ヨル」
一旦、言い合いは中断され、各自が席につく。
「それじゃあ――」
『いただきます!』
パンプキンケーキは、仄かな甘みと南瓜の風味が絶妙で、とても美味しかったことをここに記す。
この後、ヨルとナイの言い合いが激化し、館が半壊したのはまた別の機会に話すとしよう。
皆様は、節度を守って羽目を外してくださいね?
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