2-11 確認No続行To…?
「さて、じゃあ再開しましょうか」
「あのマスター、ヨル様はあのままで良いんでしょうか」
「その駄王は、放置で良いです。どんなことでも基本的には、興奮出来る生粋の変態ですから。ですよね?ヨル」
ミスティアナが少し心配な風に見ているのは、縄で腕を後ろ手に拘束され、首から『我は罪を犯しました』と書かれた板を下げ、苦し気な顔をしながらも頬を紅潮させた、正座をしているヨルである。
然も何故か、ヨルの周囲の地面だけが陥没しているのだ。
「は、はひっ」
「ほら、楽しんでます。それに本気にならなくても、僕が掛けた魔法くらいは簡単に解除出来るんですから、アレは自分でやってるんですよ」
「そう…なのですか、マスターがそう言うならば、気にしないことにします」
視界の隅にずっといるので、とても気になって仕方がないのだが、頑張って無視することにミスティアナはした。
絵面が結構酷いので仕方がない。
「次はソウルイーターですね。さあ、今度は回避しないので来てください」
「短剣、ですか……リアニュークのような長剣より、手に馴染みます」
薄く透き通った、ガラスのような刃を持つ短剣を軽く構えて振りながら、ミスティアナはそう口にする。
「成程……」
手に馴染むという言葉に、嫌な予感を感じライトは、意識の集中以外の対策を取ることにした。
先程のような回避行動を取らないと明言したからには、主として絶対に守らなければならない、と彼は考えた。
別にそんな必要は無い。気にしなくてもいいのだ。
《黒剛彩王-虚の理-偽詐術策-聡明》
―――中級時空魔法:思考加速
「では、マスター――行きます」
見える世界が、確かに遅れる。それと同時に、視界に捉えていたミスティアナの姿がブレる。
気づけば、彼女は目の前30㎝も無い処に居り、魂喰剣を目一杯に繰り出していた。
だがライトは、乱流刀の時のような反射ではなく、能動的に自身の心臓目掛けて振るわれていた魂喰剣を叩き落す。
「……流石です。マスター」
「少し、ズルしてますけどね。分かったのは、ミスティアナさんは長剣よりも短剣の方が得意そうです。移動速度が段違いでしたし」
「私もそんな気がします」
落とした魂喰剣を拾いながら、ミスティアナの動きを思い出し、脳内で照らし合わせる。
自身の状態が違うが故に、完璧な判断は出来ないが明らかに魂喰剣を扱っていた時の方が、行動が早く更には、精確な攻撃だったと感じた。
(重量の関係もあるでしょうけど、それを加味していても軽快でしたし、短剣の方が良さそうですね。もっと、上手く扱えるものがあった場合も、副武装として持たせても……というか、そう思うと僕魔法使ってなかったら、死んでいたのでは?)
彼女が、確かに自身の心臓を狙って来ていたことを思い出す。背筋に嫌な汗が流れる。
そんなこと無い、と首を振って負の思考を脳内から追い出し、ライトは次を考え始めた。
「次は槍、ディグレストーンです」
「…………」
「ミスティアナさん、どうかしました?」
ミスティアナが、剥奪槍を持ったまま眺めていて動かない。
心なしか、驚いている顔をしているような気がする。
「……マスター、この槍、凄いです」
「何が凄いんです?」
「えと、こう、何か凄いんです」
「そうですか……」(申し訳ありませんけど、全ッ然ッ!分からない!)
かなり動揺しているのか、興奮しているのか、語彙力皆無のミスティアナにライトは困ってしまう。
しかしながら、そんな彼女は大変可愛らしい。
感覚は本人のものであり、ライトには分からないが、悪い方向の凄さではないのだと、彼女の雰囲気から察した。
「何か凄いと思うなら、僕にその凄さ、見せて下さい」
「はい、マスター!――行きますっ!」
白銀の矛先が向けられたその瞬間、遅れた世界なのにも関わらず、ミスティアナの姿が"掻き消えた"。
「――あ、れ?」
口から血が滴り、身体から力が抜けていく。
「――マスターッ!?」
「何、が…起き……」
視線を胸へと下げる。そこには、自身に"深々と"突き刺さった剥奪槍が。
遅れて激痛が全身に走り、ライトの意識を喰らった。
◆◇◆
後頭部に当たる柔らかな感触と共に意識が浮上する。
ミスティアナが、深く顔を覗き込んできていた。
「……――マスターッ!意識が戻ったんですか……良かった」
「ほら戻ったじゃろ?我の術に失敗は無いと言ったではないか」
「ですが、一時間も意識が戻らなかったんですよ?心配して当然ではないでしょうか」
「まあ、確かにのう」
聞きなれた二つの声が行きかい、ライトを目覚めさせていく。
ゆっくりとミスティアナの膝から上体を起こす、靄が掛かったように思考はまだ晴れない。
ボーっとしているライトに、近くで見ていたヨルが近付き、しゃがんで目線を合わせる。
「ライト、何があったか覚えているかのう?」
「ヨ、ル?……ミスティアナさんの扱える武器の確認を……それ以上は覚えてません。何があったんですか?」
「そうじゃのぉ……率直に言えば、ライト、お主は『死んだ』」
「……んえ?」
ライトはヨルの言っていることが理解できなかった。
当然のことだ。自身が、今此処にいるにも関わらず、死んだなどということ、理解できる筈がない。
「何言ってるんですか?変態が行き過ぎて、可笑しくなったんじゃないですか?」
「ライト、ふざけている場合じゃないのじゃ。それに我はいつでも無限大の変態じゃ。行き過ぎるとかないぞ」
「じゃあどういうことなんですか!」
「マスター、私のせいです……」
「ミスッ、ティアナさんの?」
明らかに申し訳なさそうな顔して、髪のインナーカラーが青になったミスティアナがライトのローブの袖を持って抱き着いて来た。
ライトは状況が転々とし過ぎて、付いて行けない。
「私の攻撃が、マスターの心臓を貫いてしまって……」
「それで僕、死んだんですか……状況的に、ヨルが蘇らせてくれた感じですか?」
「そうなるな」
漸く思考が正常に戻って来たライトは、何が起きたのか分かって来る。
ヨルがライトに真剣な目を向ける。思わずライトも、背筋が張り、緊張する。
「今回に関しては、我の計算外じゃった。済まぬと思っておる」
「どういうことですか?ただ、僕がミスティアナさんの攻撃に対応できなかった。それ以上でも以下でもないのでは?」
「じゃが、我の計算ではミスティではライトを殺すに至らない筈だったのじゃ。我は無茶はさせるが無計画にはさせぬ。危険はあるが、こうなる訳は無かったのじゃ。師としての、我の抜かりじゃ、本当に済まんのう」
(全然気にしなくても良いんですけどね。でも、そう思いがあるなら、否定するのも悪いので此処は)
「そこまで言うのなら、悪いのは全てヨル――」
「――まああの程度の攻撃を回避できずに死んだライトは雑魚過ぎて笑えてくるがのう」
ピキッ、と何かが割れたような、斬れたような音が聞こえた気がする。
この師弟、揃って空気読めないらしい。
素早くミスティアナの頭を撫でてから離れてもらい、ヨルと向き合う。
「駄王様は、まだまだ反省が足りないみたいですね。僕が、指導してあげますよ」
「童が、何を申すか。ここは師として、弟子に教え込まなければならぬなぁ……久しぶりに、やるか?」
「乗ってあげますよ、今回は勝たせてもらいます」
「身の程を弁えろ。我に勝つなど、百も万も億年も早いわ!」
何故か、バチバチになった。二人は、これよりぶつかるだろう。
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次の投稿は11/17(木)です。
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◆技解説
魔法技録
中級時空魔法:思考加速 自身の思考のみを加速させる
◆蛇足
語り部「主人公の初死がヒロインに刺されてって、字面だけで言うと何か色々酷そうな作品だよね」
蛇の王「ヒロインに刺されて(槍)じゃろ?ドロドロな恋愛は皆無そうじゃな。というか初死って何じゃ。変な言葉を作るでない」
語り部「これだから古い蛇王は、言葉はどんどん作って行かなきゃ」
蛇の王「古いだと?お主より機械の扱い得意じゃぞ?」
語り部「うぐっ……ま、まぁ確かにな」
蛇の王「機械音痴じゃよな?なぁ語り部」
語り部「逃げるが勝ちぃー!」
蛇の王「――いや、何処に逃げるんじゃ?」
その後、語り部が壁に激突する音が部屋に響いた。




