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黒塗の八岐大蛇 ~負けれない少年は、人道外れでも勝利をもぎ取りたい~  作者: 白亜黒糖
基章 作中内容の一覧と気紛れの番外編 ※ネタバレ注意
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S-A ライト・ミドガルズが戸惑う嘘の日

エイプリルフール番外編です。



 ある日の朝。



「……ミスティ。何がどうしたんですか」



 ライトは、回らない思考の中そう呟く。



「マスター、今日から私は、猫ですにゃ。いえ、というより前から猫でしたにゃ」

「いや、それは嘘ですよね」

「はい、ですが今日は嘘を吐いて良い日だとヨル様が言ってしましたにゃ」

「またヨルですか」



 早朝、起こしに来てくれたミスティアナの様子が明らかに可笑しかった。

 白い猫耳と尻尾が生えていた。別にカチューシャを着けている訳でもなく、物理的に本当に生えていた。


 加えて、変なことを言うと思ったら、例によって例の如く、蛇のせいである。



「では、猫だと言うのなら、こっちに来てください。撫でてあげます」

「いえーい、マスター大好きにゃ」

「……」(今回はヨルに感謝しておくとしましょう)



 飛び付いてくる彼女が狂おしい程に可愛かった為、ヨルは見逃されたらしい。

 彼女の頭に手を載せ優しく撫で、髪を弄ぶ。

 撫でる手に連動して、ピクッピクッと耳が動き、うねうねと尻尾が動き回る。



「うにゃ~、マスターもっとしてほしいですにゃ」

(うん、可愛い)

「こう、もっと指を這わせる感じでお願いしま――」

「――遅い、私は直ぐに連れてこいと言った筈だが?」



 二人がじゃれあっていると部屋の扉が開かれ、そこから普段とは違う口調と服装のヨルが現れ、注意してくる。



「その口調、違和感ありまくりですよ。それにその服、いつもと違う系統ですけど似合ってますね」

「褒め言葉は貰っておこう、だが私は元々このような口調だ」

「いや、嘘ですよねそれ」

「ああそうだ、だがそれでいい」

「えぇ、まあ今日どういう感じに進むか分かりました」



 いつものドレスではなく、紺色の軍服のような物を着たヨルが、いつもよりは硬い口調で喋りかけてくる。

 その様子から、今日一日どのようなことが起こるか予想できてしまい少し気分が下がった。


 膝の上に垂れかかってくるミスティアナを避け、ベッドから降りる。



「ミスティ、ご飯食べに行きますよ。ナイも待ってますから」

「にゃぁ、仕方がないですにゃ」

「では、行くとしよう」

(はぁ、今日は一段と騒がしくなりそうです)



 普段と様相の違う彼女らを見ていると、自然とため息が出る。

 しかしながら、それを少し楽しんでいる彼も居た。






「全く、遅いのよ!」

「済まない、少しミスティがな」

「私は猫なので、責任は負いませんにゃ」

「誰か、助けてくれ……」



 食堂には、ナイが待っており、彼らが遅かったことが不満らしく頬を膨らませている。

 その彼女の服装を見て、ライトは天を仰ぐ。


 彼女は、"メイド服"を着ていた。

 然も、クラシカルなしっかりとした物ではなく、ミニスカートでフリル多めのコスプレ感が非常に強いメイド服だ。



「折角作ったご飯が冷めちゃうじゃない、もっと早く来なさい」

「すみません、それじゃ、食べましょうか」

「あ、ライト様、ちょっとこっちに来なさい」

「はい…ん?ライト様?」

「何?ライト様、違和感でもあるのかしら?」

「いえ、ありません……」(様呼びするのに、口調は変えないんですね。中途半端というべきか、ナイらしいと言うべきか)

「ワタシは、元々貴方のメイドよ?文句はないわね?」

「はい」



 一応、メイドらしく様付けはしているが、断固として口調は変えていないナイに、苦笑いをする。


 各々が席に付き、しっかりと合わせて言葉を紡いでから、食事を開始した。




 食事を終え、ソファーに背を預けたライトは呟く。



―――真察賢蛇(デルピュネース)=嘘を吐いていい日とは?



 言葉の後に現れたウィンドウに、彼は素早く目を通す。

 そこに羅列を一言一句が逃さずに。


 読み終えた彼は、また溜息を吐いた。



(エイプリルフール…確かに嘘を吐いていい日です。けど、読んだ限り別に『嘘を強要する』日ではありませんよね。それに仮装する風習もありません、それ別の行事ですし。三人共、あってるようであってないんですよ)



 口には出さいないが、ライトは呆れていた。だが、それでも口には笑みがあった。

 どんなに間違っていようとも、彼にとって彼女らが愛おしい存在であることは変わらないからだろう。


 勿論、疲れるので控えてほしいとは思っているが。


 そんなことを考えていると、変わらずメイド姿のナイが近付いてくる。

 テクテクと手に見覚えのある道具と布を持ち、ライトの右隣に座った。



「頭を貸しなさい、ライト様。特別にワタシの膝を使わせてあげるわ」

「それじゃあ、お願いします」

「あら、すんなりね」

「"それ"を持ってるなら、やることは一つですし、別に断る理由もありません。そも、ナイのお願いを断る気なんてありませんけど」

「嬉しいこと言ってくれるわね。少しサービスしてあげるわ」

(やっぱり、この服装とナイの口調は合いませんね。姫様系メイドって矛盾してますし。ナイは、ツンデレとも言いづらい。難しいです)



 体を彼女の方へと倒し、膝へ頭を乗せる。所謂、膝枕という形だ。

 ふわりと、優しく落ち着くような花の香りが鼻孔をくすぐる。


 視界に、先端がヘラのような形になっている細長い黒い棒――耳かき棒が映る。



「動かないでよ?危ないから」

「分かりました。それでその耳かき、ヨルに借りたんですか?」

「いえ、貰ったのよ。大分前に、何でも持ってるヨルなら持ってるんじゃないかと思って聞いたら「、案の定持ってて、その時は借りようとしたんだけど『良いものを作ってやるから持ってけ』って言われて、貰ったわ」

「へぇ」



 耳の中に棒が入る感覚と彼女の手が耳に触れる感覚で、動きそうになる体を抑えながら話を聞く。



「この耳かき棒、唯の棒に見えて馬鹿みたいに性能高いのよね。使用した相手の精神を穏やかにしたり、癒やしを与える効果があったり、耳かき棒の癖にこれで魔法を使ったら効果が上がるわ」

「まあ、そこはヨルですし、仕方がありません」

「ええ、ヨルだもの。その一言で納得できてしまうのが、あの人の凄いところよね」

「普段の姿からはアレですけど、世界最強ですし」



 ヨルという話題を基に会話していく。

 その度に、ナイの温かい息が耳に掛かり、実は結構辛かったりする。

 けれども、そこはライト。精神力で体が動かないのようにしている、恐らくピクリともしていない。



「少し、息を吹きかけるわね」

「はい」

「ふぅ〜…うん、良いわね。次は反対よ」

「分かりました、よいしょっと…これは少し恥ずかしいですね」

「そう?ワタシはそうでもないけど」



 どうやら片方終わったらしく頭を反転させた。

 先程までは外側、ナイとは反対の方を向いていたのだが、反転させるということは内側、ナイの方を見ることになる。

 するとだ、ナイのお腹などが非常に近くなる為心臓に悪かった。



「それじゃ、こっちもやってくわね」

「はい」

「一応言っとくけど、動かな――」

「――マスタァ―!」

「不味いっ!?」



 耳の穴の中に丁度棒が入ったという状況で、明らかに高速で近付いてくるミスティアナの気配を感じ取ったライト。

 掌だけをそちらを向け、見えない中感覚だけで魔法を使う。

 形成された灰色の魔法陣が霧散する。



―――天級重力魔法:万象よ、地に伏せろトートゥム・グラヴィタス


「――うにゃっ!?」

「ふぅ、何とかなったみたいですね」

「ライト様、助かったわね。あのままだと、ライト様の耳の中が血だらけになるところだったわ、鼓膜は逝ってたわ」

「本当に危ないです。ミスティ、しっかり相手が何をしているか確認してから行動してください」

「すみませんにゃ、マスター」

「罰として、ミスティはナイの耳かきが終わるまでそのままです」

「そんなぁですにゃ…」



 どういう風になっているか彼には分からないが、声色から反省しているようなので、そのままにしておく。

 ナイも耳かきを再開する。

 実際のところどうなっているかと言うと、床に大の字になってミスティアナが床に伏せていた。


 数秒後、今度はドタドタと足音が近付いてきた。



「ライトッ!貴様適当に魔法を使っただろうっ!お陰で私のコレクションが少し壊れてしまった!どう落とし前をつける!」

「えぇっ!?」(確かに適当には使いましたけど、そこまで範囲広くした気はないんですが……)



 怒号と共にヨルが戻ってきたらしい。そんな中でも、ナイの手は止まっていない。

 ライトは必死に頭を回転させた。



「えっ、えっと嘘ってことじゃ駄目ですかね」



 この男、エイプリルフールの詳細を知っていながら嘘の使い方を間違えている。

 焦っているので大目に見てほしい。


 数秒の沈黙の後、ヨルが笑い出す。



「何、嘘だよ、嘘。コレクションは壊れてない。重力魔法を使った気配があったから、唯おちょくっただけだ」

「……はぁ、やっぱり、嘘はいいです。特に、心臓に悪いのは」

「ライト、動かないで」

「はい、すみません」

「マスタァー、魔法解いといてくださいにゃ」

「それはまだ駄目です」

「そんにゃぁ〜」



 ゴタゴタとした様子で、今日もまた過ぎていく。

 騒がしくも、やはりこの嘘の日は明るく過ごせた気がした、ライトであった。



◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

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