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2-P 見てる側の身にもなれ





「………………」



 陽光の緩い温もりが、ライトの意識をゆっくりと引き上げる。昨夜の疲労の為か、いつものように直ぐに目覚めることが出来ない。



「――……」

「……?……」



 ゆっくりと扉が開き、ミスティアナが入って来る。そのまま、音を立てないように、彼女はライトへと近づく。

 そして、ベッドの真横まで移動すると、少し屈んでライトの耳元に口を近づけ……。



「……マスター、朝ですよ。起きて下さい」

「――っ!?はえ?あっ、ミスティですか……」

「おはようございます、マスター。ヨル様が、朝食を作って待っていますよ、行きましょう」



 熱い息が耳の中を通る感覚と背筋に何かが走るような感覚で、ライトは目が覚め飛び起きた。心臓が嫌に響いている。

 そんなライトの動揺など露知らず、ミスティアナは言葉を投げかけた。

 彼女の三つ編みが後ろで揺れる。



「ん、分かりました。起きます……あれ?ミスティどうやって着替えたんですか?」

「ヨル様がやって下さいました」

「確かに同じ女性ですから出来て当然ですね」

「いえ、あのマスターとヨル様が使う、蛇王蛇法というのを使って一瞬でしてくださいました」

「え?」



 ベットから降りたライトの動きが止まる。その身は、モノクロのシンプルな寝間着に包まれている。顔には、心からの驚嘆が浮かび、声も発することが出来なくなってしまった。

 数秒の停止の後に、ライトが動き出す。拳は強く握られ、顔には出ていない怒りが表されていた。



「へぇ……蛇王蛇法で出来たんですか……」

「何かありましたか?マスター」

「何でもありませんよ、ミスティ。先に戻っていてください、僕も着替えて直ぐに行きますので」

「…?分かりました、待っています」



 不思議に思っている顔を、恐らくしているだろうが、素直にライトの言うことに従いミスティアナは部屋の外へ出て行った。

 ライトは、手早く寝間着を脱ぎ、巳蚓魑(ミヅチ)から取り出したヨル製の黒服に着替える。そして寝ている時は解いている髪を纏め、部屋の外へと出て行く。



◆◇◆



 良い匂いのする廊下を移動し、食堂の扉を開ける。そこには、二人の少女が待っていた。

 片方は先程会ったミスティアナ、そしてもう片方はライトの相棒兼師匠兼婚約者のヨルだ。二人共、朝食の並ぶテーブルを前に座って談笑していたようである。



「――ライト!遅いぞ、朝食が冷めてしまうではないか」

「これでも急いだんですけどね、済みません」

「まあよい、さあ早く座るが良い!一緒に食べるのじゃ」

「分かりましたよ」



 入って来たライトに気付いたヨルが、声を掛け、着席を促す。ライトは、長方形テーブルの四つの席の内、埋っていない席、ヨルの対面でミスティアナの右隣の場所だ。

 ライトが着席する。



「「「いただきます」」」



 三人の合わさった声が響き、食事が開始される。のだが、ライトは先ずミスティアナの方を向く。そして、パンの一つを手に取って千切り、彼女の口の方へと持って行く。

 それを見たミスティアナは、パクリと音がしそうな感じで、ライトの持つパンを食べた。



「美味しいですか?ミスティ」

「はい、マスター」

「……それ、改めて見ると凄いのう」



 ヨルは一連の流れを見て、少し渋い顔をしてサラダを食べながらそう言う。

 当然と言えば、当然である。目の前で、ウザったらしい熱々のカップルのしそうな行為が普通に行われているのだから。



「仕方ないじゃないですか、ミスティこうしなきゃ"味が分からない"んですから」



 新たにスープをミスティアナに食べさせながら、ライトは諦めという言葉が浮かびそうな顔で返す。



「でものう……こう胸焼けするというか、見てる側の身にもなれと言いたくなるのじゃ」

「知ったことですか、ミスティの為に仕方ないことなんです。そんなこと言う奴が居るなら、全員捻り潰しますよ」

「本当にしそうで怖いんじゃが……まあ知らぬ奴ならそれでいいが、知り合い場合そうもいかんじゃろ。やはり改めて手を考えなければならぬかもしれぬな」

「そうですよね……ミスティに食べさせてる間は僕食べられませんし、何か手は無いものですかね」



 手を動かし、口を動かしながらも二人は思考する。その最中もミスティアナは只管にモグモグと食べている。可愛い。

 実はこの手の話し合いは既に何度も行われており、その度に結局は方法を思い浮かばず今の形のままなのだ。



「……マスターは、私に食べさせるの、嫌ですか?」



 少し悲しさを滲ませるような声でミスティアナがそんなことを言ってきた。彼女の髪のインナーカラーが、水色に染まっている。顔は、いつも通りに見える。

 ライトは、それを聞き見て慌てた様子で、彼女の頭を撫でながら口を開く。



「別にそういうことではないですよ、ミスティ。寧ろミスティの為なら幾らでもします。けど、それが出来るのは、こういう事情を知っている人の時だけなんです。もっとしっかりした場では、失礼に当たる場合だってありますから。それにそもそも、食事自体が遅れてしまうというのもありますがね」

「そうですか……マスターが嫌でないのなら、私は何の問題もありません。遮ってしまいすみません、マスター」

「いえ、別にいいんですよ、ミスティ」

「……はぁ、甘ったるいのう」



 ヨルは、妙に口の中が甘く感じるこの空気が、少し嫌になり真面目に考えることにした。

 

 食事が再開し、数分。朝食が終了し、食器洗いなど後片付けを済ませ、再度集まって座る。

 


「さて、ミスティの食事に関しては後にするとして、ヨル、少し話したいことがあるんですが?」

「何じゃ?」

「ミスティに聞きましたよ、何でも、蛇王蛇法で着替えをしてあげたそうですね」

「――ッ!?ミスティ!約束したではないか!あのことはライトには言わぬと!」



 ライトの言葉を聞いたヨルは、音を立てて立ち上がり、心底驚いた顔でミスティアナを見る。如何やら失敗しているが裏工作をしていたようだ。

 ヨルの視線にも欠片も動じず、ミスティアナは悠然としている。



「私はマスターの奴隷です。幾らヨル様のお願いと言えど、マスターの言葉よりは優先されません」

「ぬおぉ……」

「へぇ、ヨル、ミスティに話さないように言ったんですか」

「あっしまっ、違うぞライト、我はそんなことして――」

「――言い訳は良い!」



 見苦しく、既に言葉にしたにも関わらず誤魔化そうとするヨルに痺れを切らし、今度はライトが立ち上がる。そしてビシッ!と文字が出ていそうな程の勢いでヨルに人差し指を向けた。



「蛇王蛇法で出来たなら、僕の"三か月"の苦労と羞恥を返して欲しいです!僕がミスティの契約者だからって理由で断り、『着替えられないミスティの着替えを僕にやらせた』のヨルですよね!!」



―――はい、一旦ストップ。

 ここで時を戻そうか、あのオークションの直後、三か月前へと。

 諸々抱いているであろう疑問は全て置いておいてですね……楽しみましょう。

 それでは、



 第2章 黒蛇白塗To無窮戦陣

―――Read Start.



◆投稿

次の投稿は10/19(水)です。


◆作者の願い

『面白い』,『続きが気になる!』と思った読者の皆様へ。

後書き下の「ポイントを入れて作者を応援しましょう!」から、評価『★★★★★』をお願いします!

その他『ブックマーク』,『感想』に『いいね』等々して頂けると、大変励みになりますので!



□■□■□



◆蛇足

語り部「第二章開始であります」

蛇の王「何じゃその喋り方、気持ち悪いぞ」

語り部「……ストレートなのな、まあいいか。それにしてもこの一週間長かったぜ」

蛇の王「多分それお主だけじゃぞ……で、設定系の投稿は?」

語り部「おい、触れるなその話題に、途中まで完璧に作ってたのに、重大な欠陥に気付いて一から作り直してるせいで、投稿できなかったなんて知られたら不味いだろ……」

蛇の王「うむ、全部言っておるな」

語り部「それに――」


語り部は作者によって一時的に削除された。

蛇の王は、小さく「それ見たことか」と呟いたとか。



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