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黒塗の八岐大蛇 ~負けれない少年は、人道外れでも勝利をもぎ取りたい~  作者: 白亜黒糖
基章 作中内容の一覧と気紛れの番外編 ※ネタバレ注意
6/250

S-V ライト・ミドガルズが普通にチョコレートが食べられない日

バレンタイン番外編です。



【ミスティアナの場合】



「マスター、今日はバレンタインという祝日のようです」

「はい、そうですね」

「思い人に感謝や愛を菓子と共に伝える日だと、ヨル様が言っておりました」



 ある日の早朝、ミスティアナがそんなことライトに言う。

 即座に先を予想し、率直に感じた嬉しさと漠然と感じた嫌な予感が、最終的にヨルを恨むという行動に繋がる。



「菓子に最適なのは、チョコレートとなるものだとも聞きましたので、先程ヨル様から材料を提供して頂き、マスターを思ってチョコレートを作りました」

「ありがとう、ミスティ」

「これが、私のマスターへの思いです」



 言葉と共に、彼女が手の平サイズの黒い箱を手渡してきた。

 サイズの割に箱は軽く感じる。だが、箱の上面には金色の文字で、


『I will love you forever.』(訳:私は貴方を永遠に愛しています。)


 と書かれており、サイズの割にかなり重い。

 ライトは、黒い箱の蓋を上に引き抜くようにして、開封する。



(見た目は、綺麗なダークチョコレートというところですね。見た目は、ですけど)



 蘇る、見た目だけクッキーの悪夢。

 箱の中には、一粒の四角いチョコレートが入っていた。

 表面には、蛇の巻き付いた王冠のマークと"Mystiana"という文字が精巧に彫られており、その技術の高さが窺えた。



(ミスティの作るものは、見た目だけは良いんですよね……)



 不安と共に、そのチョコレートを手に取り、



「いただきます」

「どうぞ、マスター」



 口の中へと運んだ。特段違和感のある硬さや食感は無い。

 歯で砕くと、カカオの風味が広がり、ライトは顔を歪めないように耐え、咀嚼を続けた。



(うん、これ、チョコレートじゃなくてカカオマスですね。強いて言うならばカカオ分100%チョコレート)



 一番最初に感じたのは苦味、というかずっと苦味と風味しか感じていない。



(砂糖などは恐らく一切入っていない。ただカカオニブを磨り潰して固めただけの物。甘さの欠片も無い。けど――)

「――うん、美味しいです」

「そうですか……」



 前とは違い、今回は本当の意味で本心を口にしていた。

 ミスティアナは、嬉しさを隠そうともせずライトを見ている。



(別に苦いだけで、それ以外はしっかりとしてます。不快に感じれるものもない。これは全然美味しいです)



 あの見た目だけクッキーと比べれば、食べ物ではないものを食べさせられているような感覚が無い分、簡単に許容できた。



(それに、ミスティの笑顔に比べれば、なんてことありません)



 相も変わらず拗らせた男である。


 その後、二人はチョコレートの何十倍、いや甘くないのでチョコレートに無い、特別な甘い時間を過ごした。



◆◇◆



【トアの場合】



「ライちゃん!姉さんだよ!」

「お久しぶりですね、トアさん」

「えぇ~、もっと驚いた反応して欲しかったなぁ」



 紅蓮の髪がライトの前を靡き、トアが飛びついて来る。

 久方ぶりに見る彼女は、前と変わらずに緩くて元気そうに見えた。


 ニコニコと持たれかかってくる彼女に、彼は微妙な視線を返す。



「さっき久しぶりって言いましたけど、"その姿では"って意味ですよ。実際には会って一週間も経ってないじゃないですか」

「でもでも~、久しぶりには変わらないでしょ。それにしても……ふへへ~生のライちゃん、良い」



 ライトの言葉を意に介さず、トアはベタべタとくっ付いてくる。

 別に不快でも嫌でもない、寧ろ心地良いのでスルーした。

 すると、彼女が持つある物――モクモクと湯気を立ち上らせるボウルに目が嫌でも行ってしまう。



「それ、何ですか?」

「ああ、忘れてたよ。今日はバレンタインだからね、ライちゃんにチョコレートを渡しに来たんだよ」

「チョコ、レート?」



 恐らく、そのボウルの中身がチョコレートなのだろうが、絶対にそんなことないと否定したくなる。

 湯気が立ち上るチョコレートってそれもう溶けてるだろ。


 トアが、ボウルの中身を見せて来る。



「…………」

「これが私の気持ち、熱々のチョコレートだよ!」

「…………」



 ボウルの中で、どういう原理か分からないが火にも掛けていないのに、グツグツと煮立っている液状のチョコレート。

 ホット・チョコレートやココアなどではなく、ただ溶けた熱々のチョコレートなのだ。

 カカオの匂いが、熱気と共に伝わってくる。


 その意味の分からなさに、ライトは絶句である。

 同時に、目の前の熱の塊のような物体を食べる自分を想像し、逃げたくなった。



「……そ、それ、今すぐ食べなきゃ駄目ですか?」

「うん。さ、スプーンも準備したからさ、食べて!」

「…はい」



 曇りの欠片も無い満点の笑顔を前に、断ることなど出来ず、トアから差し出されたスプーンを握る。

 差し出されているボウルから、スプーンで煮立つチョコレートを掬う。


 スプーン自体に仄かに伝わる熱が恐怖を掻き立て、ボウルへと戻そうとするのを精神で抑えつける。

 きっと今のライトは、酷い笑顔をしていただろう。



「い、いただきます」



 口へ、スプーンを運び入れ、閉じる。

 その瞬間、



「――あっつ"っ!!!!」

「うわぁっ!?」



 舌を熱々のチョコレートが焼き、反射で身体が跳ね上がる。

 そのせいで、熱が口内全体に広がり、被害を大きくした。

 スプーンをボウルへと落とし、床をのた打ち回るライト。



「だ、大丈夫!?ライちゃん!?」

「大丈夫なわけっ、早く水持って来てきてくださいっ」

「す、直ぐ持ってくる!」



 ドタドタと駆ける音が聞こえる。

 本当は、水魔法で直ぐに水を出せばいいだけなのだが、焦っている時は思考が上手く回らない為、仕方ない。


 数秒で遠ざかった足音が近付いて来た。



「持ってきたよライちゃん!!」

「ありがっ――うがっ!?」



 強引に首が持ち上げられ、口に強制的に水が流し込まれる。


 視界に映るのは、心配した様子で無駄に大きい水球を浮かせ、それを操って口の中へ入れているトアの姿。

 魔法を使っているのだろうが、余りにも精度が悪く、ライトはびしょ濡れだ。

 火に特化している彼女は、やはり水魔法の扱いが苦手のようである。


 数十秒間、その拷問のよう時間が続いた。



「げほっごほっ、う"っ……んな、何してくれるんですか……」

「ご、ゴメン、そんなに熱いとは思って無くて」

「そっちじゃありません、水の方ですよ!溺れるかと思いました!」

「え、そっち!?」

「確かにチョコレートは熱かったですけど、それよりもです!これからお説教ですよ」

「ら、ライちゃん、顔が怖いよ……」



 流石の事態に怒ったライトは、彼女への説教を行うことに決めた。



「服も濡れてしまいましたし、本当に……逃がしませんからね」

「お、お手柔らかに……」



 長時間、説教は行われ、それが終わる頃には、すっかりチョコレートは冷えていた。

 冷めて初めて分かったのだが、チョコレートはしっかりと甘かった。



◆◇◆



【ソヨ・ラビットニアの場合】


 ギルドマスターの執務室にて、机にもたれかかっているソヨ。



「ライくん、今日は何の日か分かる?」

「はい、バレンタインですよね」

「そう、Valentine's Dayだよ、ライくん」

(何でそんな発音良く言うんですか)


 

 急にギルドに来るように言われたので、取り敢えず来たライト。

 何かの緊急事態かと思えば、こんなことを言われ、拍子抜けした。


 少し呆れた様子の彼を見た、ソヨの目が変わり口が蠱惑に歪む。



「当然、呼んだ意味、分かるよね?」

「……ソヨさんがチョコレートをくれるということですか?」

「さぁ?どうだろうねぇ」

「え?」



 状況から予想して、少し自惚れた解答をすると、予想外の言葉が返って来た。

 流し目が、妙に色っぽく感じれる。


 ライトとソヨの関係は、かなり長くなっており、親しい以上と言えるので、てっきりそのまま貰えるかと思ったら、そう甘くはないらしい。

 


「っ……そういうことで、呼んだんじゃないんですか?」

「どうかな?全く別の用かもしれないよ?」

「ソ、ソヨさんっ!」

「何さ、私のこと呼んで」

「いや、あのっ、だから……」



 ソヨの掌の上で踊らされている気がして、釈然としないが、今までもこの手のことには勝った試しがない為、動揺してしまう。

 既に彼女も分かり切っている筈なのに、胸の内の好意を覗かれている様で顔が熱くなる。


 あたふたと恥ずかしがっているライトをソヨは、ニヤニヤと眺めている。



「そんなに、私のチョコ、欲しいの?」

「その……まぁ……はい……」

「声が小さくて分かんないなぁ、しっかり大きな声で言ってくれないと」

「くっ……」

(本当に、ソヨさんは……本当にっ)



 聞こえている筈なのに、敢えて言っているのが分かるからこそ、ライトは恥辱に顔を歪めた。

 彼女の、悪癖からの言葉に、遂に彼は負けた。



「――もうっ!はい、そうですよっ!!僕はソヨさんが大好きですからっ!!ソヨさんのチョコレートが欲しいですっ!!それはもう欲しくて堪りませんっ!!」



 半ば無理矢理に言い放たれたその言葉は、声の大きさもあり、良く響いた。


 それを聞いたソヨは、というと。



「ふえっ……っぁ///……ちょっと、そこまでは求めて無かった、かな。でも、うん……嬉しいよ、ライくん」



 想像以上だったようで、ライト同様に顔を紅くしていた。

 若干手で顔を隠している辺り、本当に相当効いているようである。


 双方が色々と受けて、行動が出来なくなって、数十秒経った。



「ごめんね、ライくん」

「いえ……何も問題ありません……」

「それより、はい。これが、私からライくんへのチョコ」



 まだ完全に熱が抜け切っていないが、会話出来るだけ復活した二人は会話を再開した。


 白い長方形の箱が差し出されたので、ライトはそれ受け取る。

 黄色のリボンで装飾がされており、兎の模様も描かれている。全体的にソヨらしいと言えた。



「開けても、良いですか?」

「うん、良いよ」

「それじゃあ……これは」



 箱の中には、白と黒のチョコが合わせて八つ入っていた。

 如何やら普通のチョコレートではないように見える。



「シンプルなチョコにしようかとも思ったんだけど、それじゃやっぱ気持ちが伝わらないかなって思ってさ。ちょっこっとだけ違う物にしてみたよ」

「仄かに、フルーツ系の匂いがします」

「その通り、ドライフルーツが混ざってる、フルーツチョコだね」



 そう言いながら、ソヨは箱の中から白いチョコレートを手に取り、



「あ~ん」

「えっと……」

「あ~ん」



 口へと運ぼうとしてくる。

 また顔が紅くなっているところから、彼女も恥ずかしい様だ。「恥ずかしいから早くして」という心の声が聞こえてきそうな程。

 だが、同時にライトも恥ずかしいことを彼女は理解していない。


 刹那の時を経て、ライトは、覚悟を決めた。



「あ、あ~~ん」

「お、美味しい?」

「……はい、美味しいですよ」

「そう、良かった……もっと、食べる?」

「当然です」

「ふふっ、仕方ないなぁ」



 そんなこんなで、気恥ずかしさを感じながらも、二人は甘美な一時を共にした。



◆◇◆



【ヨルムンガンドの場合】



「ライトよ、今日は――」

「――バレンタイン。ですよね」

「むぅ、流石に分かるか、どうせ他の女からもチョコを貰ったのじゃろう?」

「まあ、はい。否定はしません」

「別に、それは我が攻める様な事でもない、気を張らなくて良いぞ」

「それはありがたいです」



 月が昇り、夜が満ちる時。

 つまりは、一日の終わりにヨルが問い掛けてくる、のを予測したライトが答える。


 既に一日の間に何度も同じことを聞かれているので、流石に分かってしまった。

 それに対して、ヨルは怒るでもなく肯定した。

 きっと彼女ならば、ライトが誰からどれだけのチョコレートを貰ったかなど、既に把握してる筈なのだから。



「用件は、分かっておるな?」

「ヨルもチョコレートを、ということですね」

「そういうことじゃ、今日は特別にミスティにも夜を空けて貰うように言った。今夜は二人きりだぞ」

「久しぶり、ですね。本当に」

「ああ、最近はずっと三人で過ごしていたからな」


 

 色々な都合と思惑、それに欲望が混ざり合った結果、殆どの時間を三人で過ごしていた。

 だからこそ、それぞれが二人きりになると言うのは、嘘でも無くかなり久しぶりなのだ。


 ヨルが一つの小皿を虚空から取り出す。



「これが我のチョコじゃ」

「ホワイトチョコレート……ですけど、何か凄い精巧ですね、これヨルですか?」

「うむ、ミニチュアな我のホワイトチョコじゃ!」



 小皿の上には、口の中に容易に納まるサイズだが、異常な程に精巧に蛇形態のヨルを模したホワイトチョコレートが置かれていた。

 その食べるのが勿体無いと思ってしまう美しさに、無意識にも顔を近付けてそれを見入ってしまうライト。



「流石ヨル、相変わらず大雑把に見えて器用で、料理上手ですよね」

「大雑把に見えては余計じゃ」

「すみません。でも、これ食べるの勿体無いですよ、こんなに綺麗なのに……」

「どれだけ精巧であろうと、芸術的であろうと、美しくあろうとも、食べ物である以上、食べられる運命にあり、その儚さこそ料理の良さと言えるのではないか?少なくとも我はそう思っているぞ」

「そう、ですよね」



 案の定、その凄さに食べることを躊躇うライトに、ヨルが諭す。

 名残惜しさはあるが、彼女の言う通りなので彼は仕方なく食べることに決めた。

 そして、チョコレートを手に取ろうとすると、小皿が引かれ、手が空を切る。



「え?どうしてですか、ヨル。食べたいんですけど」

「フフッ、これには唯食べるよりも美味しい食べ方があるのじゃよ」

「それはどういう――おわっ!?」



 一瞬の内に放り投げられ、ベットに転がされる。

 脳裏に、嫌な想像が浮かぶ。


 目の前には、何時の間にヨルが移動しており、腕と脚でベットに押し付けられる。

 よって、回避と逃亡が不可能になった。



「いつ何度でも、この状況は興奮するな。お主を征服しているような、そんな状況が心地良い」

「ようなじゃなくて、実際に征服してますよ。僕これ以上もう抵抗できませんし」

「それにしては、冷静なように見えるが?」

「僕が冷静?何を馬鹿なことを」



 先程から、心臓の鼓動が五月蠅くてライトは思考が纏まっていない。

 また、既に脳内に刻み込まれた愛欲と快楽が身体に力を入れることを、抵抗を許さない。

 


「そうかそうか、では楽しむとしよう――っ」



 言葉の後、ヨルがホワイトチョコレートを口に含む。

 それだけで、何をされるのかライトは理解してしまった。


 彼女の顔が近付いて来る。



「ちょ、ヨルまさかっ、待っ――」



 言葉が聞き入れられることは無かった。


 唇が重ねられ、同時にチョコレートごと強引に舌が彼の口内に捻じ込まれる。

 チョコレートと唾液の混ざった、思考を鈍らせ脳を麻痺させる甘さが襲ってきた。

 いつもよりも激しく絡められる舌が、理性と正常性を溶かしていく。


 口内を愛撫されること数分、キスが終わり、舌が抜かれる。

 蕩けた目をするライトは既に出来上がっていると言え、ヨルしか見えてない。



「やはり、我が婚約者だ、良い顔するな。まあ、チョコに入れておいた"薬"の効果もあるじゃろうが」



 ヨルがライトに食べさせた、いや一緒に舐めたホワイトチョコレートは唯美しいだけの物では無かったのである。

 口に出すのも憚られるような薬の数々が入れられていた。

 その為、普通に食べるとその時点で味が変なので直ぐにバレてしまう。

 だからこそ、ヨルは口移しのような方法を取ることで、味覚を麻痺させて誤魔化したのだ。



「さて、楽しむとしようか、なあライトよ」



 その交わりは、バレンタインという日が終わっても尚、続いた。



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